中国の「戦狼外交」は必ず自滅する  黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2020年10月21日】*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部が付したことをお断りします。

◆フィジーの双十節祝賀イベントで招かれざる客が起こした殴打事件

 南太平洋の小さい島国フィジーで事件が起こりました。詳細は、以下、報道を一部引用します。

<南太平洋の島国フィジーで8日、台湾の出先機関が主催した双十節(建国記念日)の祝賀イベントで、中国大使館員2人が強引に会場に入ろうとし、阻止しようとした台湾側のスタッフに暴行を加えた。1人が頭部を負傷した。中国大使館員はイベントの出席者を撮影することが目的だった。>

さらに、このような報道もありました。

<中国外務省は19日の会見で、自国の大使館職員らは、台湾旗が描かれたケーキなど、宴会の詳細を知っていたと発表。外務省の趙立堅(Zhao Lijian)報道官は記者団に対し、「偽の国旗が会場に公然と飾られ、ケーキにもこの偽の国旗があしらわれていた」と指摘した。>

 事件の会場となったのは、フィジーの首都サバにあるグランドパシフィックホテルで開催された国慶節祝賀レセプション。主催者は、駐フィジー台北商務弁事処(大使館に相当)でした。招待客は100名ほどで、会場では国慶節を祝うためケーキも用意されていました。

 報道によれば、その会場に招かれていない中国関係者2名が押しかけ、不躾に招待客の写真を撮り始めたそうです。そこで、台湾関係者が退場を求めると、中国関係者2名は暴力をふるって抵抗した、というのが事件のおおまかな流れのようです。

 しかし、この事件に対して中国の言い分は全く違うとも報道されています。以下、報道を引用します。

<一方中国側は、異なる説明をしている。在フィジー中国大使館は、同館の職員2人は式典当日に「公務」で「会場外の公共エリア」にいたと発表。台湾の職員1人が「挑発的な行動を取り、中国の外交官1人を負傷させ、損害を与えた」と主張した。>

 AFPBB Newsは、この事件を報じる記事の中で最後にこのようなコメントを付け加えています。

<中国の外交官らは近年、自国の国益を国外で好戦的に追求する姿勢を強めており、この戦術は「戦狼外交」とも呼ばれている。

 中国政府は2016年以降、台湾と外交関係を持つ7か国に断交させ、代わりに中国との国交を樹立させた。台湾を国として正式承認しているのは、南米と太平洋地域の小国を中心に15か国のみとなっている。>

 当然ながら、台湾メディアは中国を強く批判しています。台湾の行政院長の蘇貞昌は、「中國駐外人員要流[亡民]打人,非常不應該,我們嚴?譴責。(中国の駐在員がヤクザを使って起こした殴打事件は、あってはいけないことであり、我々は厳しく譴責する)」と、メディアに言っています。

 また、台湾側はフィジーの司法の場で正義を取り戻すとも言っていましたが、フィジー側はこれ以上の究明はしないと表明しました。

 事件が起こった場所はフィジーですが、台中の問題に巻き込まれたくない、台中双方の間で決着してくれといったところでしょう。

◆中国がいじめればいじめるほど世界は台湾の味方に

 双方の主張はさておき、このニュースは世界を駆け巡りました。そして、日本でもそうですが、ネット民の反応はだいたい中国が悪いといった論調です。そもそも、欧米の報道は、中国が悪いという前提のような報道の仕方です。

 中国は、このような稚拙で野蛮な行為をわざわざ世界に向けて発信して、一体何のメリットがあるのでしょうか。中国は卑怯で嘘つきだと自ら言っているようなものです。真実がどうあれ、国際社会は中国がどのような詭弁を弄しても、もう中国のことは信用しません。それほど中国は世界で信用を失っているのです。中国が、このような幼稚な方法で台湾をいじめればいじめるほど、世界は台湾の味方になります。

 同時に、中国は必死に台湾に軍事的圧力をかけていますが、それも中国のマイナスにしかなりません。台湾はアメリカから様々な武器を購入し、自己防衛の準備を着々と進めていますし、万が一、台中間で武力衝突が起こったら、世界は中国を非難することでしょう。なぜなら、中国側が台湾を軍事的に挑発し続け、威嚇し続けていることを世界は知っているからです。

 中国は、このような時代錯誤で稚拙なことは、中国にとって何のメリットもないことがどうして分からないのでしょうか。

 中国の台湾に対する武力威嚇は、エスカレートするばかりです。しかし、武力行使するぞと威嚇するのはいつものこと。実際に武力行使して、中国が勝利できるかどうかは別の話です。

◆米国が描くのは習近平逮捕のシナリオ?

 今の台湾にはアメリカという後ろ盾がついています。しかも開戦となれば、少なくとも中国のGDPの20%以上の軍事費がかかります。目下の中国政府にとっては痛い出費です。そのため中国は、本音を言えばなるべく開戦したくないはずです。

 一方のアメリカが描いているシナリオは、最終的には習近平の逮捕劇ではないかと私は考えています。アメリカは、これまで何度か有名な逮捕劇を演じてきました。1990年、パナマ侵攻から始まったノリエガ将軍の逮捕劇。2020年、メキシコのシエンフエゴス元国防相がロサンゼルスの空港で逮捕された際の逮捕劇などです。

 同様に、最終的に習近平を逮捕してアメリカの司法裁判にかけるのが対中政策の解決策だと、アメリカは考えているのではないでしょうか。荒唐無稽に聞こえるかもしれませんが、江沢民元国家主席や李鵬元首相などは、チベット人の虐殺に関与したという罪で、スペイン高裁から国際手配され、逮捕令状も出されています。

 習近平が行っているウイグル弾圧などは、明らかに「人道上の罪」にあたります。習近平が逮捕されるようなことが現実のものとなれば、世界にしろ中国にしろ、喜ぶ人間はいても悲しむ者はいないのではないでしょうか。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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