――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習8)

【知道中国 2342回】                       二二・三・仲七

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習8)

ついでながら『小學算術教學講話』は、その後の中国を大混乱の坩堝に叩き込んだ毛沢東思想の「も」の字にも、共産党の「き」の字にも言及することはなかった。

53年に朝鮮戦争も終わり、共産党政権は社会主義体制建設に取り掛かる。都市では「公私合営制度」を掲げ、経営規模の大小を問わず私企業を解体し資本家の存在を消してゆく。農村では農民が土地を持ち寄り、合作社から高級合作社へと規模を拡大させ農業の集団化への道を踏み出す。土地改革で地主から取り上げた土地を農民に分け与えた数年後、共産党は再び取り上げた。これが集団化の実態であり、農民は糠喜びしただけ。アコギな話だ。

社会全体が社会主義化に突き進む55年に出版された『少年児童知識叢書 沙和泥』(李家治 少年児童出版社)は、次のように書き出されている。

「砂と土は地上で最も多く、最も簡単に手に入れることのできるものです。だが、キミたちは、その用途は限られているなどと思わないで下さい。いいですか。それがなければ、ボクたちは1日だっていられません。わが祖国の建設事業において、とっても重要な役割を果たしているのです。将来、もっともっと科学が発達したら、砂と土の使い道はますます広がるでしょう。この本はチッポケですが、キミたちに砂と土についての様々な知識を伝えようとするものです」

 数万年、あるいは数10万年もかかって岩石は砂や泥に、砂や泥は岩石に変化する。砂と泥は兄弟の関係であり、粒子の大きい砂が兄で、細かいのが弟の土。だから兄弟の母親は大きな岩石ということになるらしい。

「時に兄さんの砂の粒子はどんどん小さくなって、弟の土と同じくらいに小さくなることもあります。そこで、ボクたちには兄弟を見分ける方法がないようですが、そんなことはありません。やはり兄弟ですから確かに似た性質を持っていますが、それぞれに別々の性質を多く持ってもいるのです」と、砂と土の性質を説明する。

「土を使って陶器を作ったのは中国人の偉大な発明です。我われ中国人は、すでに4、5千年の昔に美しい彩陶器を作り出したのです。ガラスはエジプトでも数千年の歴史を持っています」と、砂と土の性質を利用して人類が最初に発明した陶器とガラスについて具体的に語り始める。

おそらく「中華民族の偉大な復興」を掲げる現在なら、ガラスも陶器と同じように「中華民族の偉大」な発明だと声高に言い張るだろうが、当時は社会主義建設がはじまったばかりでもあり、遠慮・謙虚という“徳目”を知っていたようだ陶器とガラスの後、砂と土を材料とする工業用品――「陶器と同じ家族」のレンガ、「人工の石」であるセメント、土で作り上げた綿花の石綿、耐火材料、機械部品製造には不可欠の砂型などを解り易く解説している。

 改めて表紙を見ると、稼働中の建設用クレーンが数基と、いままさに建設中の近代都市が描かれている。その街のビルは、どれもが旧ソ連式の無骨なスタイルで、当時の中国が建設技術の多くをソ連に頼っていた、あるいはソ連をモデルとした都市建設がブームだったことを想像させるに十分だ。

 最初から最後まで中国への言及は極めて抑制の効かせる一方で、ソ連に対する“配慮”がやけに目立つ。

石綿はソ連の発明で、「セメント発明以前、中国では上海の中ソ友好ビルや国際飯店のような背の高いビルは、はっきり言って建設不可能だった」。板で型枠を組み、工場でいろいろな形のセメント板を造り、出来上がった製品を現場に運んで組み立てれば、たちどころに1棟、2棟と建物が完成すると、「ソ連の先進的経験」を大いに称えるのであった。《QED》


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