昨日、水産庁長官や農林水産事務次官をつとめた社団法人大日本水産会会長の白須敏朗
(しらす・としろう)氏が台北市内で講演し、「日本と台湾の民間団体の正常な漁業関係
を築くため、双方の政府は早期に漁業交渉を再開することが望ましいと述べた」と台湾紙
が伝えている。
白須氏は行政院農業委員会漁業署の招きに応じて台湾を訪問、「東日本大震災と今後の
水産業」と題したこの講演では「日本の漁業者は今も台湾が提供した巨額な義援金を忘れ
ていない。将来、日本と台湾との水産業の協力関係を更に拡大したい」などとも話したと
いう。
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日台間の漁業交渉は1996(平成8)年以来、台湾側の亜東関係協会と日本側の交流協会と
の間で行われている。最近では、陳水扁政権時代の2005(平成17)年7月29日に第15回協議
が東京で行われ、馬英九政権となった2009(平成21)年2月27日に第16回協議が台北で行わ
れている。
この第16回協議では、漁業権に関する争いが起きた場合、内閣府の出先機関である「沖
縄総合事務局」と台湾の「台北駐日経済文化代表所那覇分所」が連絡窓口となって対応に
当たることや、民事案件の処理協力については新たに民間の交渉ルートをつくり、台湾の
漁協に相当する「漁会」と日本側の「大日本水産会」を窓口に協議を行うことで合意して
いる。
しかし、それ以降は行われていないため、漁業交渉の再開を強く要望している台湾側が
民間交渉ルートの白須敏朗・大日本水産会会長を招いてその突破口を開こうとしたものと
見られる。
馬英九総統自身も日台漁業交渉に積極的で、これまで尖閣諸島をめぐる問題の処理では
何度か「中国大陸とは連携しない」方針を表明し、また日台間の漁業協議を官僚レベルか
ら政治家レベルに格上げして政治解決を目指す姿勢を表明(2010年11月10日)もしてい
る。
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では、このように台湾側の積極的な姿勢が目立つ「日台漁業交渉」だが、日本側の対応
は消極的で一向に進展しない。
なぜだろう。思い当たるのは「中国の反対」だ。第15回目の漁業交渉が行われる直前、
中国外交部の劉建超報道官は記者からの質問に次のように答えている。
≪台湾は中国の一部分であり、関連の海域での漁業に関する事柄は、協定の中で適切に定
められており、日本側は協定の規定に基づいて事を進めるべきだ。中国は、日本が台湾と
の漁業紛争を理由に「一つの中国」の原則に違反するいかなる活動を行うことにも、強く
反対する。≫(2005年7月12日)
恐らく日台漁業交渉が滞っている理由として、尖閣諸島をめぐる領有権のこともその一
つかもしれないが、この強い「中国の反対」が日本側の動きを牽制していると見られる。
実は、本会がまとめた「政策提言」の一つ、「台湾との自由貿易協定(FTA)を早期に
締結せよ」を導く論考「我が国と台湾の経済協力」を執筆した梅原克彦・常務理事は、そ
の論考の中で、日台FTAの締結が滞っている最大の理由が「中国の反対」にあったこと
を明らかにしている。
梅原氏の論考「我が国と台湾の経済協力」は本誌でも掲載したので、詳しくはそれをご
覧いただきたいが、梅原氏は憤懣やるかたないという筆致で次のように指摘している。
≪10年近く前の時点で、「民間ベースの共同研究」という準備段階のものだったにせよ、
一定の具体的作業の進展が見られていたにもかかわらず、その後長らく停滞したままなの
は何故か。
それは、一言で言うならば、その後の歴代の日本の政権が、日本と台湾の間の「二国
間」のFTA/EPAの締結について、「北京」の反対に気兼ねするという「政治的理
由」によるものであると断言せざるを得ない。≫
日台FTAも漁業交渉も、台湾側の積極的な姿勢にもかかわらず、一向に進展しない最
大の理由は「中国の反対」にあると言って過言ではないだろう。それ故、媚中「日本」を
脱する「鍵」は、日台FTAの締結であり日台漁業交渉の再開にある。また「集団的自衛
権の行使」を確立することも「鍵」である。
◆本会が集団的自衛権と日台FTAに関する「政策提言」を発表[2012/4/24] http://melma.com/backnumber_100557_5546677/