【祝】 台湾が福島など5県産品の輸入解禁を公告

 2月8日午前、台湾政府が記者会見を開き、福島など5県産食品に対する輸入禁止措置の解除について、早ければ今月下旬にも正式に公告する見通しを明らかにしました。10日ほど各界の意見を聞き、2月21日、日本産食品の輸入禁止措置を原則解禁するとした公告を発表しました。

 台湾の馬英九政権が東日本大震災後の2011年5月15日、福島、茨城、栃木、群馬、千葉の酒類を除くすべての食品の輸入を禁止してから約11年。地域ではなく科学的な根拠に基づくべきという日本側が提案していた考え方を取り入れ、ようやく解禁されたことを素直に喜びたい。

 ただ、解せないことが2つあります。

 一つは、本誌でも何度か言及したことですが、衛生福利部食品薬物管理署は台湾大学医学院毒理学研究所に委託し、2018年に日本で採取した301種類の食品のサンプルと、日本の放射能測定の項目と合わせて2年間連続で測定を行い、まったく人体に影響がない結果を得ていました。

 報告書では、台湾住民が毎日摂取する食品の10%が5県産食品と仮定しても、1年間の追加線量は0.009〜0.015ミリシーベルトにすぎず、国際放射線防護委員会(ICPR)が勧告する年間追加被爆線量1ミリシーベルト以下という、基準値よりはるかに低いと指摘していました。

 詳しくは、日本台湾交流協会が発表している「日本産食品の安全性」をご覧ください。

 ◆日本産食品の安全性  https://www.koryu.or.jp/publications/foodsafety/

 この検査は2018年8月31日から行われ、衛生福利部食品薬物管理署は12月28日に公表しています。ただ、リリースされたのは2019年8月1日のことです。2019年も3月から検査して、前年とほぼ同じ結果を得て8月27日に公表、リリースは2020年5月14日のことでした。

 実は、台湾政府は2017年にも同様の委託検査をし、健康に影響がないという報告を受けていました。しかし、リリースは2018年検査と同じ2019年8月1日のことでした。

 なぜこれを5県産品の輸入禁止継続も対象とした2018年11月24日の公民投票前にリリースしなかったのか、よく理解できません。

 さらに不可解なのは、台湾の政府高官も、このような調査を3年続けて行い、3年とも放射線の被爆線量は基準値よりはるかに低く、健康に影響がないという科学的な検査結果に言及することがほとんどなかったことです。これもまた解しがたい台湾政府の対応でした。

 さて、もう一つの解せないこととは、下記に紹介している産経新聞の記事にも出てきますが、中国の反応です。

 今回の台湾の5県商品の輸入解禁については、CPTPP(包括的・先進的環太平洋経済連携協定)加入に弾みをつけることとされていますが、いまだに10都県の食品の輸入を禁じている中国がまったく反応した様子が見られません。中国も、台湾と同じくCPTPPに加入申請しているのですから、これをどう捉えたらいいのでしょうか。

 中国はいつでも輸入は解禁できると考えているのでしょうか、それともCPTPPに加入する考えはなかったということなのでしょうか。

 どうも中国は台湾の加入を阻止するために加入申請したのかもしれません。中国が加入申請したことでシンガポールやマレーシアは歓迎の意を示し、日本やオーストラリアは台湾の加入申請を歓迎しました。そうしますと、CPTPPへの加入は11カ国全員の賛意を得られなければ不可能ですので、中国は加盟を申請するだけで台湾加入に賛意を示さない加入国が現れることも考えられ、台湾の加入を阻止できることになります。

 さらには、11カ国のまとまりを分断する可能性も出てきます。台湾支持派と中国支持派に分かれて対立する状況ではCPTPPの機能は十全に発揮できなくなることも予想されます。

 「指鹿為馬」や「桑を指して槐(えんじゅ)を罵る」ことが得意な中国です。そう考えてもさほどおかしくはないのではないかと思います。

 台湾のCPTPP加入問題は、中国が加入を申請してきたことでかなり複雑さを増したように思われ、この先も注意深く見ていきたいと思います。

—————————————————————————————–台湾食品禁輸解除、輸出拡大に追い風 全面規制は中国だけに【産経新聞:2022年2月22】https://www.sankei.com/article/20220221-SEMRCNIPC5KG3CIJYCX4WLYHIM/

 台湾が21日、2011年の東京電力福島第1原発事故後に福島など5県を対象に課してきた日本産食品の輸入禁止措置を原則解禁するとした公告を発表した。

 台湾は日本にとって昨年の農林水産物・食品の輸出先の第4位を占める重要な貿易相手で、日本政府は今回の台湾の決定を農産物の輸出拡大の追い風にしたい考えだ。

 福島第1原発事故から10年以上が経過する中、「全ての食品」(台湾は酒類は除く)というくくりで禁輸措置を続けていたのは中国と台湾だけ。台湾の輸入解禁で、いまだに全面禁輸を続ける中国の非科学的な姿勢を浮き彫りにする効果も期待できる。

 原発事故後、最大で55カ国・地域が日本産食品に対する輸入規制を導入したが、今も規制を続けるのは14カ国・地域にとどまる。このうち9カ国・地域は検査証明書などの提出を条件に輸入を認めており、輸入停止措置を講じているのは台湾、中国、韓国、香港、マカオの5カ国・地域だけだ。対象品目を「全ての食品」とするなど特に厳しい姿勢をとってきたのが台湾と中国だった。

 台湾は福島、茨城、栃木、群馬、千葉5県の酒類を除く全ての食品に一律の輸入停止措置を課してきた。今回、1)野生の鳥獣肉2)キノコ類3)山菜のコシアブラ─を除き、5県の全ての食品の輸入を解禁する。

 ただ、解禁する食品には放射性物質検査証明書と産地証明書の提出を義務付け、水際での全ロット検査も行う。農林水産省の担当者は「大きな一歩であるのは間違いないが、全ロット検査の実施など規制という意味ではまだ多い」とし、引き続き台湾への働きかけを続ける考えを示す。

 それでも台湾が非科学的な全面禁輸から脱却する意味合いは大きい。いまだに全ての食品を輸入停止の対象とする国・地域は中国だけとなるからだ。中国は宮城、福島、東京、新潟など10都県の「全ての食品と飼料」(新潟県産コメを除く)を輸入停止にしている。

 日本国内で過去に出荷制限措置がとられた品目の輸入停止をいまなお続ける韓国にも科学的な検査に基づく対応を迫る圧力となりそうだ。(日野稚子、那須慎一)

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