台湾が世界から注目を集めている。昨年は新型コロナウイルスを抑え込んで注目され、今年も急拡大したコロナ感染を3ヵ月ほどでコロナを抑え込んで注目された。11月30日現在、国内感染者と死者は21日連続でゼロだ。
今年の台湾は、安全保障の面からも注目されている。4月の米首脳会談から6月の先進7ヵ国首脳会議(G7サミット)まで5度の国際会議において、中国への「深刻な懸念」とともに「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」という同じフレーズが盛り込まれ、米国やイギリスばかりでなくヨーロッパからも注目されるようになった。
9月16日にヨーロッパ連合(EU)が台湾との貿易・投資面の関係強化を明記する「インド太平洋戦略」を発表し、10月6日にはフランスのアラン・リシャール元国防省率いる上院議員団4人が訪台。
また、欧州議会が、台湾との関係強化をEUに求める「EUと台湾との政治関係と協力」という報告書を圧倒的多数で可決したのは10月21日のことだった。この報告書では、EUに対して、台湾との政治的な関係を強化すること、台湾をインド太平洋地域における重要なパートナーと民主国家の盟友と見なすこと、台湾とヨーロッパ連合との交流を全面的なパートナー関係に引き上げること、EUの台湾における代表機関「欧州経済貿易弁事処」「駐台湾欧州連合弁事処」に改めることなどを提案する画期的な内容だ。
11月3日には、欧州議会の公式代表団として、フランス選出議員を団長に、リトアニアの元首相やチェコ、ギリシャ、イタリア、オーストリアの6カ国から選出の7人と議会事務局スタッフ13人が訪台している。
このようなヨーロッパの動きが加速したのは、リトアニアの中国への反発だった。
5月20日にリトアニア議会は、中国による新疆ウイグル自治区のウイグル族への圧力をジェノサイドと認定する決議案を可決し、中国中東欧首脳会議からの離脱を宣言。7月20日には、台湾の外交部がリトアニア共和国政府と首都ヴィリニュスに台湾の代表機関「駐リトアニア台湾代表処を開設することで一致」を発表するという事態に進展し、11月18日に「駐リトアニア台湾代表処」が業務を開始している。
中国によるウイグル人への人権弾圧が誘因となり、ヨーロッパの台湾シフトを象徴する出来事だったと言ってよい。
そして、11月28日にはリトアニアだけでなく、エストニアとラトビアのバルト3国の国会議員団が訪台し、翌日には蔡英文総統とも面談している。
一方、台湾からも呉?燮・外交部長や経済視察団がリトアニアやチェコ、スロバキアなどを訪問し、交流を深化させている。
「週刊現代」副編集長や編集次長を経て、現代ビジネス編集次長をつとめるジャーナリストの近藤大介氏は、リトアニアの動きは台湾が攻勢をかけたことが奏功したという視点から、台湾のさらなる攻勢国としてオランダを挙げ、台湾とオランダの関係に言及している。また、この動きはドイツをにらんだ攻勢でもあると指摘している。下記にその全文をご紹介したい。
中国の台湾への圧力が弱まることはない。しかし、台湾もまた民主主義や法治という価値観をテコに、中国による併呑の危機から脱する対応策を着々と進めている。台湾版の価値観外交だ。
フランスの元老院(上院)は今年5月6日、圧倒的多数で台湾が世界保健機関(WHO)総会(WHA)や国際民間航空機関(ICAO)、国際刑事警察機構(INTERPOL)、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)への参加を支持する決議を行った。さらに台湾をバックアップするように、今度はフランスの下院が11月29日、WHOなど国際機関への台湾の参加を支持する決議を採択している。
日米が進める「自由で開かれたインド太平洋」にとって、地政学的な要衝や民主主義世界にも重要な台湾という認識が、いまやヨーロッパでも共有されるようになった今年だ。
—————————————————————————————–リトアニアの次はオランダと関係強化、台湾が「対中国」反転攻勢近藤大介(ジャーナリスト)【JBpress:2021年11月30日】https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67907
「蟻の一穴」という言葉がある。もともとは古代中国の哲学者として名高い韓非子(紀元前280年〜233年)の「千丈の堤、蟻の穴をもって潰れる」(千丈之堤、以螻蟻之穴潰)の故事によっている。
『韓非子』を愛読し、本人を宰相にしようとしたのが秦の始皇帝で、始皇帝を尊敬し、その手法を真似たのが、中華人民共和国の「建国の父」毛沢東元主席。そして毛主席を崇拝しているのが、習近平主席だ。
その習主席がいま、「蟻の一穴」に警戒感を強めている。「蟻」とは、ヨーロッパに攻勢をかける台湾(中華民国)のことだ。
◆台湾が欧州に開けたリトアニアという一穴
台湾は今月、EU(欧州連合)の一角であるリトアニアに、「一穴」を開けた。11月18日、リトアニア政府が台湾に対し、「駐リトアニア台湾代表処」を設立することを許可したのだ。
これまでは「一地域」を表す「台北代表処」だったから、「国家級」に格上げされたことになる。台湾の呉[金リ]燮(ご・しょうしょう)外交部長によれば、「2003年のスロバキア以来、18年ぶりのヨーロッパにおける代表機関設置」だという。
逆に、怒り心頭の中国は、リトアニアとの関係を、最低ラインの「代理公使級」に格下げしてしまった。外交部の報道官もたびたび、「リトアニア案件」を非難している。
◆台湾とオランダの強い紐帯
「リトアニアの一穴」に気をよくした台湾は、ヨーロッパにさらなる「攻勢」をかけている。その一つがオランダだ。
台湾は、1661年に福建省から攻め入った鄭成功(てい・せいこう)軍が制圧するまで、オランダの植民地だった。そのため、いまでもオランダとの縁は深い。
一例を挙げれば、このたび岸田文雄政権が4000億円の出資を決め、熊本に半導体工場を建ててもらうことになったTSMC(台湾積体電子製造)である。この世界シェア6割を占める最強のファウンドリー(半導体製造受託企業)は、1987年に台湾工業技術研究院とオランダのフィリップス社が提携して創業した会社だ。オランダは、いわば台湾半導体の「生みの親」なのだ。
11月29日、台湾外交部の曽厚仁(そ・こうじん)政務次長がオランダのハーグに乗り込んだ。そこで、ハーグ戦略研究センター(HCSS)のバーナード・ハンメルブルク高級外交評論員と、公開討論会を行った。そこで曽政務次長が述べたのは、以下のようなことだった。
・台湾は民主の力によって、新型コロナウイルスの蔓延を抑え込んだ。・民主の力で台湾は活性化しており、今年はおそらく6%の経済成長を達成する。・習近平政権の「双循環」(内需と外需による経済発展)政策や、経済への過度な政治介などにより、「台商」(台 湾商人)はしだいに中国大陸を離れ、南部(東南アジア・インド・オーストラリアなど)に向かうようになった。・両岸(中台)問題の本質は、「民主vs極権」の戦いである(「極権」は「全体主義」の意)。・習近平政権の「中国の夢」は台湾を消滅させることだが、もし台湾が消滅したら、それは「極権」が世界を覆う狼 煙(のろし)となるだろう。・台湾は現在、15カ国としか国交がないが、それは台湾の地政学的重要性が減ることを意味するものではない。・アメリカはすでに、国家安全保障政策の軸足をインド太平洋地域に移しており、米英豪の3カ国は軍事同盟「AUKUS」 を結成した。・中国は現在、経済成長が鈍化し、不動産バブルがはじけ、民族主義が台頭している。これらは世界に警鐘を鳴らすも のだ。・昨今の台欧関係は順調に発展してきており、ヨーロッパは「一つの中国」の内容を再考すべき時期に来ている。・台湾は今後、半導体生産を大幅に増加させ、ヨーロッパの自動車産業などの需要に応えていく。
以上である。
思えば、2016年5月に蔡英文(さい・えいぶん)政権が発足して以来、22カ国あった台湾と国交を結ぶ国は15カ国まで減らされた。中国の「攻勢」に対し、台湾は常に「守勢」を余儀なくされていたのだ。
ところが最近は、台湾側が「攻勢」に出ているのである。
◆北京五輪を控え中国が外交的に静かにしていなければならない今が台湾にとって好機
こうした姿勢について、ある台湾民進党関係者に聞くと、次のように解説した。
「われわれが攻勢に出ている根本的な背景には、中共(中国共産党)の軍事的挑発が激化し、人民解放軍がいまにも台湾を攻め込むかのような態度を見せていることだ。アメリカ、ヨーロッパ、日本など、国際的なバックアップを得ないと、台湾は生き残っていけないという危機感が増しているのだ。
幸い、世界の民主国陣営は、中国の実態を正しく知るようになってきた。台湾に理解を示してくれていて、12月9日、10日にバイデン米大統領が主催する『民主主義サミット』にも、台湾は参加する。
一方、中国は来年2月に『平和の祭典』(北京冬季オリンピック)の開幕を控えており、それまでは外交的に、おとなしくしていないといけない。また、香港で12月19日に実施する『愛国者による』立法会(議会、定数90)選挙も、国際的な非難を浴びるだろう。つまり台湾にとっては、いまがチャンス到来なのだ。
オランダに攻勢をかけているのは、オランダと台湾との縁が深いということもあるが、隣国のドイツを見据えた動きでもある。ドイツでは12月初旬に、メルケル政権からショルツ政権に移行する。新たな外相には、対中強硬派として知られる緑の党のベアボック共同代表が就くと言われている。そんな中、われわれは『EUの盟主』であるドイツに攻勢をかけていく」
台湾の国防部は11月28日、台湾が設定する防空識別圏に中国軍機延べ27機が進入したと発表した。新型の空中給油機も初めて確認されたという。
師走を迎えても、中台のつばぜり合いが止むことはない。そして日本としても、決して「対岸の火事」ではない。
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