た石川公弘理事(石川台湾問題研究所代表、高座日台交流の会事務局長)が、11月6日から
自分のブログ「台湾春秋」でその感想をつづられています。
感想は5回に分けられ、「李登輝さんと夕焼け小焼け」(11月6日)、「李登輝校長修業
式の挨拶から」(11月7日)、「台湾戦後世代の日本観」(11月8日)、「台湾が守るバーシ
ー海峡の自由航行」(11月9日)、「中国は台湾の李登輝に学ぶべし」(11月11日)となっ
ていて、それぞれに的確に研修内容がわかるようになっています。
今回はその最終回(5回目)の感想をご紹介します。 (編集部)
■ブログ台湾春秋 http://blogs.yahoo.co.jp/kim123hiro/archive/2005/11/6
中国は台湾の李登輝に学ぶべし−台湾李登輝学校研修団感懐(最終回)
第3回台湾李登輝学校研修団団長 石川 公弘
最終日は、李登輝校長自らの講義である。李登輝校長は「いま台湾も日本もふらふらし
ている。不安定である。国家的な苦難のときにある。国として団結が必要である。人民が
期待している指導者とはいかなる者か、強い指導者には何が必要か。一方、国民にも「私
は台湾の中の私」、「私は日本の中の私」がなければならない。
そして李登輝校長は、自身の人格形成の過程を実に率直に、事細かに話された。李登輝
氏は、人生における二つの大事なことを、15歳か16歳の時から考えていた。一つは自我の
問題。もう一つは死の問題。早くから自我意識が強く母親を心配させていたという。
座禅や苦行を通じて、自我制御を学んだ。自我を捨てようとして、人の嫌がる便所掃除
までした。死とは何かも真剣に考えた。そして死の最も重要な意義は、「如何に生きるか」
に尽きると考えるようになった。死を真剣に考えて、初めて肯定的な意義のある生が生ま
れる。立派に生きることができれば、死を怖れることはない。
しかし第二次世界大戦後、焼け野原と化した日本は何もかも破壊され、生活物資は極端
に乏しかった。魂よりも食料問題、環境問題が大事だった。大きな社会変動を見て大きな
感慨を覚え、それから10年間は、唯物論の思想を遍歴した。社会主義への憧れも湧いてき
た。だが社会経済が復興し、基盤整備が進むと、逆に心の虚しさを感じ、精神的な安定と
満足を求めるようになった。
李登輝氏は、自我の克服、生死問題の探求、終戦後の唯物論への転換と遍歴を経験した
のち、ついに神の存在を探し始める。5年間をかけて、週5日、台北市内の数多くの教会
を訪ね、神を探し回る。そして「私はだれだ」と問い続ける。そして「私とは私でない私
、自我を徹底的に排除した私」だと気づく。ここに到着するまで、実に35年間以上の時間
がかかったという。自分の思想遍歴を、かくも率直に語る指導者の姿に、私は非常な親し
みを覚えた。
李登輝さんの自分探しの旅は、厳しい求道の旅とでも言えるもので、凡人の私などの理
解の限度を超えている。しかし私は、このように自己に厳しい人であって、初めて汚辱に
まみれた中国国民党の政権構造から、新生台湾をスタートさせることができたのだと思う
。自分が私欲にかられていたのでは、あのような見事な改革はできなかったはずだ。
自分に私欲がなければ、他人に私欲を捨てさせることができる。李登輝さんの国民党政
権の構造改革は実に見事なものであった。民主の理想をあの汚泥の中に花開かせた。その
実践力、行動力こそ、多くの人が賞賛して止まないものである。「国を治める者、まずそ
の身を修める」という格言を正に実践した例と言えるのである。こう書いてくると、かた
苦しい授業の印象を与えるが、実際は和気あいあい、教場はしばしば笑いにつつまれてい
た。
この授業より前に、私は台湾で李登輝革命のドキュメント映画を製作しているクルーの
質問を受けた。質問は2つあった。第1の質問は、なぜはるばる台湾まできて、李登輝学
校に学んでいるのか。李登輝さんのどこに魅力があり、どのような面を評価するのかとい
うことだった。それに対して私は、李登輝さんに見られる徹底的な理想追求の姿、その理
想を現実の中で実践する行動力、実行するに当っての命懸けの勇気、それらの裏にあるこ
の大人物の人間的やさしさの4点をあげた。講義を受けて、その感をますます深くした。
第2の質問は、李登輝平和革命から、あなたは何を学ぶかというものであった。私は李
登輝前総統の台湾無血革命から、多くのものを学ぶことができるが、今この無血革命を一
番に学ばなくてはならないのは、汚毒にまみれている中国共産党政権であり、その下で苦
吟している13億の民衆ではないかと答えた。とっさに出た答えだったが、後で考えても自
分ながらいい回答だったと思う。
銃口から生まれた政治権力が、その人脈を利用して企業経営も行い、その企業が公害に
よって自然を汚染しても、賄賂でもみ消したり、政治権力でそれを抑えたりしてしまう。
司法も見て見ぬふりをする。司法までが、汚職の対象になる。人民に耳はあっても口はな
い。その共産党政権は、口を極めて李登輝氏を罵っているが、自ら省みることはない。罵
る代わりに、謙虚に学ぶのが人民の為だと思うが、不可能なことであろう。
(11月11日付「ブログ台湾春秋」より転載)
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