中国のフェイクニュースに汚染される日本  黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2019年6月25日号】*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部で付したことをお断りします。

◆言論の自由を逆手に取る中国のフェイクニュース

 2019年5月、台湾では災害時にフェイクニュースを流した者に対して、最高で無期懲役を科すことができる法律を可決しました。

 2018年9月、台風による浸水被害で関西国際空港が麻痺状態になり、多くの旅客が一時的に関空に取り残されるという事態になりましたが、このとき、中国では「中国総領事館がバスをチャーターし、空港に閉じ込められた多くの中国人たちを優先的に避難させた。中国は偉大だ」という自画自賛のニュースが駆け巡りました。

 これに対して、台湾のネットでは、「なぜ中国にはこのような行動ができて、台湾はできないのか」と、台湾の駐日大使館(駐日代表処)を批判する声が飛び交い、これに台湾のメディアや国民党も呼応して、蔡英文政権攻撃の材料にしました。

 その結果、台北駐大阪経済文化弁事処(領事館に相当)の蘇啓誠(そ・けいせい)処長が自殺に追い込まれるという痛ましい事件が起こりました。しかも、「中国総領事館がバスをチャーターして中国人を優先的に避難させた」という事実はなく、まったくのフェイクニュースであったことが判明しました。

 この事件については、以前、このメルマガでも取り上げています。

 これを教訓として、台湾では災害時のフェイクニュースを罰する法律が成立したわけです。もしもそのフェイクニュースが原因で死者が出れば、発信者は無期懲役になる可能性もあります。

 フェイクニュースは、民主主義にとっては非常にやっかいなものです。民主主義にとって言論の自由や情報公開は選挙民の選択を左右するきわめて重要なものですが、それを逆手に取って、フェイクニュースを流すことによって選挙行動を捻じ曲げてしまうことが可能になるからです。

 台湾の蔡英文政権も、中国発のフェイクニュースが台湾で拡散していることに強い警戒感を示しています。とくに来年は台湾国政選挙ですから、一層の注意が必要です。

◆中国のフェイクニュースに汚染され続けてきた日本

 一方、私から見ると、日本はつねに中国のフェイクニュースに汚染され続けてきた国です。昔から日本の漢学者、朱子学者、東洋学者、シナ学者は中国を「聖人の国」「道徳の国」などと言って持ち上げてきましたが、彼ら自身が中国のフェイクニュースに感染し、自らもフェイクニュースを拡散する役割を担ってきました。

 日本人が中国を見誤る背景には、表意文字としての漢字・漢文がきわめて虚飾的で、「あるべき」という主張が「ある」「あった」と誤読されやすいことも一因としてあります。

 ことに戦後は、社会主義の中国を極端に礼賛し、「中国にはハエも蚊も泥棒もいない」といって賛美した進歩的文化人や中国学者がたくさんいました。

 現在ですら、中国のプロパガンダに乗せられて、中国側の歴史認識こそが正しく、「戦前の日本は中国で虐殺の限りをつくした」と思い込んでいる人も少なくありません。

 シナの国は昔から「ウソの国」でした。とくに歴史的に有名な嘘つきは、孔子と司馬遷です。孔子は紀元前5世紀、司馬遷は漢の武帝の時代の人物でありながら、甲骨文字以前の上古を現在をもって憶測し、ウソをばら撒きました。

 孔子などは周人になりすまし、臨終の際にようやく弟子たちに「自分は殷人だった」と自白しています。

 中国古代史の大家・顧頡剛(こ・けつごう)によれば、諸子百家の時代、自分の論に箔をつけるために古代聖人の話をでっち上げて自説を仮託することが流行したといいます。これによりウソが文化風土になっていきました。

 中国には「すべてがウソ、詐欺師のみが本当」という俗諺がありますが、かつて朱鎔基首相も中国にウソが蔓延していることを嘆いていたことは有名な話です。

 「すべてがウソ」になる理由は、古代から「嘘をつけないと生きていけない」というのが黄河文明の生存条件だったからです。

 その元凶のひとつが、前述した孔子であり、現在も「孔子学院」などは中国のデマを拡散する基地局として象徴的な存在となっています。

◆「中華民国建国」映画はウソだらけ

 私は日本の議員や地方の活動家を台湾研修に案内したことがありますが、国会にあたる立法院では「中華民国建国」の映画鑑賞から始まります。そこでは孫文が白馬に乗って陣頭指揮をとる映像が出てきます。

 ところがこの映画からしてウソだらけなのです。というのも越人の孫文は革命資金の濫用を呉人の章炳麟や陶成章に告発され、革命同盟会が空中分解、追放された形の孫文はアメリカで隠居しているところ、デンバーで見た新聞で初めて辛亥革命が起きたことを知りました。

 革命資金を集めるためにヨーロッパを回って帰国、北京政府の袁世凱に対抗するために、軍事力のない文人としての孫文が支持を得て南京臨時政府の臨時大総統に選出されたものの、孫文は北京政府に南京臨時政府を売り渡したというのが、中華民国史の史実なのです。

 「毒を喰らわば皿まで」という文化伝統からウソが歴史の法則となり、教育はもっぱら愚民化、奴隷化のための道具となってきました。

 中国のフェイクニュースも、こうした愚民を対象としたマインド・コントロールなのです。たとえば台湾でよく言われる「中国と統一すれば、台湾ドルは5倍の価値に急騰する」などという噂もそのひとつです。愚民として教育された人々は、国際的な常識がないため、カネに弱いのも確かです。

 フェイクニュースのことを台湾では「烏龍消息」と呼んでいます。ことに学校教育やマスメディアにフェイクニュースが溢れており、台湾はここ70年にわたり被害者として毒を飲み続けてきました。

 あまりにも害が深刻であるため、2019年5月になって、取締強化のための立法化を果たしたわけです。とはいえ、本当にフェイクニュースを根絶できるかどうかは別問題です。

◆中国の「五毛党」というヤラセ集団

 台湾の「オジサン」と呼ばれる長老たちは、よく台湾人を近代養鶏場のニワトリにたとえます。エリートたちは唐揚げにされるチキンです。戦後約70年、台湾人はニワトリのように飼料で飼いならされ、タマゴを生み、いつ唐揚げにされるかわからない存在だというのです。

 中国では、政府の主張にネット上で「いいね」と賛同するたびに50セント分(約54円)のカネが貰えるというアルバイトをする人たちがいて、彼らは「五毛党」と呼ばれていますが、アメリカCIAの調査では、五毛党のほとんどが政府の役人だといいます。

 ソフトパワーのない中国は、世界各国で情報操作などによる世論工作、いわゆる「シャープ・パワー」を行使しています。しかも、「一帯一路」をふくめ中国の世界戦略のほとんどが、カネで他者を釣るというものです。

 したがって、アメリカの対中戦略としては、中国を兵糧攻めして資金を枯渇させることで、中国の手足を縛ることが重要になってきます。

 近年、日本でも中国人の「爆買い」が話題になりましたが、韓国のTHAAD問題で中国政府が韓国への旅行を禁止・自粛させて韓国の旅行業界を干上がらせたように、政治問題はつねに中国リスクなのです。

◆台湾の観光収入は中国人観光客が減ると増える?!

 中国は台湾でも観光客戦略を展開、台湾経済に影響力を持とうとしました。しかし中国業者は「一条龍政策」、つまりホテル、食事、買い物、バスの手配まですべて中国業者が牛耳ってしまうために台湾にカネが落ちず、一方で世界一マナーの悪い中国人が台湾各地を闊歩するようになって、他の外国人が台湾を敬遠するようになってしまいました。

 台湾観光局の発表した数字には、中国人観光客が減ると、かえって台湾の観光収入が増えるという逆転現象が表れているのです。

 このように、中国と離れると台湾はむしろ活気が出るというのが現状なのですが、日本のメディアはあまり現状確認をせず、中国政府のフェイクニュースをそのまま引用するため、中国についての認識はもちろん、台湾についての認識もよく間違えるのです。

 ネット社会になって、フェイクニュースが流しやすくなったのも確かですが、その一方で、そのウソも長続きせずに、すぐにバレてしまうようになりました。

 日本は神代から「純と誠」を貫いてきた民族です。たしかに相手を簡単に信用するため、「すぐ騙される」というお人好しの部分もありますが、一方で、ウソを忌避するため、世界でもっとも信用される民族でもあります。それが日本の強みでもあります。

 中国がウソつきであることは、世界中で知られています。その一方、日本は世界一信用できる国として信頼度が高いのです。日本人はその強みを活かして、中国のフェイクニュースに対峙していくことで、中国の戦略を無価値化することができると考えています。

◆「逆観法」と「逆読」の勧め

 「中国のウソ」の被害は日本だけではなく、その周辺諸国にとっても深刻です。中国は南シナ海や東シナ海を「数千年前から中国が管理してきた」というウソで自国領だと主張し続けています。

 また、チベット人やウイグル人、モンゴル人、そして消された満州人にしても、「中華民族」などという虚妄の人種を作り上げて、そのなかに無理やり入れられようとしています。

 中国人は思っていることと口にすること、やっていることがそれぞれまったく異なる人種であり、建前と本音を使い分けることにきわめて長けています。

 では、どうすれば中国の本音を知ることができるのでしょうか。私はよく、「逆観法」を勧めています。つまり、中国の言うことのすべて逆が本音だということです。

 じつは、戦前の知名な文士である徳富蘇峰も中国人については「逆読」を勧めていました。「支那人ですから、古典もそのように読むべきです」と語っていたのです。

 やはり戦後の中国学者とは異なり、「先見の明」があります。

 中国のフェイクニュースという「公害」をどのようにクリアするかということは、人類共通の課題でもあります。日本の国会も、フェイクニュースの汚染についてもっと真剣に対応すべきです。


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