*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部で付したことをお断りします。
◆台北市内と桃園空港間のMRT開通
台湾はグルメ、エステ、絶景などの観光地として世界中から観光客が訪れています。先週お届けしたように、台湾の民泊が過剰気味なのは、世界からの観光客の多さにも起因しています。
そして、宿泊のほかに観光に欠かせないのが交通です。現在、台北市内および桃園国際空港まではMRTが開通しており、かなり便利になりました。MRTが整備されるまでの主な交通手段はバスだったことを考えれば、ずいぶんと便利になったものです。
特に中国語を話せない外国から来た観光客にとって、現地のバスに乗るは結構大変なことです。もしも行き先の違うバスに乗ってしまったら、それこそ路頭に迷ってしまう危険もありました。ただ、台湾はタクシーが日常的に利用できる料金ですので、観光客のみならず、地元の人々もタクシーはよく利用しています。MRTが便利になった今でも、タクシーは庶民の足としてまだまだ活躍しています。日常的にタクシーを利用しない日本とは、その点が大きく違うところでしょう。
逆にタクシー運転手からすれば、大都市におけるMRTの拡大は客足を奪うライバル的存在です。もともと、多くの人が足替わりに頻繁に利用できるように安く設定されたタクシー料金でしたが、客の多くをMRTに奪われてしまったのでは商売が成り立ちません。それに加えて不況のあおりを喰ったサラリーマンが、タクシー運転手に転身するケースが増えており供給過多となり、需要と供給のバランスが崩れてしまっているのです。
◆スマホアプリの配車サービスで様変わりする台湾のタクシー
このタクシーを取り巻く環境も、ネット社会の進化によって大きく変ってきているようです。数年前から、タクシーの配車をスマホアプリでできるようなシステムが台湾でも登場しています。アプリの種類は、「台灣大車隊55688」「Easy Taxi」「Taxi go」などいくつかあり、どれもサービス内容は同じようなものです。中でも多く利用されているのは「台灣大車隊55688」ではないでしょうか。
これらはあくまでも配車サービスであり、タクシーを呼び出して目的地まで連れて行ってもらうサービスです。利用者が増えているのは、車を手配してから迎車までの時間が5〜10分程度と、待ち時間が少ないことも大きいのですが、特に観光客にとって便利なのは、出発地と目的地を事前入力するために、中国語ができなくても行き先を伝える際の苦労がないという点です。
また、ライン経由で予約する場合は、友人と配車のやりとりの内容をシェアできるため、自分が今どこにいるかが友人にも明白に伝えることもできます。さらに、目的地までの経路を指定することができるアプリもあるため、ドライバーが故意に遠回りをして運賃を上げるような行為を防止できます。
日本ではこうした違法行為はあまり聞きませんが、台湾や中国ではよくある話です。さらに言うと、タクシードライバーによる連れ去りなどの犯罪防止にも役立ちます。これらのメリットから、台湾でもタクシー配車アプリは徐々に広がりを見せていますが、台北などの都市部では流しのタクシーがとにかく多いため、配車アプリを使うまでもない場合も多くあります。
ただ、都市部でも雨の日やコンサートなどのイベント会場などで、タクシーがつかまりにくい場合は便利でしょう。
ちなみに台湾のタクシー最大手、台湾大車隊と京都のタクシー大手MKグループは、2016年度中にも両社のスマートフォン配車アプリを連動させ、日本と台湾の間で、現地で使っていたアプリで渡航先でもタクシーが呼び出せるようにする予定だそうです。
ところで、タクシー配車アプリといえば、「ウーバー」が有名でしょう。もちろん台湾にもやってきました。ただ、台湾では「ウーバー」はなかなか苦戦しているようです。台湾は、基本的に日本同様に白タクが禁止です。タクシー業界を守るために、タクシーとして許可を得なければ営業することができません。今のところ日本でも、タクシー業界の規制によりウーバーは締め出されている格好です。
台湾も同様で、ウーバーは2013年に台湾に進出し、ユーザー数は100万人を超えましたが、政府から事実上の白タク行為と問題視され、罰則が強化されたことなどを受けて、サービスを一時停止していました。その後、レンタカー事業者との提携により再開。さらに、タクシー業者と提携して、利用者の増加を目指しています。
白タク行為で問題なのは、事故が起きたときの責任の所在や保障があいまいな点です。もちろん、許可を得て営業しているタクシー業界も大打撃を受けてしまいます。このあたりは、利便性を求めるか、安全性と業界保護を優先するか、難しいところでしょう。
とくに日本では、中国人観光客を狙った、中国人による白タク行為が非常に問題となっています。中国本土から予約して、空港送迎、観光地案内などを行う違法な白タクが横行しています。
◆中国人対策を強化せざるをえなくなった日本と台湾
こうした状況に危機感を持った北九州を地盤とするタクシー国内最大手の第一交通産業は、タクシー配車と相乗りサービスで世界最大手の中国・滴滴出行と、2018年春にも東京都内で配車アプリを使ったサービスを始めることを打ち出しました。
13億の人口を抱え、タクシーが捕まりにくい上海などの中国都市部では白タクが解禁されており、滴滴出行も中国では白タク配車を行っています。しかし、そこまで需要が逼迫していない日本で、違法白タクが横行すればタクシー業界は大打撃です。
そこで、第一交通は滴滴出行と組み、正規のタクシー配車を行うことで、白タク被害を防ごうというわけです。中国人が他国でルールを守らないための防衛策ですが、これが新たなサービスと利益の向上に資すれば何よりです。
中国人のマナー違反は迷惑以外の何物でもありませんが、それを撃退するための方法が、思わぬ副産物を生むことも期待できます。
日本も、都心以外の地方では流しのタクシーを捕まえにくい状況があるのは確かです。そうした不便さを配車アプリが解消してくれる可能性もあります。海外でこれら配車アプリを、英語、日本語、中国語対応のものと適宜選んで使えば、旅のプランを大きく変えるほどの時間の短縮につながります。観光客にとって配車アプリは観光に欠かせないツールの一つになりつつあります。
台湾は世界のビジネス環境ランキングにおいて上位に入るようになり、確実に先進国となりつつあります。特に老人に対する福祉の充実ぶりは、世界のなかでも突出しています。新幹線のシルバー料金は驚くほど安く、中国人観光客が偽装老人としてその制度を悪用するケースも出てきているため、対象者は台湾国籍に限定されるようになりました。やはり台湾も日本同様、中国人対策を強化せざるをえなくなっています。
それはともかく、台湾社会は一歩ずつですが確実に成熟している一方で、美麗島と言われた美しい自然景観も保たれています。そんな台湾の両面を旅するためには、配車アプリを使って時間を有効利用するのもひとつの方法です。