【新刊紹介】喜安幸夫著『日本中国開戦−激震襲う台湾海峡』

日台関係者必読の一書

 本会のホームページでもすでに4月25日に紹介しているが、「台湾週報」の前編集長で時
代劇作家として活躍している喜安幸夫氏が日本と中国が台湾海峡をめぐって軍事衝突する
近未来のシミュレーション小説『日本中国開戦』を上梓された。
 喜安氏は最近でこそ時代劇作家として著名だが、これまで『台湾島抗日秘話』『台湾統
治秘史』『台湾の歴史』などを著しており、日本でも屈指の台湾史研究者だ。最新の軍事
知識を仕入れて書き下ろした本書は、中国が台湾の武力併合を宣言している現状では単な
るシミュレーション小説とばかり片付けられない。日米や日台の軍事提携のあり方など、
現実的な示唆にも富んでいる。
 台湾研究フォーラムをモデルとした「フォルモサ・フォーラム」なる台湾大好き派が集
まる研究会なども登場する。日本の政治家の毅然とした姿勢も凛々しく描き出されていて
、かくあるべしとの著者の思いに共感する。本誌読者など日台関係者にはぜひ読んでいた
だきたい一書である。下記に「台湾週報」の書評をご参考までに掲載する。  (編集部)

■喜安幸夫著『日本中国開戦−激震襲う台湾海峡』
 学研・歴史群像新書 定価:945円(税込)


新刊紹介 『日本中国開戦』──激震襲う台湾海峡 喜安幸夫 著

 書名からも分かる通り、近未来のシミュレーション小説である。だが、単なる空想小説
ではない。著者は本「台湾週報」の前編集長であり、科学的に近未来の日中関係と台湾海
峡の動向を分析し、小説として書き下ろしたものである。

 2008年、中国は北京オリンピックを国威発揚の場と捉え猛然と開発を進めるが、国
内には積み重なった地域間格差、公害問題、都市問題等の諸矛盾が噴出する。中南海は人
民の目を外に向けさせようと南シナ海、東シナ海と台湾周辺水域でつぎつぎと問題を引き
起こす。それによって国内矛盾を抑え込み、オリンピックを表面上成功裏に終えるが、東
アジアの緊張を高め、日本、台湾、米国の相互軍事協力を強めさせ、台湾の総統選挙にも
重大な結果をもたらす。同時に、中国の対外強硬策は、台湾を併呑し日本を干し上げよう
とする長期戦略の国策強化に他ならなかった。

 しかしオリンピックの後、中国の国内矛盾はますます深刻化し、社会不安の増大が政情
不安へと発展して国内の統制が弛緩し、奥地の治安が極度に悪化する。中南海は統制を強
め、日本や台湾の親中派に対する招待外交を進め、日台両国の国内分裂を促進しようとす
る一方、2010年に入ると上海万博を前に再度国内矛盾を押さえ込むため、建造したば
かりの空母まで繰り出し、ふたたび東シナ海と台湾海峡で軍事挑発を発動する。ここに東
シナ海中間線で日本の護衛艦との間に不測の事態が発生する。緊張は一挙に高まり、日本
と台湾の国民は明確に中国の本質を知り、米軍の積極行動、日本の強硬姿勢、台湾の巧妙
な作戦により、逆に中国は地方分裂の危機に陥る。この過程での日本海上自衛隊の迎撃作
戦にはシミュレーションとは思えない緊迫感と戦慄が感じられ、緊張下での台湾軍の極秘
作戦には溜飲を下げるものがある。

 さらにこの物語の進行のなかで、これまで中国には腰が引けていた日本の政治風土の背
景とは何かが、登場人物たちの動きによって解明される。また、中国の挑発に動揺しなが
らもアイデンティティを強める台湾の政府と台湾人社会の姿が活写されているのは、前「
台湾週報」編集長ならではの作品と言えよう。

 結末は本書をお読みいただきたいが、内容は決して荒唐無稽なものではなく、すべてが
実際に起こり得る事態であり、読者はそれらの多くが目下現実に進行していることをも痛
感するはずである。日本、台湾、中国の近未来を示唆するものとして、興味深い一書であ
る。
〈学習研究社・新書版 ¥900+税〉



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