事件帳』や『はぐれ同心闇裁き』、『御纏奉行闇始末』など、年に9冊から10冊を出す時代
小説作家として名を馳せている。
一方、台湾関係者には『台湾の歴史』や『台湾島抗日秘史』の著者として、あるいは「台
湾週報」の前編集長としてよく知られている。
その時代小説と台湾関係を合わせた分野として、近未来シミュレーション小説も発表し
ている。これまで『日本中国開戦−激震襲う台湾海峡』(2006年)をはじめとして『新日
中戦争−尖閣諸島を奪回せよ!!』(2007年)、『日中激戦2010−東シナ海艦隊決戦』(20
08年)、『日中アジア大戦─新MDシステム始動』(2009年)など、いずれも日本と中国
が軍事衝突する近未来シミュレーション小説を出している。『日本中国開戦』と『日中激
戦2010』はコミック判も出ている。
このたび近未来シミュレーション小説第5弾として『日中海上決戦─尖閣・沖縄侵攻を阻
止せよ』を上梓した。
時は2015年8月、中国のステルスUAV(無人航空機)が日本領空に侵攻して奄美大島付
近の無人島に墜落、その性能を日本が調査できないよう中国のキロ級潜水艦がステルスU
AV残骸の回収にかかるが、島の近くで浮上する際、インドネシアのジャカルタを出航し
鹿児島をめざしていた日本人船長やインドネシアやベトナムの海軍士官を乗員とする古代
帆船を誤って沈めてしまう。
中国は日本の領海で民間船を沈めてしまったことを隠蔽しようと、日本に圧力をかける。
時の日本の首相は大沢市郎なる親中派の民衆党首相。中国は映像の非公開を求め日本は応
じるものの、事態は国民の知るところとなり拡大の一途をたどる。日本の弱腰につけこん
だ中国は、事件の目をそらそうと尖閣諸島に漁船群を派遣し沖縄の領有を宣言する。それ
に対応できなくなった政権は交替、新首相には2度目となる矢部真三が選ばれる。そして遂
に中国との戦端の火蓋が切られる……。
中国の横暴に、日本が台湾と手を組んで立ち向かう姿は、心地よい。これほどスカッと
した読後感を味わえるのは、小説と言えどめったにないだろう。喜安氏の日本と台湾への
思いの深さがにじみ出ている作品だ。
■著 者:喜安幸夫
■書 名:日中海上決戦─尖閣・沖縄侵攻を阻止せよ
■体 裁:新書、272ページ
■版 元:学研(歴史群像新書)
■定 価:990円(税込)
■発 売:2011年3月8日
http://hon.gakken.jp/book/1340486000