日本人は戦後の台湾をどれくらい知っているだろうか。本書には、1924年(大正13年)
生まれの台湾人知識人の眼に映った、伝統的な台湾人の大家族の葛藤、前近代と近代、日
本教育、友情、屈折、ハングリー精神、師弟関係、内地旅行、旧制高校の生活、戦時下の
台湾、終戦後の台湾、日本人の引き揚げ、中国(国民党)軍の進駐、治安・規律の悪化、
インフレ、228事件、無実の兄の処刑、筆者に届こうとする中国国民党の魔の手が描か
れている。
自伝部分は、著者の台湾脱出までしか書かれていないが、巻末に32ページにわたる「そ
の後の足跡」という部分があり、王氏の日本人に台湾を考えさせることも含む台湾独立運
動への献身がまとめられている。
読者は筆者の眼を通じて、台湾人の親が子に望むこと、大きくて複雑な家族内の軋轢、
兄弟姉妹の情、台湾の結婚にまつわる風習、女性へのときめき、台湾人の眼に映った日本
人、学問への思い、演劇指導と脚本執筆、中国人上司の言葉などを追体験し、時に筆者と
共に涙し、なぜ筆者が台湾独立に一生を捧げたのか理解できるに違いない。
また、倉石武四郎博士の人柄、邱永漢氏との交流や李登輝氏との接点についても触れら
れている。
「植民地」に対して、「謝罪」しか思いつかない日本人が多いが、まず本書を読んで、
台湾人がどう感じ・考えていたのか知ってほしい。そうすれば、どのようにすることが正
しいことなのか自ずと明らかになるであろう。
また、台湾独立運動が「一部の日本時代の特権階級のもの」であるかのような宣伝があ
るが、本書を読めば、決してそのようなものではなく、民主的な法治社会を求めるすべて
の台湾人のための運動であることがよく分かる。
筆者は台北高校弁論部在籍中に「人生は短く、芸術は長し……されど宗教はさらに長い」
と論じたという。筆者自身が、教師から学んで人格形成をしてきたが、戦後は台南一中の
教師として学生を感化し、そして、世界中に広がる台湾独立運動を指導した。自らの名声
ではなく、台湾のため、台湾人民の自決のために身を捧げて燃え尽きた王育徳先生の後姿
こそ、朽ちることなく永遠に続くのではないか。
本書が出版されたことは、人類共通の価値観に訴えかけ、後に続く人々の心に種を撒き、
糧となるであろう。
■署 名:「昭和」を生きた台湾青年─日本に亡命した台湾独立運動者の回想1924-1949
■著 者:王育徳
■編集協力:近藤明理
■版 元:草思社
■体 裁:四六判、上製、328ページ
■定 価:2310円(税込み)
■発 売:2011年3月25日