――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習9)

【知道中国 2343回】                       二二・三・念二

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習9)

かくしてソ連に学び、我が国でも続々と新しい工場を建設している。「すでにソ連の科学者は様々な色彩のセメントを発明しました。このカラー・セメントで作られた住宅は、まるで空中に輝く虹のようであり、本当に綺麗なものです」と、ソ連賛歌は怠りない。

この『少年児童知識叢書 沙和泥』が出版された55年は、ソ連国内の動きで振り返ると、スターリンの死(1953年)とスターリン批判(56年)の間に当たる。このようにソ連のみならず社会主義陣営、延いては東西冷戦構造を根本から揺るがすような国際環境を中国の側から見るなら、あるいは毛沢東時代において国民が比較的穏やかに過ごすことができたと思われる稀有な時期でもある。それというのも、それ以後の中国は百花斉放・百家争鳴運動(56年)、反右派闘争(57年)、大躍進(58年)と超弩級の政治運動が連続して発動され、やがて国を挙げて驚天動地・疾風怒濤の文革へと雪崩れ込んでいったわけだから。

いわば嵐の前の静けさの時でもあった55年、「小学校高学年歴史学習用副読本」と銘打たれた『怎樣學習歴史』(崔巍 兒童讀物出版社)が出版されている。

内容や文体・語彙からして対象読者を11、12歳前後に設定したと思われる。そこで考えてみるに、『怎樣學習歴史』で歴史を学んだ世代は国共内戦時に幼少期を送り、建国を朧気な記憶に留め、10代半ばに大躍進大失敗の末の飢餓・困窮を体験し、20歳前後の多感な時期に文革を経験し、30歳代半ばで改革・開放に遭遇し、弱肉強食野蛮強欲市場経済を生き抜き、現在は社会の第一線から引退している。習近平世代の一世代前を生きたことなる。

言い換えるなら、「毛沢東は絶対無謬の神」と頭に叩き込まれながら、人生半ばで毛沢東を否定――相反する2つの価値観に翻弄され、一生を二生に生きた世代でもあるようだ。

共産党は“共産党にとっての良い子”を創りあげようと目指したと思われる『怎樣學習歴史』では、先ず「だいたい四千年前後」を生きたと自称する「歴史爺さん」が登場し、「『歴』とは経歴のことで、ワシの気の遠くなるような経歴を指し、『史』とは記載することを意味する。だから『歴史』とは、ワシが経験してきたすべてを記録することなんじゃよ」と歴史の意味を説いた後、「よい子たち」に向かって「祖国の栄光の歴史」を語りだす。

「昔々のその昔、ワシが生まれて間もない頃で誰もが農業ということを知らない時代じゃったが、いまの河南省の黄河一帯に住んでいたモノたちは魚を獲り、猟をし、牛や羊を飼い苦しい生活を送っていたんじゃ」。「誰もが労働を重ね日々智慧をつけ、やがて黄河や長江の流域から辺境まで荒地を拓いたんじゃ」。だから「中国は広大だが、僅かな広さの土地たりとも祖先の汗が流されていない土地はないんだヨ」と原始共産社会の姿を説く。

 やがて人々の営々たる努力で生産が消費を上回るようになると「奴隷主、大地主、大資本家のような労働をしない不埒なヤツラが生まれてな」、「汗を流そうとせずに、頭を使って土地や工場を力で押さえ労働の果実を奪い取ったんじゃ」。そこで「陳渉、張角、王薄、黄巣、李自成などが次々に決起して、人民の血を吸うヤツラに対し必死の覚悟で立ち向かっていったんだ」と、「人民の血を吸うヤツラ」への憎悪を駆り立てる。

中国の広大な土地の上には「どこにだって革命烈士の尊い血が流れている」。この豊かな祖国に多くの外敵が侵入してきたが、「我われの祖先は一致団結し命を盾に祖国の独立を護りぬいた」。「現代では八路軍、新四軍、中国人民解放軍、中国人民志願軍などが生まれた。彼らは祖国の優秀な子どもたちなんじゃ。中国の広大な領土は隅から隅まで祖国を護ろうとした英雄の鮮血で染められているということを考えてごらん」と、語り口はヤケに熱い。

「歴史爺さん」は、「将来の人民は共産主義の生活を送る。誰がなんといおうと、これは絶対に間違いない。共産主義社会の生活というのは楽しいもんじゃよ」と子どもたちを煽った後、共産主義社会実現のための方法を教え込む。かくて思想教育が始まる。《QED》


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