【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2021年8月11日】*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部が付したことをお断りします。
◆リトアニアの台湾接近で焦る中国
7月、バルト三国のリトアニアと台湾が互いに代表処(事実上の大使館)を設置することを発表しましたが、これをうけて8月10日、中国外務省はリトアニア駐在の中国大使を召還すると同時に、リトアニアに対しても中国駐在の大使を召還するよう求めました。
これに対して、アメリカ政府のプライス国務省報道官は「報復的な措置」だと非難し、「台湾との互恵的関係を発展させ、中国による威圧的な行動に抵抗する欧州の同盟国を支える」と述べ、リトアニアとの連帯を表明しました。
中国は、リトアニアの台湾接近が台湾と欧州の結びつきを強化することにつながると懸念し、強く反発しています。近年、ヨーロッパ諸国は、自由民主の台湾を支持したり、WHOへの台湾参加に賛成するなど、台湾寄りの姿勢を強めていることもあって、中国は焦っているのでしょう。
しかも、台湾が海外に設置する代表処は、これまで「台北」という呼称をつけていました。日本の代表処は、台北駐日経済文化代表処という名称です。しかし、リトアニアに設置される代表処には、初めて「台湾」の呼称を用いた代表処を設置することになっています。これは、画期的なことです。
◆親日国は親台湾国になる
リトアニアは、1990年に旧ソ連からの独立を宣言しましたが、共産主義の圧政を経験したことから、人権問題を非常に重視することで知られています。今年5月には、中国の新疆ウイグル自治区でのウイグル人弾圧を「ジェノサイド」と認定する決議案を可決し、さらには中東欧17カ国と中国の経済協力の枠組み「17+1」からの離脱を宣言しています。
この「17+1」というのは、中国の習近平主席が主導する経済協力であり、「一帯一路」の建設に向けて各国に投資を約束するものです。しかし、これも「債務の罠」のように、金銭により中国の影響力を強め、西側諸国を分裂させ、さらに国際機関を不安定化させる狙いがあるとされています。このような枠組みから、リトアニアは手を引いたわけです。
リトアニアが旧ソ連から独立したころ、李登輝総統のもとで民主化を進めていたのが台湾です。台湾は1996年に初めて総統直接選挙を行いました。ともに民主化を進める同志として、台湾は1990年代からリトアニアへの支援を行ってきたのです。
ちなみにリトアニアは、親日国でも知られています。有名なのが、「日本のシンドラー」こと杉原千畝がリトアニアの日本領事館で執務しており、ナチスに迫害された多くのユダヤ人を救ったことです。さらには、日露戦争でアジアの小国である日本が大国ロシアを破ったという歴史も、リトアニアの親日感情を高める一因となっています。
また、第二次世界大戦後、ソ連のリトアニア占領がはじまると同時に大量のリトアニア人がシベリアに追放されたとき、生死をさまよっていたリトアニア人を助けたのがシベリア抑留中の日本人だったということも、日本への感謝の気持ちとともに、リトアニア人のあいだで受け継がれているそうです。
そういったエピソードは、元駐リトアニア大使だった明石美代子氏の寄稿文で知ることができます。
パラオなどもそうですが、親日国はまた親台湾国でもある国が多いといえるでしょう。価値観が近いということは、いざというときは金銭的なつながりよりも強いのです。
◆利益誘導や恫喝外交はすでに通用しなくなった世界の意識変化
リトアニアのヤルモネット経済・イノベーション大臣は、7月5日の「Deutsche Welle」(「徳国之聲」)とのインタビューで、台湾に経済事務所を設立したのは貿易のためだけではなく、1990年代から築き上げてきた両国の友好関係の証でもあると指摘しました。
また、台湾がリトアニアをはじめとするバルト諸国の人々がソ連の支配下から自由で民主的な市場経済へと移行する際に支援を行ってきたことを紹介しています。
昨年4月には、台湾がリトアニアにマスク10万枚を寄贈しました。その返礼として、今年8月にはリトアニアが台湾に対して2万回分のワクチン支援を行いました。こうした善意の応酬により台湾とリトアニアの関係は醸成されていったのです。これは日台関係にも言えることです。「債務の罠」や恫喝外交など、恐怖や圧力によって相手を屈服させる中国とは真逆の関係です。
台湾でのリトアニア代表処は年内に稼働する予定であり、リトアニアの外務副大臣によれば、就任式には外務副大臣や経済副大臣が台湾を訪問して出席する可能性があるそうです。
リトアニア外務省は中国の恫喝に対して8月10日、「『一つの中国』の原則に沿いつつ、台湾と相互利益の関係を追求する決意だ」とする声明を発表、まったく引く考えがないことを明らかにしました。
昨年8月、チェコの上院議長ら89人の代表団が台湾を公式訪問したときも、中国は「卑劣な行為」と批判し、チェコの企業に対するピアノの発注を取り消して圧力をかけましたが、チェコはそのような恫喝に屈することなく、今年7月、台湾に対して3万回分のワクチンを提供しました。
もちろん、台湾もチェコに100万枚以上のマスクや防疫物資を寄贈しています。
これまでの蔡英文政権では、中国の圧力により、7カ国と断交する憂き目にあいました。また、中米のホンジュラスやグアテマラなど、台湾と国交がある国は、中国がワクチンを提供する見返りとして、台湾との国交断絶を要求されています。自らがばら撒いた武漢ウイルスを利用した、卑劣な「ワクチン外交」だといえるでしょう。
しかし、香港弾圧、ウイグル弾圧により、世界各国は中国の異常性にようやく気づきつつあります。中国のカネに屈服することは、いずれ自国の主権や国民の人権すら失いかねないということでもあるのです。台湾への支持国、支援国が増えてきていることは、そうした世界の意識変化の一環なのです。
これまで中国は、ギリシャやイタリアに対してカネを使って「一帯一路」に組み込んできましたが、EU諸国ではこれが通用しなくなってきています。
リトアニアはその一例であり、いくら「戦狼外交」や「金銭外交」を行っても、言うことを聞かないどころか、「台湾」の呼称を使われるということは、従来の中国の恫喝や利益誘導のやり方が通用しなくなっていることを意味します。
◆変化する台湾と日本の外交
一方、台湾では、カネで国交を買うことをやめ、アフリカや太平洋の島国に偏った外交から全方位外交へと変化しています。ことに民主・自由・人権などの価値観を掲げ、自由主義諸国の最前線に立つ覚悟で望むようになっているのです。
日本も変わりつつあります。それは安倍総理の時代の外交努力もありますが、菅総理の代になると、日米首脳会談において台湾が日本の安全保障と「一蓮托生」であるという認識を示しました。
このように、中国に対する反発は、ますます拡大しています。東京五輪が終わったことで、欧米では来年の北京冬季五輪に対するボイコット論が高まりつつあります。7月にはEUの欧州議会が、中国の人権条件が改善されない限り政府代表の招待を断るよう加盟国に求める決議を採択しています。
中国は、リトアニアの行動がさらにEUを刺激し、反中感情が激化していくことを警戒し、さまざまな嫌がらせをしてくることが予想されます。中国はリトアニアを人口約280万人の小国と侮って、恫喝しているわけですが、そのような脅しは中国自身の首を締めることに他ならないことを中国は認識すべきです。
※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。