【分析】台湾総統選挙結果

【3月24日 メールマガジン「台湾の声」】

                              台湾の声」編集部

 2000年5月、陳水扁総統は就任式で「中共に武力行使の意図がない限り、任期中は
(1)『台湾独立』を宣言しない(2)(中華民国という)『国名』は変えない(3)
『二国論』を憲法に盛り込まない(4)『統一か独立か』を問う住民投票は行わない
(5)(統一の道筋を定めた)国家統一綱領を廃止しない──という「5つのノー」公
約した。

 米国からの圧力もあったと聞くが、総統就任時に早くも「台湾共和国」建国の目標を
放棄して、自らを縛ってしまった。2004年の再任時は、「新憲法制定」を公約にして当
選したので、 この「5つのノー」は踏襲されないだろうと支持者は期待したが、陳総
統はまたもこの「5つのノー」で自らを縛った。結果的に、「中華民国」体制から脱却
できるという支持者の期待を裏切ることになってしまった。

 陳総統は「台湾独立」の定義をはっきりさせなかった。あのとき「独立宣言しない」
とか「国名を変更しない」と約束するのではなく、もっと早く謝長廷氏のように「台湾
の独立した現状を守る」と強調したり、中国が定義する台湾独立問題が存在しないこと
や、台湾の国名変更問題は台湾の内政問題という立場を明確にするなどして、米国や日
本などの理解を促すべきだった。

 また、民進党は経済的に中国への積極開放を進めた結果、台湾の伝統産業の空洞化が
起こった。経済が悪くなったという批判に、「でも経済成長率はよい」と主張しても逆
に反感を持たれる。失業率増加の原因や賃金が上がらない原因をはっきりさせ、台湾国
民に粘り強く説明すべきだった。中国への過剰な進出が経済悪化の原因となっているこ
とが説明不足だったため、台湾国民は中国と経済交流を強化したほうが経済が活性化す
るという国民党の主張に期待を持ってしまった。

 謝長廷氏は現在の中華民国憲法は「憲法一中」(憲法上は「一つの中国」)でアモイ
(厦門)も憲法上は中華民国大陸地区だという主旨の発言をして批判されたことがある。
これを謝氏は「改革の対象」と主張したが、では実際に憲法をどう改正するのか道筋が
示せなかった。というのも、2005年の憲法改正で、憲法改正手続きおよび国民投票のハ
ードルが高くなり、憲法改正および新憲法制定がほぼ不可能になってしまったからだ。

 また、陳総統は2004年に「新憲法制定」を公約にし、2008年から実施することを目標
としていたのに、はっきり国名を「台湾」にすると打ち出すことができず、ごまかしな
がらの中途半端な憲法改正にトーンダウンしたため、とうとう新憲法の見本を示せなか
った。これが、支持者や中間層に「台湾新憲法」は実現不可能だと思わせてしまい、理
念より利権の国民党へ流れていった。

 謝氏が訴えた「和解と共生」の理念は素晴らしいが、謝氏自身が「虎に出合い、羊が
寛容や共存を持ち出しても意味がない」と語ったように、羊(民進党)は「共生」を呼
びかけたが、立法院(国会)で絶対多数を得た虎(国民党)の支持者を民進党に引き寄
せるには至らなかった。もちろん、勝負に勝ったあと、虎になった謝氏が「和解と共生」
を実行してこそ意味があったので、残念だった。

 このほか、陳水扁総統およびその家族に対する不満が民進党への不満となっていたの
が謝長廷氏にとって不利に働いた。利権で支持を集める国民党支持者は国民党の汚職に
寛容だが、理念で支持を集める民進党の腐敗には「疑惑」が浮上するだけでも台湾の有
権者厳しかった。国民党の格好の攻撃材料にされ、台湾人意識に訴える政策さえも、陳
総統周辺のスキャンダルをそらすためのものと思われてしまった。

 民進党は自由な民主政党なので、党内批判も自由にできる。しかし、総統選挙や立法
委員選挙の党公認候補者選びの過程において、内紛が絶えず、親民党との選挙協力に成
功した国民党と対照的に、立法委員選挙で民進党は台湾団結連盟(台連)との候補者選
びで激しく対立してしまい、団結や感動が冷めてしまった。

 民進党と台連が決定的に対立した原因は、2005年の憲法改正による小選挙区制の導入
である。台連は少数派の民意を尊重するためにドイツ式(得票率で総獲得議席が決まる)
を主張したが、民進党と国民党の2大政党が手を結んで、小政党が生き残れない日本式
に近い小選挙区制を導入してしまった。また、比例代表では、5%のハードルが設けら
れ、台連以外にもミニ政党が乱立したため、第3勢力の票が分散し、台連も5%を超え
られず、議席をすべて失った。

 民進党は当時第1党であれば小選挙区でも勝てると考えていたのだろうが、国民党と
親民党を足して過半数だった国会の状況を考えれば、これは民進党には不利な制度だっ
た。各選挙区は県長選挙と市・郷長選挙のちょうど真ん中の規模だが、これは地元利権
派の政治家が影響力を発揮するちょうどよい大きさだった。

 国民党は地元利権派の候補調整にうまく行ったので、小選挙区での戦いを有利に進め
た。

 小選挙区で大勝した国民党は、組織をフル活用できた。一方、民進党は落選した台連
の一部の議員が選挙の怨念からか国民党支持に回ってしまい、特に台連元議員が国民党
支持を表明した高雄市と台南市では国民党の得票のほうが多かった。

 民進党は、今後政権の座から下りて野党になるが、台湾にとって幸いなことは、野党
が台湾派になったことだ。これまで、民進党は与党の立場であったとき、国会で多数を
握る野党が中国的な立場から攻撃するため、「ねじれ」状態が8年間続いた民進党は理
想や目標をはっきり語れなかった。今後、国民党は中国からの脅威に直接与党として向
き合うことになり、少しは現実路線になるだろう。

 従来、中国の意を受けた外国の反対などに、国民党が呼応して政府を攻撃して台湾の
足を引っ張ったりしたが、今度は台湾に根ざした台湾にとって建設的な批判や対案が野
党から示されることになる。これは長期的に見れば、国民党の台湾化を促し、台湾派の
2大政党という理想には近づくかもしれない。

 民進党の今後の役割は、国民党が台湾路線から外れないよう監督し、国民党の台湾化
を促すことが重要となるだろう。



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