「台湾は中国の一部」と言い切る郭台銘のヤバさ  福島 香織(ジャーナリスト)

【JBpress(Japan Business Press):2019年5月9日】

「台湾は中国の一部」と言い切る郭台銘のヤバさ「台湾」を中国に売り飛ばすかもしれない中国版トランプ

 中国版トランプ、というべきか。台湾の大実業家、郭台銘(テリー・ゴウ)が国民党の総統候補選びの予備選挙に4月17日に出馬表明をしてから、その動向に注目が集まっている。独特のカリスマ性に加えて、言うことなすこと大仰で、ついつい目が離せない。

 台湾の民意調査では、いまのところ一番総統に近い男。世新大学が17日に発表した民意調査では、郭台銘と現職総統の蔡英文が一騎打ちになった場合、郭台銘が20ポイントリードして、郭台銘支持50.2%、蔡英文支持27.1%。蔡英文の代わりに元行政院長の頼清徳が候補になったとしても、やはり郭台銘が9ポイントリードしているという。郭台銘は総統選挙のたびに出馬の噂があり、そのたびに民意調査では、圧倒的な支持率を得ている。

 昨年(2018年)の統一総統選で民進党の牙城・高雄市長の座を奪った韓国瑜もそうだが、ああいうほら吹きタイプのいかにも強いリーダー風のキャラクターは、台湾では人気が出やすい。私も郭台銘は出馬すれば勝てるタイプの候補だと思う。だから、彼は危険だ。特に国民党から出馬すると非常に危険だ。なぜなら彼は真の大中華主義者であり、習近平の親友であり、そして習近平政権の「中国製造2025」成功の鍵を握る人物だからだ。

 大言壮語の傾向といい、相手を振り回す言動の変化といい、実業家から大統領になったパターンといい、カリスマ性といい、トランプに非常によく似ているが、トランプのアイデンティティは完全に白人国家としての米国である。だが、郭台銘には「台湾」に対する忠誠心はない。大中華主義達成のためなら「台湾」を売り飛ばす可能性だってあるだろう。

◆中国が育て上げた工作員?

 郭台銘について簡単に説明しておこう。世界最大手の電子機器請負生産(EMS)企業、鴻海(ホンハイ)精密工業の会長であり、2018年のフォーブス誌が選ぶ長者番付では台湾一の資産家に返り咲いた大富豪。米アップルのiPhoneの最大サプライヤーとしてもよく知られ、中国における子会社フォックスコンの工場では中国に100万人の雇用をつくった。最近はアップルからの受注減もあって、中国の工場も縮小中、最盛期のことを思えば資産は2割以上目減りしているし、鴻海の事業の勢いも少し落ちているものの、今でも欲しいものは何でも手に入る大セレブ。

 そんな大セレブだから、本当なら台湾総統といっためんどくさいポストに就きたくないだろう。2016年に出馬の噂がたったときは「一番なりたくない職業は総統」と言い切っていた。それが「媽祖(中国の航海の守護神)が夢枕に立って2020年の台湾総統選に出馬せよ、とお告げがあった」として4月17日に出馬表明していた。だとしたら、その媽祖の顔は習近平に似ていたかもしれない。

 というのも郭台銘は「中国が台湾支配のために時間をかけて育て上げた工作員」(米国に亡命中の元政商・郭文貴の発言)とも囁かれているからだ。

 郭文貴も放言癖があるので、その発言の鵜呑みは要注意だが、確かに郭台銘と中国共産党との付き合いは深い。1988年に中国に進出、2001年以来、鴻海傘下のフォックスコン深セン工場に共産党委員会が設置されて以来、すべての中国内グループ会社に党支部があることは周知の事実だ。さらに昨年はフォックスコン党校まで作って、自らの企業で共産党エリートを育てる方針を打ち出した。

 歴代指導者との関係も深く、習近平からは「老朋友(親友)」と呼ばれている。工場では連続自殺事件や、暴動といった問題を何度も起こしているが、共産党の介入で丸く収めてきた。郭台銘は2013年11月5日の両岸企業家紫金山サミットの会場で、習近平の「中華民族の偉大なる復興」という「中国の夢」について、その話を聞いたとき「血が沸き立った」と絶賛して語るほど習近平の新時代思想に傾倒している、らしい。

 そもそも郭台銘の出馬表明は当然社内の党委員会を通じて、党中央が了承しているはずである。また2014年のひまわり学生運動のときは「民主主義で飯が食えるか」「民主主義はGDPに何の役にもたたない」と発言して学生運動を完全否定したことがある。

 中国は当初、韓国瑜を国民党総統候補の本命とみて賢明に根回していたフシがある。だが、韓国瑜は4月の訪米中に「国防は米国に頼り、科学技術は日本に頼り、市場は大陸に頼る」と公言。この発言に、習近平が韓国瑜を見限った、という噂がある。

◆「台湾は中国と不可分の一部だ」

 年初からの台湾に対する恫喝の様子をみるに、習近平は自分が総書記の座にある間に台湾の統一を実現すると決意しており、次の選挙で国民党が政権をとったら「和平協議」、民進党がとったら「武力統一」といった踏み絵を台湾有権者に踏ませるつもりでいるようだ。国民党主席の呉敦儀はすでに、次に政権をとったら「和平協議」の方針を表明している。民進党の総統候補になるかもしれない現職の蔡英文は「和平協議」は受け入れないとしている。つまり国民党が勝てば「和平協議」。民進党が勝てば「武力統一」と、中国は迫りたいのだ。

 だが、国民党が政権をとり「和平協議」に進んでも、「国防は米国」という韓国瑜が総統であれば、これは中国の望む「和平協議」の形にはならない。中国としては、和平協議の着地点は中台統一以外になく、中台統一は共産党政権の指導のもとの一国二制度しかありえないので、台湾が国防で解放軍と敵対する米軍と組むことは絶対に許せない。郭台銘は日ごろから、中国との平和安定的関係が一番の国防策だと言っている。そこで、中国の意にそってくれる郭台銘というカードをここで切ろう、ということになったのではないか。

 彼は5月1日に、トランプと会談しているのだが、その時、中華民国の旗である「晴天白日旗」のついたキャップを被り、同じものをトランプにプレゼントしたそうだ。「私が総統になったら中華民国の総統として訪米する」などと会談後、記者たちに語っている。そして、中国の報道が、彼の帽子の「青天白日旗」にモザイクをかける、として、大陸・中国への不満を語ってみせた。

 だが、彼は中華民国と中国が別の国だ、と米国に向かってアピールしているように見えて、実のところ両岸統一支持者なのだ。

 その証拠に訪米から台湾に戻る飛行機の中で随行の記者たちに「台湾は中国と不可分の一部だ。その強調すべき意味は、両岸は同じ中華民族だということだ」と語っている。彼の場合は、中国への不満を言って見せることも、中国から許されているくらい信用されている、と見るべきだ。

 トランプは台湾を中国に統一させないために台湾旅行法はじめ、数々の手を打っている。台湾は米国のアジア戦略における要であり、台湾が中国に統一されてしまったら、米国のアジア戦略自体が根底から崩れてしまう。郭台銘は自分が出馬するとなれば、米国が妨害しかねないと見て、トランプの警戒を解こうという目的で、中国と違う国としての「中華民国」をアピールして見せたのだろう。

 だが、今現在、中華民国憲法が定めるような「中華民国」というものはフィクションの世界にしか存在しない。あるのは「台湾」という島を中心にした島嶼国で、中国とは完全に違う国である。郭台銘が言う「中華民国と中国は(概念上)違う国だ」というのと、普通の台湾人が「台湾と中国は(現実の国境線で区切られた)違う国なのだ」というのと、実はかなり意味が違うのだ。トランプにそれが伝わっただろうか。

 ホワイトハウスの広報によれば、この会談でトランプは、郭台銘の出馬に対しては特に支持も不支持も言わなかった。ただ、トランプと会って話せる郭台銘、というブランドを台湾有権者にアピールする意味は大きかっただろう。

 郭台銘と中国共産党の利益供与関係は、さらに「中国製造2025」の成功、ひいては米中の5G覇権、次世代通信覇権争いを左右する。鴻海・シャープが珠海に建設する半導体工場は、直径300ミリシリコンウェハーを使う最新鋭工場。建設費用1兆円規模で、珠海市が半分以上負担する。中国が米国との新冷戦構造で必ず克服しなければいけない「半導体の完全国産」は郭台銘率いる鴻海集団が買収したシャープが鍵を握る、かもしれないわけだ。

◆独立か統一か、台湾人の心の内は?

 ここまで中国共産党と密接な郭台銘が総統選に出馬して、台湾有権者が彼を選ぶということがあるのか、と思う方もあろう。

 だが、最近の民意調査を見てみよう。聯合報4月9日付けで、台湾生まれの米デューク大学教授、牛銘実が行った台湾民意調査結果が報じられている。それによると、「台湾が独立を宣言すれば大陸(中国)の武力侵攻を引き起こすが、あなたはそれでも台湾独立に賛成するか?」という質問には、賛成は18.1%、非常に賛成は11.7%と合わせても3割に満たなかった。一方、「大陸が台湾を攻めてこないならば、あなたは独立宣言に賛成か?」という質問には賛成が25.9%、非常に賛成が36.1%と、62%が賛成。

 台湾と大陸の未来について、両岸統一が比較的可能か、独立が比較的可能か、どちらだと思うかという問いには、48.1%が独立より統一の方が可能と答え、29.6%が独立の方が可能と答え、回答拒否が22.2%あった。

 牛銘実の分析では、台湾人はコストの概念が強く現実主義で、独立はしたいが、戦争という高いコストがかかるようなら、独立か統一かという二者択一を迫られた場合は統一を選ぶという傾向があるという。習近平政権が本気の戦争モードで圧力をかけながら、統一か戦争かを迫り、現状維持という選択肢を許さないようであれば、世論は統一に傾く可能性があるということだ。

 また郭台銘はあまりにも親中的だが、晴天白日旗の帽子をかぶってホワイトハウスに訪問するパフォーマンスもでき、日本の大企業も買収しており、世界各国にパイプを持つ。民主主義と衆愚政治は紙一重、そういう表面の魅力に一票を入れてしまう有権者は多いだろう。

 さて、日本にとっては、国家安全保障上も台湾に対する心情からしても、今度の選挙は民進党に勝利してもらい、民主主義国家の体を維持してほしい。だが、民進党の人気のなさよ。

 もっともこの台湾の総選挙の本質も米中新冷戦構造の代理戦争だと考えれば、米国の今後の出方によって世論も候補も変わってくる可能性は大いにある。日本としてできることは、台湾が直面している不安や恐れを少しでも和らげられる国際環境のために尽力することだろう。


【日本李登輝友の会:取扱い本・DVDなど】 内容紹介 ⇒ http://www.ritouki.jp/

*ご案内の詳細は本会ホームページをご覧ください。

● 台湾フルーツビール・台湾ビールお申し込みフォーム
  https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/rfdavoadkuze

*台湾ビール(缶)は在庫が少なく、お申し込みの受付は卸元に在庫を確認してからご連絡しますの
 で、お振り込みは確認後にお願いします。【2016年12月8日】

● 美味しい台湾産食品お申し込みフォーム【常時受付】
  https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/nbd1foecagex

*本会でご案内してきた台湾の高級調味料XO醤は、このほど台湾メーカーの都合により日本へ出
 荷できなくなったことが判明しました。今後も入荷できない状況となりましたのでご案内を取り
 止めます。ご了承のほどお願いします。(2019年4月16日)

● 2019年:ドラゴンライチ、黒葉ライチお申し込みフォーム *new
  https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/96xzbtxzdhkn

● 2019年:特選台湾産アップルマンゴーお申し込みフォーム *new
  https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/j1nloiu8pdbz

● 台湾土産の定番パイナップルケーキとマンゴーケーキのお申し込み【常時受付】
  https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/nbd1foecagex
 *詳細は本会HP ⇒ http://www.ritouki.jp/index.php/info/2018pineapplecake/

*沖縄県や伊豆諸島を含む一部離島への送料は、宅配便の都合により、恐縮ですが1件につき
 1,000円(税込)を別途ご負担いただきます。【2014年11月14日】

*パイナップルケーキ・マンゴーケーキを同一先へ一緒にお届けの場合、送料は10箱まで600円。

・奇美食品の「鳳梨酥」「芒果酥」 2,900円+送料600円(共に税込、常温便)
 [同一先へお届けの場合、10箱まで600円]

・最高級珍味「台湾産天然カラスミ」 4,160円+送料700円(共に税込、冷蔵便)
 [同一先へお届けの場合、10枚まで700円]

● 書籍お申し込みフォーム
  https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/uzypfmwvv2px

・浅野和生編著『日台関係を繋いだ台湾の人びと(1)・(2)』*new
・劉嘉雨著『僕たちが零戦をつくった─台湾少年工の手記』 *在庫僅少
・渡辺利夫著『決定版・脱亜論─今こそ明治維新のリアリズムに学べ』
・呉密察(故宮博物院長)監修『台湾史小事典』(第三版)  *在庫僅少
・王育徳著『台湾─苦悶するその歴史』(英訳版) *在庫僅少
・浅野和生編著『1895-1945 日本統治下の台湾
・王明理著『詩集・故郷のひまわり』
・李登輝著『李登輝より日本へ 贈る言葉』 *在庫僅少
・宗像隆幸・趙天徳編訳『台湾独立建国運動の指導者 黄昭堂
・林建良著『中国ガン─台湾人医師の処方箋』 *在庫僅少
・盧千恵著『フォルモサ便り』(日文・漢文併載)
・黄文雄著『哲人政治家 李登輝の原点
・李筱峰著・蕭錦文訳『二二八事件の真相』

● 台湾・友愛グループ『友愛』お申し込みフォーム
https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/hevw09gfk1vr

*第1号〜第15号(最新刊)まですべてそろいました。【2017年6月8日】

● 映画DVDお申し込みフォーム
https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/0uhrwefal5za

・『海の彼方』
・『台湾萬歳』
・『湾生回家』
・『KANO 1931海の向こうの甲子園』*在庫僅少
・『台湾アイデンティティー
・『台湾アイデンティティー』+『台湾人生』ツインパック
・『セデック・バレ』(豪華版)
・『セデック・バレ』(通常版)
・『台湾人生

● 講演会DVDお申し込みフォーム
https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/fmj997u85wa3

・2018年 李登輝元総統沖縄ご訪問(2018年6月23日・24日)*new
・2014年 李登輝元総統ご来日(2014年9月19日〜25日)
・片倉佳史先生講演録「今こそ考えたい、日本と台湾の絆」(2013年12月23日)
・渡部昇一先生講演録「集団的自衛権の確立と台湾」(2013年3月24日)
・野口健先生講演録「台湾からの再出発」(2010年12月23日)
・許世楷駐日代表ご夫妻送別会(2008年6月1日)
・2007年 李登輝前総統来日特集「奥の細道」探訪の旅(2007年5月30日〜6月10日)
・2004年 李登輝前総統来日特集(2004年12月27日〜2005年1月2日)
・許世楷先生講演録「台湾の現状と日台関係の展望」(2005年4月3日)
・盧千恵先生講演録「私と世界人権宣言─深い日本との関わり」(2004年12月23日)
・許世楷新駐日代表歓迎会(2004年7月18日)
・平成15年 日台共栄の夕べ(2003年11月30日)
・中嶋嶺雄先生講演録「台湾の将来と日本」(2003年6月1日)
・日本李登輝友の会設立総会(2002年12月15日)


◆日本李登輝友の会「入会のご案内」

・入会案内:http://www.ritouki.jp/index.php/guidance/
・入会申し込みフォーム:https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/4pew5sg3br46


◆メールマガジン日台共栄

日本の「生命線」台湾との交流活動や他では知りえない台湾情報を、日本李登輝友の会の活動情報
とともに配信する、日本李登輝友の会の公式メルマガ。

●発 行:
日本李登輝友の会(渡辺利夫会長)
〒113-0033 東京都文京区本郷2-36-9 西ビル2A
TEL:03-3868-2111 FAX:03-3868-2101
E-mail:info@ritouki.jp
ホームページ:http://www.ritouki.jp/
Facebook:http://goo.gl/qQUX1
 Twitter:https://twitter.com/jritouki

●事務局:
午前10時〜午後6時(土・日・祝日は休み)

●振込先:

銀行口座
みずほ銀行 本郷支店 普通 2750564
日本李登輝友の会 事務局長 柚原正敬
(ニホンリトウキトモノカイ ジムキョクチョウ ユハラマサタカ)

郵便振替口座
加入者名:日本李登輝友の会(ニホンリトウキトモノカイ)
口座番号:00110−4−609117

郵便貯金口座
記号−番号:10180−95214171
加入者名:日本李登輝友の会(ニホンリトウキトモノカイ)

ゆうちょ銀行
加入者名:日本李登輝友の会 (ニホンリトウキトモノカイ)
店名:〇一八 店番:018 普通預金:9521417
*他の銀行やインターネットからのお振り込みもできます。