――「ポケット論語をストーブに焼べて・・・」(橘73)「中國共産黨の新理論」(昭和2年/『橘樸著作集第一巻』勁草書房)

【知道中国 2113回】                       二〇・八・初五

――「ポケット論語をストーブに焼べて・・・」(橘73)

「中國共産黨の新理論」(昭和2年/『橘樸著作集第一巻』勁草書房) 

「(二)『農民革命』の方式の確定」に関し、橘は「中國共産黨農民運動の根本的なる確定政策が樹立せられたわけである」と評価する。この政策を打ち出した瞿秋白の「農民政権と土地革命」を根拠に、「國民革命の目的は帝國主義の羇絆から中國を解放することになり、而して帝國主義は國内の軍閥及び買?をその手先とし、軍閥の地盤は農村内の土豪劣紳にある」とした。

つまり帝国主義(国外勢力)と軍閥(国内勢力)が結託した中国支配をひっくり返すためには、軍閥の基盤である郷紳(地主)を支えている土地制度を徹底して改める必要がある。「郷紳の社會的・經濟的及び政治的勢力は、十の九まで農民に對する搾取の上に築かれて居る」。そこで瞿秋白は「農民政權を樹立するところの土地革命を實行」することを提唱した。帝国主義から中国を解放するためには、土豪劣紳から土地を取りあげ、農民が自らを解放しなければならない、というわけだ。

軍閥を温存したままに反帝国主義を掲げた孫文を批判していただけに、橘からすれば瞿秋白が打ち出した新方式は“我が意を得たり”だったろう。

ここで改めて橘の中国社会分析を簡単に整理しておきたい。

橘は封建中国においては、「官僚階級は、軍閥・官僚及び郷紳から成立つところの支配的社會階級」であり、「この三つの中で、政治方面を代表するのが官僚又は軍閥、社會經濟方面を代表するのが郷紳である。而して土豪劣紳は惡質の郷紳を意味する」。「官僚及び軍閥と郷紳との關係は、現役と豫備との差に過ぎず、同じ畑で互いに循環し合つて居る」。「郷紳の農民に對する直接關係は、地主と小作人の關係であり、間接には『財閥』として商業的搾取を行ふ」。「郷紳はその餘剩資本を商工業に投下して、親近者をして匿名組合的の企業を經營せしむる」。「此の種の企業者は、申す迄もなく地方の小資産階級中に有力な地位を占得する」。

いわば封建社会の根幹に官僚階級が位置し、一方では軍閥となって外国帝国主義の手先として中国侵略に加担し人民を苦しめ、一方では郷紳となって土地を仲立ちに農民を搾取し、さらには企業経営者として経済・商業活動を支配し、中国の権力を独占し富を壟断する。土地(農地)が郷紳の力の源泉であればこそ、郷紳から土地を取り上げることで郷紳の力を殺げ、というわけだ。

ここで些か話題を転ずるが、この郷紳層こそが中国であったと考える。秦から始まり清に至るまで歴代王朝は漢族のみで築かれたわけではない。漢族にしたところで、家系を同じくしたわけでもない。漢族以外の異民族出身であれ、どこの馬の骨なのか分からない人物であれ、権力を握れば「中華王朝の皇帝」に変じ、その皇帝が統治する王朝は同じく「中国」とされる。それは郷紳が歴代王朝を一貫して支えてきたからだ。いわば中国とは、権力と富とを独占して郷紳による統治・支配のカラクリということになる。これを言い換えるなら、郷紳による官僚階級が中国を操ってきたのである。

このカラクリを変えない限り、中国は変わりようがない。これを逆説的に捉えるなら、このカラクリを変えてしまったら中国ではなくなってしまう、となるかもしれない。

閑話休題。

かくして共産党は「第五回全國大會に於て、資産階級との敵對關係及び土地革命を工作の中軸とする國民革命と云ふ二つの新方針を明らかにした」わけだが、それが共産党を危機的状況に陥れる一方、?介石に反発する勢力を糾合した国民党左派にも複雑な影響を与えることとなる。コミンテルンをも巻き込んで、事態は紛糾の度を増すのであった。《QED》


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