【書評】台湾人にとって独立が不可欠な理由・王育徳自伝

【書評】台湾人にとって独立が不可欠な理由・王育徳自伝王育徳 (著)
『「昭和」を生きた台湾青年 日本に亡命した台湾独立運動者の回想1924-1949』

日本人は戦後の台湾をどれくらい知っているだろうか。本書には、1924
年(大正13年)生まれの台湾人知識人の眼に映った、伝統的な台湾人
の大家族の葛藤、前近代と近代、日本教育、友情、屈折、ハングリー精
神、師弟関係、内地旅行、旧制高校の生活、戦時下の台湾、終戦後の
台湾、日本人の引き揚げ、中国(国民党)軍の進駐、治安・規律の悪化、
インフレ、228事件、無実の兄の処刑、筆者に届こうとする中国国民党
の魔の手が描かれている。自伝部分は、著者の台湾脱出までしか書か
れていないが、巻末に32ページにわたる「その後の足跡」という部分が
あり、王氏の日本人に台湾を考えさせることも含む台湾独立運動への献
身がまとめられている。

読者は筆者の眼を通じて、台湾人の親が子に望むこと、大きくて複雑な
家族内の軋轢、兄弟姉妹の情、台湾の結婚にまつわる風習、女性への
ときめき、台湾人の眼に映った日本人、学問への思い、演劇指導と脚本
執筆、中国人上司の言葉などを追体験し、時に筆者と共に涙し、なぜ筆
者が台湾独立に一生を捧げたのか理解できるに違いない。

また、倉石武四郎博士の人柄、邱永漢氏との交流や李登輝氏との接点
についても触れられている。

「植民地」に対して、「謝罪」しか思いつかない日本人が多いが、まず本
書を読んで、台湾人がどう感じ・考えていたのか知ってほしい。そうすれ
ば、どのようにすることが正しいことなのか自ずと明らかになるであろう。

また、台湾独立運動が「一部の日本時代の特権階級のもの」であるか
のような宣伝があるが、本書を読めば、決してそのようなものではなく、
民主的な法治社会を求めるすべての台湾人のための運動であることが
よく分かる。

筆者は台北高校弁論部在籍中に「人生は短く、芸術は長し…されど宗教
はさらに長い」と論じたという。筆者自身が、教師から学んで人格形成を
してきたが、戦後は台南一中の教師として学生を感化し、そして、世界
中に広がる台湾独立運動を指導した。自らの名声ではなく、台湾のため、
台湾人民の自決のために身を捧げて燃え尽きた王育徳先生の後姿こそ、
朽ちることなく永遠に続くのではないか。本書が出版されたことは、人類
共通の価値観に訴えかけ、後に続く人々の心に種を撒き、糧となるであ
ろう。

出版: 草思社
ISBN:978-4-7942-1813-1
定価:2,310円(本体2,200円)
判型:四六判
頁数:328頁
初版刊行日:2011年04月05日
http://www.soshisha.com/book_search/detail/1_1813.html

 


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