トランプ訪韓、反日告げ口外交で北朝鮮問題の矮小化を狙う文在寅  黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」第208号:2017年11月8日号】http://www.mag2.com/m/0001617134.html

*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部で付したことをお断りします。

◆韓国紙がトランプ訪日について珍しく高評

 トランプ大統領は訪日日程を終えて韓国を訪れましたが、韓国側は夕食会において、元慰安婦を招待し、竹島周辺で獲れた「独島エビ」を振る舞いました。大成功だったトランプ大統領の訪日に、わざわざ水を指すような行為です。

 菅官房長官は「どうかと思う」と不快感を示しましたが、多くの日本人が同じ思いでしょう。

 もともと北朝鮮対策が主眼であったトランプ大統領のアジア歴訪ですが、そこから少しでも目をそらさせて別の意味を持たせようという、従北派の文在寅大統領らしい意図が透けて見えます。

 ご承知のとおり、トランプ大統領の訪日については、ゴルフ外交をはじめとする安倍首相の努力によって、成功裏に終わりました。

 これに対して韓国のメディア(中央日報)も、「安倍首相のスキンシップにより、かつては『アメリカは日本に利用されている』と発言していたトランプ大統領が、『日本は宝のように大事なパートナー』と発言するまで変わった」と、珍しく高く評価しています。

 中央日報は、「安倍政権に批判的な朝日新聞も、昨年の大統領選まで在日米軍の分担金圧力を加える態度を見せていたトランプ大統領が、今回の訪日では日米同盟の重要性を強調するまで態度が変わった。安倍首相との親密な関係がトランプ大統領の対日観に影響を与えたようだと伝えた」と、半ば羨ましさを滲ませながら、論じました。

◆韓国は政府から民間まで反米一色

 トランプ大統領は、今日から1泊2日で韓国を訪問していますが、韓国ではこれに先立ち、康京和(カン・ギョンファ)外交部長官が、先月30日に国会で「三不」政策を言明したことで、トランプ大統領との関係が悪くなるのではないかという懸念がささやかれています。

 この「三不」政策とは、悪化している中韓関係の改善のため、「韓国は米国のミサイル防衛(MD)体系に入らない」「韓日米安保協力は軍事同盟に発展しない」「THAADの追加配備はせず、韓国にすでに配備済みのTHAADは中国の安保利益を損なわない」という3つの立場を明らかにしたものです。

 中国側はさっそくこの表明に対して、「韓国はこの『三つの約束』を守ることを望む」とコメント。しかし韓国側が「『約束』ではない」と問題提起したことで、中国側は「三つの立場表明」という表現に変更しました。

 「約束」だろうが「立場表明」であろうが、トランプ大統領の訪韓直前にこのような発言をすれば、どのような影響が出るかはわかりそうなもので、文在寅政権の外交センスを疑いますが、アメリカのマクマスター大統領補佐官は2日、「韓国がその3つの領域で主権を放棄するとは思わない」と発言して韓国を牽制しました。

 韓国メディアもさすがに多くが苦言を呈しました。とくに保守系の朝鮮日報は、韓国の主権事項、しかも最も敏感な軍事主権に中国が影響を与えた事自体が、すでに主権が損なわれたことを意味する、と論じました。

 また、同紙は社説で、文在寅大統領が掲げる「アメリカとの外交も、中国との関係も重視する」という「米中バランス外交」を批判し、「このままではトランプ大統領が北朝鮮で行動するときには、まず安倍首相と相談するようになり、韓国とは完全に順序が逆になる」と危機感を露わにしました。

 しかもソウルではトランプ訪韓の7日から100件以上の集会の届けが出ており、そのほとんどが反米デモだということです。韓国ではかつて朴槿恵大統領を弾劾するためのロウソクデモを親北派が主導していましたが、彼らは再び米韓の離反を目論んで、反トランプデモを仕掛けようとしているわけです。

 また、こうした反米デモをきっかけに、2014年に解散を命じられた極左政党の統合進歩党の復活や、内乱扇動罪などで逮捕された極左議員・李石元の釈放を求める運動が活発化する動きもあるそうです。

 日本では、国民が先の衆院選挙で安倍政権を大勝させた以上、安倍政権の進める日米同盟の深化に反対する動きはほとんど出ませんが、韓国では従北派の文在寅が大統領のうえ、10月時点でも支持率は60%後半と高い水準を保っています。

 さらに、THAAD配備で中国にさまざまな嫌がらせを受け、観光をはじめとする産業・経済に大きな打撃を受けているため、アメリカを逆恨みする「恨」の意識も大きいのでしょう。

 さすがに文在寅政権もまずいと思ったのか、韓国大統領府は5日、韓国国民に対して「トランプ大統領を歓迎しよう」と呼びかけました。このような呼びかけをしなくてはならないほど、韓国では反トランプ、反米意識が高まっているわけです。

 そして実際、ソウルでは抗議団が「帰れ」コールを行い、トランプ大統領一行の車が通る予定の道に物を投げる者までいました。そのため、トランプ一行はルートを変更せざるをえなくなりました。

 朝鮮日報は先の社説で、「米国なしに朝鮮人民軍の動向さえ把握できず、また長射程砲による攻撃もまともに防げない国で、これほど見境のない動きが国民の間から出てきているのだ。これはこの国の国民が勇敢だからなのか、あるいは愚かなだけなのか、もはや分からなくなってしまった」とまで嘆いています。

 とはいえ、「すべての文明・文化は韓国が起源」「孔子もキリストも韓国人」などとファンタジーに満ちたウリナラ史観を教えられてきた韓国人に、現実を直視する目はありません。

 文在寅大統領にしても、「三不」政策が示すように、極力アメリカと距離を置いて、中国のご機嫌を取りたいというのが本音でしょう。北朝鮮の核開発やミサイル発射にも、実のところは賛意を示したいと思っているのではないでしょうか。

◆反日ネタで北朝鮮問題を矮小化しようとした文在寅大統領

 もともと文在寅大統領は盧武鉉政権時代の秘書室長として、2007年11月、国連の対北朝鮮人権決議案に対して、韓国としての対応を北朝鮮側にお伺いを立て、その結果、棄権にいたったという疑惑がある人物です。

 文在寅大統領が夕食会に慰安婦を招き、「独島エビ」を振る舞ったというのも、国内の親北・反米グループや、北朝鮮、中国へのアピールの意味もあるのでしょう。すなわち、「トランプ大統領とは慰安婦問題や竹島問題も共有した。韓国側は対日問題も主張したのであり、北朝鮮問題だけではない」と、反日によって北朝鮮問題を矮小化しようという一種のまやかしでしょう。

 今回の夕食会では、トランプ大統領も外交儀礼上、元慰安婦と握手していましたが、聯合ニュースは「慰安婦被害者と抱擁」などと報じていました。しかしそのときの動画を見ればわかりますが、元慰安婦が両手を広げて抱擁を求めたので、トランプ大統領は形式的に少し応じただけでした。

 いかにもトランプ大統領が「元慰安婦に理解を示した」かのような報じ方がされたのも、北朝鮮問題よりもこちらをクローズアップさせたい政権側の意図に叶うものでしょう。

◆金泳三・前大統領の訪台を断った李登輝総統

 韓国のコウモリ外交はいまに始まったことではありませんが、ここ数年はほとんどその結果は惨憺たる失敗に終わっています。朴槿恵大統領は中国傾斜を強めたため、中国経済への依存度が急激に高まると同時に、中国企業に韓国市場を荒らされ、さらにはTHAAD問題で実質的な「経済制裁」を受けることになりました。

 中国との通貨スワップを締結したことで強気になり、日本との通貨スワップは不要だと終了させましたが、日韓関係が悪くなるにつれ青ざめ、日本に泣きついてくる始末です。

 今の韓国の外交を見ると、19世紀から20世紀初頭にかけての状況とそっくりです。清(中)露日米への事大で右往左往、右顧左眄しながら、韓国の内外情勢の変化につれて他国を振り回す。日米だけでなく中国も韓国が頭痛の種となっています。

 とくに双方の思惑が完全に違うのが日本で、韓国に対して米露とは違う力学関係と親疎関係がある日本は、韓国の扱いについては中国、あるいは台湾に学ぶべきです。要するに、徹底的に無視するか、断固とした対応をするしかありません。

 かつて、大統領から退いた金泳三は、当時の李登輝総統に会いたいと台湾に申し込んできたことがありました。

 しかし李登輝総統はきっぱりと断りました。金泳三は大衆迎合主義の反日姿勢で、ソウルの旧朝鮮総督府を爆破解体した人物です。両者とも、日本統治時代を経験しているため、流暢な日本語を話しますが、思想的には李登輝総統とは真逆です。要するに李登輝総統は、いやな人間とは付き合いたくないと、公然と意思表示したのです。

 しかも、韓国は1992年の中韓国交正常化時、台湾とは断行しないと甘言を弄しながら、台湾の弱みに付け込んで韓国車を数千台売りつけ、その後、あっという間に断行するという、台湾をだまし討ちするようなやり方を行いましたから、韓国に対する台湾人の国民感情は非常に悪化しました。

 現在でも台湾の世論調査では、中国と韓国が嫌いな国の1位と2位をつねに独占しています。大中華にしろ小中華にしろ、中華の人々はどこへ行っても歓迎されないのです。中韓双方の間でも嫌い合っています。人間不信の国ですから、自己中心にして、いつ裏切られるかわからないからです。

◆告げ口外交を続ける韓国に日本世論の悪感情は増幅

 李氏朝鮮時代以前の朝鮮(コリア)半島では、平均して歴代国王の2人に1人が殺害されていました。李氏朝鮮時代になると、朋党の争い(党派同士の殺し合い)は宮廷から両班の世界にまで広がりました。

 朝鮮戦争の時代には、南北の殺し合いは民間人にまでおよび、南北とも自国民の虐殺が政権維持の方法となりました。南の保導連盟事件や光州事件はその一例です。

 北も南も、「忖度」や「対話」がまったく無意味の国です。じっさい、南の文在寅大統領自身、北との対話を熱望していますが、北は公然と「お断りだ」と突っぱねています。対話はその気がなければ、あるいは約束を守らなければ単なる無駄話になります。情けをかければ、さらにつけあがるのが自己中心主義の中華の本質なのです。

 韓国メディアは、今回のトランプ大統領のアジア5カ国歴訪について、他国はすべて2泊3日なのに、韓国だけが1泊2日だと恨みがましく報じています。また娘のイヴァンカ氏が訪韓をドタキャンしたことも大騒ぎしました。

 しかし、つねに裏切られてきた日本からすれば、韓国と話し合っても、実のある話ができるとは思えず、約束しても反故にされるのがオチです。だから長逗留したところで意味がないと考えるのが普通です。

 今回のトランプ訪韓で、相変わらず告げ口外交を続ける韓国に対し、日本世論の悪感情はますます増幅しました。そのツケは、必ず韓国に跳ね返っていくと思います。


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