黄胤毓監督のドキュメンタリー映画『緑の牢獄』が3月27日から沖縄で上映

黄胤毓監督のドキュメンタリー映画『緑の牢獄』が3月27日から沖縄で上映

 台湾出身の映画監督、黄胤毓(こう・いんいく)氏は沖縄・八重山に暮らす台湾出身者を撮り続けている。前作『海の彼方』(2016年)では、石垣島に暮らす米寿の玉木玉代さんを取り上げ、玉代おばあの“最後の里帰り”を通じ、時代に翻弄された玉木家の歴史=移民の歴史を描き出した。

 このほど西表島に暮らす台湾出身の老婆、橋間良子さん(90歳)の生涯に光を当てた映画『緑の牢獄』 が完成、3月27日より沖縄・桜坂劇場で先行上映され、4月には東京のポレポレ東中野や大阪の第七藝術劇場などで上映される予定だそうです。

◆映画『緑の牢獄』公式サイト *予告編も収載 https://green-jail.com/

—————————————————————————————–台湾から八重山諸島に渡った“越境者”たちとその現在を独自の視点から描きだす。台湾注目の異才 黄インイク監督が7年間の歳月を費やした渾身の一作 『緑の牢獄』【シネフィル:2021年2月9日】https://cinefil.tokyo/_ct/17430822

 沖縄を拠点として活動する黄インイク監督が7年間の歳月を費やした渾身の一作映画『緑の牢獄』 が完成し、2021年3月27日(土)より沖縄・桜坂劇場を皮切りに東京・ポレポレ東中野、大阪・第七藝術劇場をはじめ全国ロードショーを行います。

 日本と台湾、そして沖縄の狭間で生きた一人の軌跡

 忘れ去られた人々の記憶に、いま光が当てられる

 橋間良子、90歳。本作の主人公は緑豊かなジャングルに覆われた沖縄県西表島に暮らしている。彼女は植民地時代の台湾から養父とともに島へやって来て、人生のほとんどをこの島で過ごした。子どもたちはみな島を離れ、家の一室は島に流れ着いたアメリカ人の青年に貸し与えている。彼女は不器用ながらも集落の人々や島を訪れた人とコミュニケーションを取る。外に出ない日はずっとテレビを見て、うたた寝をする。ここまではありふれた離島の老人の日常かもしれない。

 本作ではさらに彼女の記憶へと焦点を合わせる。西表島には人知れず眠る巨大な「炭鉱」があった。半世紀以上放置された 炭鉱は今ではイノシシやコウモリの住処と化している。暴力、 伝染病、麻薬、かつて繁栄とともに渦巻いた負の歴史も今では地の底に沈んでしまった。良子の養父は炭鉱の親方で、労働者の斡旋や管理をしていた。貧しくはない家庭であったが、彼女はいまなお炭鉱に後ろめたさを抱いている。

 忘れられない記憶たちが彼女の脳裏を過ぎる──島を出て音信不通となった子ども、炭鉱の暗い過去、父への問いかけ。希望、怒り、不安、そして後悔、その思いとともになぜ彼女はただ一人、島に残り続けるのか。長年の記録映像に加えて、歴史アーカイブ、そして夢や記憶のパートでは再現ドラマを駆使して一人の人間を多角的に描き出す新しい時代のドキュメンタリー。

 作品に向けて映画監督の河?直美は「死をこんなにも美しく、不在をこんなにも豊かに描ける作家がここにいる」とコメントを寄せた。

 本作は沖縄を拠点に活動する黄インイク監督が7年間の歳月を費やした渾身の一作。企画段階で既にベルリン国際映画祭、ニヨン国際ドキュメンタリー映画祭など各国映画祭の企画部門に入選。前作『海の彼方』に続き、台湾から八重山諸島に渡った“越境者”たちとその現在を独自の視点から描きだす。

「私は大きな歴史の中に埋もれる個人的な歴史に焦点を当ててきました。沖縄がもつ特殊な近代史を遡ると、彼女がこの帝国と植民地の辺境で経験したトラウマや、常に日本と台湾で“移民”や“部外者”として生きた傷跡が感情的に絡み合い、そのほどけない結び目と本作では向き合ってきました」

 と監督の黄インイクは語る。彼女が人生最期に放つ静かな輝きが、見る者に人生の意味を問いかける。

 何もない空間に、確かにある気配を映し撮る撮影者の息遣い。それは、過去や未来の時空を超えて、永遠となる。老婆の顔に染み付いたシミの跡は、人生の軌跡。─ 河瀬直美(映画監督)

 『緑の牢獄』を観終わってただちに思い出されたのは、溝口健二『山椒大夫』の結末部であった。歴史から追放され、置き去りにされた人たちが、歴史の証人となる。恐るべき緑のなかの、貴重な静寂である。─ 四方田犬彦(映画誌・比較文学研究家)

 その場所は、「緑の牢獄」と呼ばれた。あまりにも美しい森だが、過酷な作業環境で石炭を掘り、彼らの姿はいかにも哀れであった。そして肉体だけではなく、魂さえも囚われた。─ ウェイ・ダーシェン 魏?聖(映画監督)

 日本と台湾の中間地帯であり、炭鉱のある西表島で人生の大半を送った台湾出身者、橋間良子さん。流暢な台湾語と、少しどたどしい沖縄なまりの日本語。彼女の言葉は、その間をゆらゆらと行き来する。その不自然さこそ、西表島に取り残された「最後の台湾人」の存在を物語っている。故郷を失い、「緑の牢獄」の囚われ人になった彼女の運命は、幸福や不幸といった言葉では簡単に片付けられない。時代の流れに巻き込まれた漂流者の姿に私たち観客は視線を釘付けにされるはずだ。─ 野嶋剛(ジャーナリスト)

 西表に生きた台湾の同胞たち。石炭が光り輝いた時代に生きた彼らは、時代に取り残されたかもしれないが、「台湾」は確かに島に存在した。橋間おばあは、その生き証人。この貴重な記録映像は彼女の魂の声であり、見る者の心に、静かに、重く響き渡る。─ 一青妙(作家・役者)

 西表炭鉱の最後の残り火が消えた。生まれ故郷の台湾から、炭鉱労働者の管理人の養女として海を渡ってきた橋間良子(旧名・江氏緞)にとって、西表はやはり「緑の牢獄」であり、彼女はその犠牲者であった。戦後、「牢獄」から解き放たれた彼女に、もはや帰るべき故郷はなかった。─ 三木健(ジャーナリスト)

 この映画は、過酷な土地の記憶を刻んだ記録であると同時に、「故郷」から切り離された人々の物語でもある。─ 安田菜津紀(フォトジャーナリスト)

 鬱蒼と茂る森林、果てしなく広がる海原。陽射しが燦々と照りつける美しい秘境に隠されているのは、極東の島々に連なる暗い歴史。最後の証言者が世を去った後、それを記憶し、語り継ぐのはきっと、芸術の使命だと思う。─ 李琴峰(作家・翻訳家)

監督プロフィール:黄インイク(コウインイク)沖縄在住、台湾出身の映画監督・プロデューサー。東京造形大学大学院映画専攻修了後、台湾と沖縄 を拠点とする映画製作・配給会社「ムープロ」(台湾と日本でそれぞれ「木林電影」「株式会社ムー リンプロダクション」)を設立、映画活動を行う。長編ドキュメンタリー作品『海の彼方』(2016 年)、『緑の牢獄』(2021年)。石垣島ゆがふ国際映画祭プログラムディレクターを務める

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