中国・台湾のTPP加入申請で風雲急を告げるアジア情勢  黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2021年9月23日】

*原題は「中国・台湾のTPP加入申請で風雲急を告げるアジア情勢、日本の次期総理が鍵となる」でしたが、本誌 掲載に当たっては「中国・台湾のTPP加入申請で風雲急を告げるアジア情勢」としたことをお断りします。*読みやすさを考慮し、小見出しは編集部が付けたことをお断りします。

◆TPPは中国包囲網の一環としてアメリカが提唱

 9月22日の晩、台湾がTPPへの加入申請することを表明しました。台湾がTPP協定の保管国であるニュージーランドに対して申請書を提出したことにより、ニュージーランドは残りの加盟10カ国に伝達することになります。

 9月16日には、中国がTPPに加入申請していました。台湾当局は否定していますが、このことを受けて、台湾側も加入申請を急いだものと見られています。

 とはいえ、中国は経済も情報も統制しており、しかも国営企業に補助金を出し、国家のバックアップによって他国企業を買収したり、国際市場を支配したりしてきました。そうした不公正なやり方が、アメリカをはじめとする自由主義国の反発を生んできたわけですから、TPPに入る資格があるはずもありません。

 一方の台湾は民主主義国で自由主義経済です。マスコミについては国民党の影響力がまだ強いものの、自由時報など反国民党のマスコミもありますから情報の自由度も高く、どちらがTPP加入にふさわしいかは言うまでもありません。

 しかも、中国は経済をつかって他国への締め付けなどをさかんに行っています。政治的な理由でオーストラリアのワインや台湾のパイナップルなどを輸入禁止にしたことは記憶に新しいところです。

 中国がTPPに入ったところで、自由で開かれた市場をつくるといった約束を守るはずがないのは明らかです。

 オーストラリアなどは、中国の加入申請について、オーストラリアに対する制裁関税を解かない限り交渉には応じられないという立場をさっそく表明しました。

 もちろん中国側も、TPP加入などできるはずがないことはわかっていて、あえて、加入申請してきたことは間違いありません。そもそもTPP自体が中国包囲網の一環としてアメリカが提唱してスタートしたものです。中国としてはその結束を乱して分断すること、そして台湾の加入を牽制することが目的でしょう。台湾が申請する前に、くさびを打ち込んでおこうというわけです。

◆蔡総統とのリモート会談で高市議員は台湾のTPP加盟を支持

 しかし、台湾にとって強力な援軍が現れました。自民党総裁選の候補の一人である高市早苗議員です。

 9月20日、高市早苗氏は台湾の蔡英文総統とオンライン会談を行い、台湾のTPP参加支持を明言しました。

 産経新聞の報道では、蔡英文総統が「台湾はTPPのように高い水準にあるマルチラテラルな貿易協定に加盟するための十分な能力を持っています。高市議員および日本の友人たちには、TPPのようなさまざまな自由貿易協定に台湾が加入できるように、積極的に支援してほしいと思っています」と発言したのに対して、高市氏は「TPP参加の前提となる諸問題を解決することも含めて、日本は参加を支持し、それに向けてできる限りの支援をしたいと思っております。また、TPPの参加ばかりではなく、以前より取り組んでいるWHA(世界保健総会)、ICAO(国際民間航空機関)、ICPO(国際刑事警察機構)といった、国際舞台・国際社会における台湾のご活躍を推進し続けて行くつもりでございます」と答えたと報じています。

 高市氏が自民党総裁、そして日本の総理大臣になれば、日本は台湾のTPP加入はもちろん、中国の反対で参加できていない国連機関への参加も後押しすることは明らかです。中国としてはかなり警戒していることでしょう。

 もちろん、こうした台湾支援の姿勢は、政府関係者では高市氏だけではありません。

 自由時報は、NHKの報道として、日本の外務省関係者が台湾のTPP加入に肯定的な反応を示したと報じました。加えて、アメリカを訪問中の茂木外務大臣も台湾の加入申請について「歓迎したい」と語りました。

 その一方で、中国の加入については、麻生財務大臣が「中国が新規加入できる状況か」「ルール通りやるのは本当かという話になるんじゃないか」と疑問を呈するなど、否定的な声が多数上がっていますが、それも当然でしょう。

 しかしながら、マレーシアや、日本でも大商会頭が中国の参加に歓迎を示すなど、思惑の違いも見えつつあります。こうした分断こそ、中国の狙いでしょう。

 台湾の加入申請に対して、中国の人民日報系の環球時報は、「●乱!(攪乱)」という見出しをつけた上で、中国の台湾事務弁公室の報道官が、「台湾、中国の地域経済協力への参加は、一つの中国の原則を前提としなければならない」「主権的な意味合いを持つ台湾との協定を公式に交渉することについては断固反対する」と述べて反発したことを報道しました。

 この発言からも、中国のTPP加入申請は、台湾の加入を阻止するためのものであることがわかります。

◆鍵を握る次期の日本国総理大臣

 それと同時に、日本の台湾への肩入れについて、中国はかなりナーバスになっています。9月22日の朝鮮日報は、「台湾が脅威にさらされるや日本はすいすいと再武装…中国『介入時には日本本土を攻撃』」という記事を掲載し、中国の専門家の話として、「日本は台湾有事の際にためらうことなく参戦するだろう」とのコメントを掲載しました。

 米英豪の新たな対中安全保障体制であるAUKUSも、南シナ海や台湾有事に備えた枠組みであり、インド・太平洋地域におけるパワーゲームが急速に新たな局面を迎えつつあります。

 やはり、次期自民党総裁、そして日本国総理大臣が誰になるのかということが、非常に大きな鍵となってくるでしょう。中国の覇権主義や人権侵害を容認して中国に飲み込まれていくのか、それとも自由主義国の連携を強化し、恐怖政治や圧政、反自由主義に対抗していくのか。非常に大きな争点としてクローズアップされてきたと思います。

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