しかし、「見落とし」だけが誤記の原因だろうか。
実は、ジャーナリストの野嶋剛氏が公にしたところによれば、岩波側に「共同声明が出された直後の第3版や第4版で書かれなかった日中共同声明における台湾の帰属問題が第5版で入ってきたのはどうしてか」と質問したところ、「辞典はすべて編者・執筆者の解釈によって成り立つものです。論文・条文などをそのまま引用するのではなく、対象となる読者向けに解説を施します。客観的・中立的な記述に努める一方、唯一の正解を提示するものではないと考えます」と返答してきたという。
つまり、「日中共同声明」の項は、第4版(1991年11月15日発売)で初めて掲載し「日本側は中華人民共和国を唯一の政府と承認、中国側は賠償請求を放棄した」と記述、7年後の1998年11月11日に発売した第5版で「台湾がこれに帰属することを承認し」の記述を書き加えたという経緯をたどっているが、用語は「編者・執筆者の解釈によって成り立つもの」だから、記述は岩波側の解釈によると説明している。
そうすると、見落としばかりでなく、解釈の誤りも誤記の原因となりうることを自ら説明していることになる。
日本李登輝友の会では第7版が発売されたその日に岩波書店に台湾に関係する記述の誤りについて訂正要望書を送達している。返答が届き次第、返答とともに公開する予定だが、訂正を要望した記述は「見落とし」によるものではない。
実は、台湾に関係する記述では、見落としか原資料の読み違えによるものと考えられる記述もあり、早急に追加訂正を要望する予定だ。それもいずれ返答が届き次第、公開したい。
—————————————————————————————–「広辞苑」新版またもや誤りが指摘 ネットでは「ちゃんとウィキペディアで確認した?」【J-CASTニュース:】
国語辞典「広辞苑」の第7版が2018年1月12日に発売されると、解説の中に誤りがあるとの指摘が相次いだ。性的少数者を意味する「LGBT」の説明に続き、「瀬戸内しまなみ海道」について、経由する地名を間違えてしまったのだ。
日本を代表する辞典なのに、これからも間違いが発見されるのではないかと予想する人もいて、ネット上では、「辞書なんてネットでいいだろ」「ウィキペディアで確認しながら編集しろ!」などといった書き込みが掲示板に出ることになった。
◆「しまなみ海道」は「周防大島」を経由している?
「広辞苑」といえば、今回の10年ぶりの大改訂となる第7版発売前に、ちょっとしたニュースがネットを騒がせていた。6版の「中華人民共和国」の項目で、台湾を「台湾省」と表記し、中国地図も台湾を他の省と同じ色に塗っているとし、台北駐日経済文化代表処が17年12月11日に「断じて中華人民共和国の一部ではない」と修正を要求した。また、18年1月9日に将棋ライターの松本博文さんが「ヤフー!ニュース」で、将棋宗家伊藤家始祖の説明が20年間間違ったままだと指摘し、「広辞苑」に申し入れていると書き、いずれもネットで話題になった。岩波書店は17年12月22日に公式HP上で「台湾省」の説明は誤りではない、との見解を発表した。将棋の始祖の説明は第7版で修正した。
そうしたなかで10年ぶりの大改訂をして発売されたのが第7版だ。新たに1万項目が追加されているが、その中で誤りが次々に指摘されたのだ。まず、ネット上で性的少数者を意味する「LGBT」の説明が正確ではないと騒ぎになった。「多数派とは異なる性的指向をもつ人々」と記されたが、「T」のトランスジェンダーは心と体の性が一致しないことを指していて、性的指向とは関係が無い、と指摘された。そして18年1月18日には「しまなみ海道」の説明が間違っているという報道が出た。
「しまなみ海道」は広島県尾道市から愛媛県今治市を結んでいるが、経由地として「周防大島」と掲載された。「周防大島」は山口県南東部の周防大島(正式名称は屋代島)であり、正しくは愛媛県今治市の「大島」だった。販売する書店などから間違いの指摘が相次いでいたという。
◆「完璧なものを出したいと努力しているのですが・・・」
ネット上ではこうした間違いはこれからも見つかっていくはずだという意見が相次いでいて、「広辞苑」に対し、
「なんでこれだけネットが普及した現代でそんな初歩的なミスが起きるんだよ。ちゃんとウィキペディア見ながら書いたか? 」
「もうウィキペディア見ながら作れよ、広辞苑は」
などといった指摘が出る一方で、辞典を紙で作る意味がわからない、とし、
「辞書なんてネットでいいだろ」
「そもそも高い金払って広辞苑とかいう文鎮買ってもしょうがないだろ ネットで見れんだよ。いまだに新聞取るようなもんだ」
などといったことが掲示板に書き込まれた。
J-CASTニュースが1月19日に岩波書店に「広辞苑」の間違いが次々に指摘されていることについて取材したところ、
「過去にも改訂版が出る度に間違いが指摘され、大きなニュースになってしまいます。私たちは完璧なものを出したいと努力をしているのですが、見落としが出てしまう、というのが現状なんです」
と説明した。第7版の売れ行きや在庫状況にもよるが、できるだけ早く重版を出し、こうした誤りを訂正して行くと担当者は話していた。