リトアニアが台湾との関係を強化しはじめた理由  三井 美奈(産経新聞パリ支局長)

リトアニアが台湾との関係を強化しはじめた理由  三井 美奈(産経新聞パリ支局長)

 2021年の台湾をめぐる動きとして、本誌ではヨーロッパや北欧が台湾との関係を強化する動きに注目してきました。この動きは、中国によるウイグル族への「ジェノサイド(民族集団虐殺)」という人権弾圧に発していたことも併せてお伝えしてきました。今年の台湾をめぐる動きを象徴する事柄です。

 昨日の産経新聞の1面トップは、政府が1月の通常国会への提出をめざす経済安全保障推進法案の進捗状況を伝える記事でしたが、2番目の記事は、リトアニアなどの北欧や東欧諸国が台湾との関係を強化しはじめた背景を伝える三井三奈・パリ支局長による記事でした。

 11月29日にリトアニア、エストニア、ラトビアの国会議員団が台北で開催されるフォーラム「2021年開放国会論壇」に参加するために訪台しましたが、その一人だったリトアニア国会議員が「中国に威嚇される台湾が、自国と重なる」と話していることや、リトアニア独立運動の英雄ビタウタス・ランズベルギス氏が11月に首都リビニュスに開設された「駐リトアニア台湾代表処」を激励に訪れたというエピソードをはさみつつ、「リトアニアの『中国離れ』を決定的にしたのは、最大の脅威であるロシアと中国の結びつきだ」と指摘しています。

 リトアニアの人々には、ソ連の弾圧に苦しんだ歴史がいまも生々しい記憶として残っていることが最大の要因ではないかと指摘しています。

 台湾の人々もまた、蒋介石の独裁政権による1947年の2・28事件やその後の白色テロの記憶は生々しく残っています。触れればまだ血の出そうな記憶です。それに加えて、今度は中国による数々の弾圧です。

 人口280万人という東欧の小国リトアニアの決然とした行動がいまやヨーロッパ連合(EU)を動かし、台湾との関係強化に向けて動き始めたことを伝える、今年の最後を飾るにふさわしい記事です。

 日米首脳会談や先進7ヵ国首脳会議でも共有された「中国への深刻な懸念」と「台湾海峡の平和と安定」という認識が、ヨーロッパではリトアニアの奮起でいまや全体的な動きまでなりつつあります。まことに喜ばしい現象です。

 ただ、日本でも中国の動きへの警戒感は高くなっていますが、ともすれば見失いがちなロシアの動きにも注意すべきをリトアニアの動きから教わりました。今後、本誌でも中国ばかりでなくロシアの動きにも意を払った記事を載せていこうと思います。

 下記に、三井美奈・パリ支局長による記事をご紹介します。

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三井美奈(みつい・みな)昭和42年(1967年)、奈良県生まれ。1989年、一橋大学社会学部卒業後、読売新聞社入社。ブリュッセル支局員、エルサレム支局長、ハーバード大学日米関係プログラム客員研究員、パリ支局長、国際部デスクなどを歴任。2016年、産経新聞社に入社し外信部編集委員を経て2017年よりパリ支局長。

—————————————————————————————–旧ソ連の弾圧、台湾に重ね リトアニアなど東欧 中国に憤り【産経新聞:2021年12月29日】https://www.sankei.com/article/20211228-UPY33BKH6BMRTAUQKINVXKKEAI/?260463

 旧ソ連圏のバルト三国の一つ、リトアニアが台湾への接近を進めている。中国がロシアと歩調を合わせ、近隣の民主主義圏を揺さぶっていることへの警戒感が強いからだ。東欧諸国は、かつて中国との経済関係構築に熱心だったが、台湾との関係構築を探り始め、欧州連合(EU)の外交を動かしている。(ビリニュス 三井美奈)

 リトアニアは今年5月、中国と東欧17カ国の経済協力枠組み「17プラス1」から脱退を表明。11月には「台湾代表処」(大使館に相当)設置を受け入れた。

 今月初めまで台湾を訪問したドビレ・シャカリエン国会議員(43)は「わが国は、国民の5人に1人がソ連の弾圧に苦しんだ経験を持つ。中国に威嚇される台湾が、自国と重なるのです」と話す。シャカリエン氏の祖父はソ連の徴兵を拒み、シベリアに送られた。祖母も反体制派の烙印(らくいん)を押され、追放された。

◆ソ連弾圧の記憶

 リトアニアは1940年にソ連に併合された。90年の独立回復宣言までに、28万人がシベリア追放や強制収容の犠牲になったとされる。人口は約280万で茨城県並みだが、共産主義の大国との戦いは国民の心に刻まれ、民主化への思いは強い。首都ビリニュスの中心部には、チベット民主化支援の印として造られた「チベット公園」がある。

 リトアニアは2017年、中国と巨大経済圏構想「一帯一路」の覚書を結んだ。親中外交からの転換は新疆(しんきょう)ウイグル自治区や香港の人権問題が契機となった。

 ビリニュス大のコンスタンチナス・アンドリヤウスカス准教授は「香港の民主化を支援する市民デモを、中国が妨害したのです。衝撃は大きかった」と話す。

 事件は19年、ビリニュスの国会前で起きた。香港やチベットの旗を掲げた市民の列に突然、中国国旗を掲げた集団が「香港は永遠に中国のもの」と叫んで乱入した。リトアニア外務省は「中国外交官が関与した」と批判し、中国大使を呼んで直接抗議した。

 同年末には、「香港に自由を」と書かれた十字架を中国人女性が笑いながら投げ捨てる動画がネット上に投稿された。現場は「十字架の丘」と呼ばれ、ソ連による弾圧の犠牲者を悼む「国民の聖地」。蛮行への激しい憤りが広がり、警察が捜査に乗り出した。

 国会は今年5月、ウイグル自治区のジェノサイド(集団殺害)疑惑で調査を求める決議を採択した。

◆独立の英雄も激励

 台湾代表処は国会に近い高層ビルの最上階にある。黄釣耀(こう・きんよう)代表は「街頭で『がんばれ』と声をかけられる」と笑みをこぼす。独立運動の英雄、ビタウタス・ランズベルギス氏も代表処を激励に訪れたという。現在は89歳。親台政策を進めるランズベルギス現外相は、その孫だ。

 リトアニアの「中国離れ」を決定的にしたのは、最大の脅威であるロシアと中国の結びつきだ。

 ロシアは今秋、ベラルーシとともに20万人規模の軍事演習を実施。続いて中国軍機が台湾の防空識別圏に連日侵入した。プロパガンダ流布やサイバー攻撃などなどの揺さぶり手法でもロシアと中国は酷似している。

 リトアニア情報部は19年の報告書で、中国の脅威を指摘。国防省は今年9月、中国製携帯電話に「台湾独立万歳」などの用語の検閲機能が仕組まれているとして、国民に使用を避けるよう異例の勧告を行った。

◆米欧連携の試金石

 シャカリエン氏と訪台したエストニアのマディス・ミリング国会議員は「共産主義と戦った歴史はわが国も同じ。政府は静かに台湾への接近を探っている」と話す。エストニアは「17プラス1」会議への首脳参加を見送った。

 東欧では半導体など台湾のハイテク産業誘致への期待も強い。ポーランド、スロバキア、チェコはそれぞれ新型コロナウイルスのワクチンを台湾に供与し、関係作りに出た。

 スロバキアは今月初め、経済次官らの代表団を台湾に派遣。チェコでは今月発足したフィアラ政権が人権重視の外交を掲げる。一方、ハンガリーやセルビアは中国のインフラ投資に頼り、温度差もある。

 アンドリヤウスカス氏は「各国は米国が『アジア重視、欧州離れ』に動くことを心配している。台湾支援には米欧民主主義の結束を訴える狙いもある」と指摘する。

 EUは9月に発表したインド太平洋戦略で、台湾と貿易やデータ保護で関係を強める方針を明記。中国がリトアニアへの報復で貿易制限に動くと、欧州委員会は「世界貿易機関(WTO)のルールに抵触する可能性があり、調査する」と警告した。中国の威圧的外交に、EUも重い腰を上げ始めた。

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