――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習28)

【知道中国 2362回】                       二二・五・初七

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習28)

『従石頭到紙』に1か月遅れた57年8月に出版された絵本『学前児童文芸叢書 美麗的樹葉』(肖淑芳絵図、学前児童文芸叢書編委会)については拙稿(2334回)で紹介済みであり、繰り返して論ずるまでもないだろう。だが、それまで見られなかった「毛主席」に対する欽慕の情が打ち出されている点だけは、やはり注目しておきたい。幼く疑うことを知らない子どもの脳髄に刷り込まれてしまった「毛主席」への熱い思いは、この時期に幼少年期を送った世代の人生に付き纏い、離れようとしないはずだ。

7月から全国で本格化した反右派闘争は8月に入り激化し、政府は「反革命分子と他の破壊分子の労働期間と賃金問題に関する規定」を決定する。闘争の過程で政府機関・企業・学校において炙り出された右派分子を職場・社会から追放し、生きる術を取り上げてしまった。生かさぬように殺さぬように・・・共産党政権公認の残忍で凄惨なリンチである。

9月には北京で「反革命分子と他の刑事犯罪分子の罪状展覧会」が実施され、右派分子の罪状を可視化して展示し、右派をつるし上げるよう国民を煽ることになる。この種の展覧会は全国で開催されるのだが、じつは入場券の半券に名前を自署するよう強制されるなど、この種の展覧会への参加の有無を当局が把握できるよう仕組まれていた。極端な場合、集会に参加しない者は即右派分子と認定されかねないカラクリになっていたわけだ。

やはり反右派闘争を起点に、共産党による国民1人1人の行動が徹底して把握されるようになり、その一方で毛沢東の独裁化・神格化が本格化する。このような大人の世界の動きに呼応するかのように、子どもの世界でも「毛主席」の絶対化・神格化が始まった。その“動かぬ証拠”こそ『学前児童文芸叢書 美麗的樹葉』と言えるだろう。

「毛主席」は、お父さんよりもお母さんよりも優しく、慈愛に満ち、世の中の誰よりもキミたちのことを大事に思い、健やかな成長を願っているんだぞ――と、汚れなき脳髄にシッカリと刻みつけようとしたのである。この世代が紅衛兵となり毛沢東の敵を摘発し、社会から抹殺していった。そして、習近平を筆頭とする現在の指導者層へと成長する。

――こう考えると、『学前児童文芸叢書 美麗的樹葉』は、習近平世代の思考回路を読み解く上での重要な視点を与えてくれる“貴重”な資料と言っておきたい。

同書と同じく8月に出版された『奇異的眼鏡』(少年児童出版社)は、ソ連の「知識童話」の翻訳である。老医師からもらった不思議な眼鏡は、主人公の少年が伝染病の病原菌に近づくや警笛を鳴らす。そこで眼鏡を掛けると病原菌がハッキリと見え、それが人体にどのような危害を及ぼすかを教えてくれる。この眼鏡を手にしたことで、少年は伝染病が人体に与える悪影響のメカニズムを知り、衛生知識を学ぶことが出来た。

ソ連から伝えられた「知識童話」は、子どもに向かって「より多く読書し勉強すれば、より多くの知識を得られる。多くの知識によって、キミたちの身の回りに迫っている多くの危険に打ち勝つことが出来る」と教える。

こう見てくると、「ソ連、なにするものぞ!」「フルシチョフ、ナンボのもんじゃい!」といった毛沢東が見せるソ連、フルシチョフに対する敵愾心とは裏腹に、57年8月時点では、ソ連であれ学べるものは学んでおこう――こう言った柔軟な姿勢が感じられるのだが。

10月には『雅庫特猟人』(王更生著/少年児童出版社)が、11月には『数数歌』(胡敦?著/遼寧人民出版社)が出版されている。

 前者は大興安嶺一帯に住むヤクート族の大人だけでなく子どもたちもが、厳しい大自然の中で狩猟する姿を通じて、読者である子どもたちに「祖国の大興安嶺に本当に出掛けたような思い」を抱かせる内容だ。後者はリス、牛、馬、ハトなどを使って遊びながら1から10までの「数」を学ばせようとする。両書の内容は、共に政治教育とはほど遠い。《QED》


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