本誌ではバイデン政権の対台湾政策のポイントについて、1)トランプ政権の「自由で開かれたインド太平洋戦略」を受け継ぐかどうか、2)バイデン大統領による「国家安全保障戦略」の発表、それを受けて国防省が発表する「国家防衛戦略」、3)台湾への武器供与の3点を挙げ、その都度、関連するニュースを紹介してきている。
8月4日、米国国務省は、米政府が台湾に対して155ミリ自走榴弾砲「M109A6」40輌や「M992A2」弾薬補給車20輌、先進野戦砲兵戦術情報システム(AFATDS)1組などなど計約7億5千万ドル(約820億円)相当を売却することを承認し、議会に通知したと発表した。バイデン政権初の台湾への武器供与だ。
下記に紹介する産経新聞が指摘するように、この武器供与によって「台湾への積極的な武器支援を通じて中国を牽制したトランプ前政権の路線をバイデン政権も継承する姿勢を明確に打ち出した」と言える。
本誌5月5日号でお伝えしたように、実は台湾のメディアはすでに4月中旬、バイデン政権は米国が開発したパラディンと呼ばれる自走榴弾砲「M109A6」100両以上の購入を予定し、2023年から25年までに納入予定だと伝えていた。
それを伝えた日本経済新聞も「台湾が現在保有する自走砲は20年以上前に米国から購入したもので、老朽化が進む。米国に長年、新型への更新・売却を求めていた」と報じていた。
台湾側の要望をようやくバイデン政権が受け入れたという形だ。これでようやくバイデン政権の対台湾政策の本気度はトランプ政権に並んだと言える。
ちなみに、2017年1月から2021年1月までのトランプ政権は、2017年6月29日に魚雷「Mk-48Mod6型高性能重魚雷」46発やSM2艦対空ミサイル部品、早期警戒用レーダーの技術支援など7項目にわたる1回目の武器を台湾に供与し、以降、2020年12月8日までに11回も武器を供与している。
その中でも、2020年10月26日の9度目は巡航ミサイル「ハープーン」400発と「沿岸防衛システム」100基で、総額23億7,000万ドル(約2500億円)にものぼる最大の供与だった。
バイデン大統領による「国家安全保障戦略」の発表は12月に予定されている。このところ、来年2月の北京冬季五輪を控えているためか、台湾の防空識別圏(ADIZ)への侵入回数を半減するなど少しおとなしそうに振る舞っている中国だが、この時期に台湾への武器供与を決行したバイデン大統領が「国家安全保障戦略」で中国をどのように位置づけるか興味深い。また「自由で開かれたインド太平洋」や「台湾海峡の平和と安定」、はたまた太平洋島嶼国家の安全保障に関しどのように言及するかも注目される。
—————————————————————————————–米、台湾に自走榴弾砲40両を売却へ【産経新聞:2021年8月5日】
【ワシントン=黒瀬悦成】米国務省は4日、米政府が台湾に対して155ミリ自走榴弾砲「M109A6」40両や支援車両など計約7億5千万ドル(約820億円)相当を売却することを承認し、議会に通知したと発表した。
バイデン政権が1月に発足して以降、台湾への武器売却が承認されるのは初めて。台湾への積極的な武器支援を通じて中国を牽制(けんせい)したトランプ前政権の路線をバイデン政権も継承する姿勢を明確に打ち出した。
売却案には、1700発分の155ミリ榴弾をGPS精密誘導弾に改良させるキットも含まれ、中国軍部隊の上陸侵攻を想定した制圧能力の向上も図られた。
米議会では、中国からの軍事的圧力にさらされる台湾を支援する立場が超党派で共有されており、今回の武器売却案は特に問題なく認められる見通しだ。
国務省は声明で、今回の武器売却の承認で「米国の経済、安全保障上の利益に資する」と指摘する一方、「(台湾の)安全を強化し、地域の政治的安定と軍事的均衡の維持に貢献する」と強調した。
米国は台湾関係法に基づき、台湾が自衛のために必要とする武器の供与や防衛支援を約束している。
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