「小三通」腹探り合い(蔡英文と台湾12)  鵜飼 啓(朝日新聞台北支局長)

【朝日新聞:2016年6月11日】
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12403965.html?rm=149
写真:「小三通」に向け、金門島を視察する蔡英文氏(中央)=2000年11月、台湾・中央通信社提供

 台湾総統の蔡英文(ツァイインウェン)が対中政策を担う閣僚、大陸委員会主任委員だった4年
間で、最大の功績と誇るのが「小三通」だ。

 今でこそ、各都市間で直航便が頻繁に往来する中台だが、2000年の民進党への政権交代時は、互
いに行き来するには第三地を経由する必要があった。

 そこで、台湾の離島、金門、馬祖と中国福建省を結び、限定的に「通商、通航、通信」を開放し
ようというのが小三通だった。

「『小三通』を優先目標とし、大陸側と協議を行い、両岸(中台)関係の新局面を切り開く」

 蔡は主任委員就任から9日目の00年5月29日、立法院(国会)内政・民族委員会でそう語ってい
る。

 当時、金門などでは中国側とこっそり物品をやりとりする「少額貿易」という密輸が行われてお
り、小三通はいわばこれを合法化するものだった。だが、港湾施設や税関手続きをどうするのか、
作業は各部局にまたがり、繁雑を極めた。

 大陸委で蔡の腹心だったセン志宏は「(対中最前線の)金門島には軍事施設が多く、弾薬庫や部
隊を動かすよう軍を説得しなければならなかった」と振り返る。部局間の調整では蔡が力量を発揮
したという。

 政権の出方を見守る中国は接触を断ち、直接交渉ができない状況だった。「(中国の)新華社や
(台湾の)中国時報、聯合報に記事を載せて、腹を探り合った。ビジネスマンや学者を通じて意向
を伝えることも多かった」とセンは明かす。

 準備は急ピッチで進められ、政権発足から半年余りの01年1月2日、台湾の客船が当局公認で初め
て中国に渡ることになる。

 野党・国民党に属する当時の大陸委幹部は「小三通は国民党政権下で施行した離島建設条例で道
が開かれた」と、功績は蔡だけのものではないと話す。

 一方、対中窓口機関・海峡交流基金会の高官だった許恵祐の評価はこうだ。「我々のほとんどが
小三通は中国が絶対に受け入れないと思っていたが、蔡だけは違っていた。枠にとらわれない考え
ができる人だ」=敬称略

                                    (台北=鵜飼啓)


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