――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習102)

【知道中国 2436回】                       二二・十・仲八

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習102)

『罪悪的収租院』は、「憶苦思甜」を表象化した巨大な塑像群に関する記録映画の解説版に当たる連環画である。

 「天府の国」の別名で呼ばれる実り豊かな四川省に、地主であり、軍閥・土匪であり国民党政権の官僚でもあった極悪非道の劉文彩がいた。彼は四川西南部に位置する10数県で覇を唱え、支配下の農民の生殺与奪の権を握っていた。塗炭の苦しみに喘ぐ農民を尻目に贅沢三昧限りなし。1年間のアヘン代金で3千人以上の農民が1年間腹いっぱい食べられるほどの米が買えたというから、彼が陶然と味わったアヘンの量は半端ではないだろう。豪壮な屋敷の豪華な仏間の後ろには水牢まで備えてあり、年貢を払えない農民を散々に痛めつけ殺しまくっていた・・・とのことだ。

 屋敷の一角に収租院と呼ばれる建物がある。虐げられた農民にとっては「地獄の門」にも等しい門を潜ると、その先には“この世の地獄”が待っていた。毎年秋の収穫が終わる頃、年貢を納めにやって来いとの告示が支配下の村々に貼り出される。すると、老いさらばえ、やせ衰えた農民までもが年貢を肩に担ぎ、背負い、あるいは手押し車で列をなす。

年貢を納めにやって来る農民を迎え厳しく監視するのは、鞭や銃を手に、獰猛な犬を従えた私兵たち。のろのろ歩く農民には犬を嗾け、米が1粒でも足りない農民には巨漢の手下が無慈悲にも鞭を振り下ろす。「後生ですから、お助けを」と哀願しようが手加減なし。年貢不足の農民は殴り飛ばし、水牢にぶち込む。年頃の娘は借金のかたに売り飛ばされる。

 だが無理無体がいつまでも続くわけがない。虐げられ、動物以下の生活を強いられてきた農民が遂に決起する。怒りの炎は燃えさかり、正義の暴力が爆発する。

「マルクス主義の道理は言い尽くせるものではないが、とどのつまりは『造反有理』に尽きる」との毛沢東の教えに従って、「苦労を嘗め尽くした農民が、偉大なる毛主席と中国共産党の指導の下に決起した」のだ。「春雷が鳴り響き、労働人民の救いの星である毛主席が指導する軍隊が村にやってきた瞬間から、金色の陽光が農民の家々に差し込」むことになる。もちろん「金色の陽光」は習近平を、おっと間違い。もちろん毛沢東を指す。

 命乞いする劉文彩に向かって、怒れる農民たちは「階級の敵に鉄槌を!」と叫ぶ。

 文革当時、実際の収租院跡地を舞台に文革式クソ・リアリズムの手法で造られた農民たちの塑像を展示し、往時の地獄絵巻を再現し、「過去の苦しみを忘れるな」と実物教育を行った。誰もが階級の敵を知れば憤怒の奔流が迸る。かくて人々は「地球上の一切の搾取制度を消滅させ、すべての人類が解放されるまで闘いを止めはしないと誓」うのであった。

 『造船工人志気高』は、叛徒・劉少奇が鼓吹した「船を建造するより購入する方が、購入するよりレンタルの方が安価だ。我国では高性能船舶など建造できるわけない」といった奴隷根性を粉砕し、「独立自主・自力更生」の毛沢東路線を掲げ、あらゆる困難を克服し、妨害を撥ね除け、遂に「アジア・アフリカ・ラテンアメリカまで航行し、世界革命を支援する」ための数万トン級の大型船舶建造に成功する上海の造船労働者の英雄物語である。 

 『造船工人志気高』は全部で102枚の挿画で構成されているが、そのうちの2枚に『紅心似火』でも言及しておいた「大海渡るには舵取りに頼る。革命は毛沢東思想に頼る 林彪 一九六七年十一月廿九日」との林彪の揮毫が描かれている。

71年6月に出版された『闖出為人民服務的広闊天地 記広中理髪店為人民服務的先進事迹』は、地域住民に対し徹底して公共サービルに努める国営弘中理髪店の日常を描く。挿画の1枚を見ると、集会を開いている店員の背後の壁に毛沢東の大きな肖像画が掛けられ、その隣に「毛主席の書を読み、毛主席の話を聞き、毛主席の指示に従って事をなし、毛主席の好き戦士たれ」との林彪の毛沢東に対するゴマスリの字句が記されている。《QED》


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