米バイデン政権が「インド太平洋戦略」発表 中国の「軍事侵攻抑止」を明記

 米国のバイデン政権は2月11日、外交・経済政策の柱となる「インド太平洋戦略」を発表した。

 「インド太平洋戦略」の柱は5本からなり、1)日本などとの同盟関係や安全保障の強化、2)自由で開かれたインド太平洋の推進、3)地域内外のつながり構築、4)地域の繁栄促進、5)国境を越えた脅威への地域の対応力強化がその5本で、中国が軍事的圧力を強める台湾海峡の平和と安定を図るという。

 下記に紹介する日本経済新聞は「地域で影響力を増す中国に対抗するため、日本を含む同盟国などと連携して安全保障と経済の両面で関与を強める方針を明確にした」と報じている。

 また、台湾に関しては「台湾の意向と最大の利益に従って台湾の将来が平和的に決められる環境を確保するため、台湾の自衛能力の向上を支援すると提起した。インド太平洋地域の内外の国と協力して台湾海峡の平和と安定を維持すると約束した」と伝える。

 それにしても、分からないのは、バイデン政権発足後間もなくと言っていい2021年3月3日に発表した「国家安保戦略の暫定指針」と、今回発表の「インド太平洋戦略」の関係だ。

 「国家安保戦略の暫定指針」はガイドラインであり、これに沿って各省庁は政策の具体化を進め、後に発表される外交・軍事戦略の指針「国家安全保障戦略」(National Security Strategy)のたたき台だったはずだ。「インド太平洋戦略」は「国家安全保障戦略」の一部ということなのだろうか、それとも「インド太平洋戦略」をもって「国家安全保障戦略」ということなのだろうか。そこがよく分からない。

 オバマ政権では2010 年5月と2015 年2 月の2回「国家安全保障戦略」を発表し、トランプ政権も2017年12月に発表している。バイデン政権では歴代政権が発表してきた「国家安全保障戦略」を発表しないのだろうか。どの報道を見ても昨年3月の「国家安保戦略の暫定指針」と「インド太平洋戦略」との関係性について触れていない。

 トランプ政権の「国家安全保障戦略」では、米国の国益や価値観と対極にある世界を形成しようとする修正主義勢力としてロシアと中国を挙げ、米国はインド太平洋地域を重視し、日豪印を不可欠な同盟国と設定していた。

 この「国家安全保障戦略」に呼応する形で、国防総省(ペンタゴン)は2018年1月19日に「国家防衛戦略」を発表している。この「国家防衛戦略」では、ロシアと中国を主要脅威とみなし、インド太平洋地域を重視して、同盟とパートナーシップを拡大し、中国が「インド太平洋地域での覇権を狙い、将来的に米国に変わって世界で優位に立とうとしている」との認識を示していた。

 その点からすると、バイデン政権の「インド太平洋戦略」も、中国に対する認識は「経済、外交、軍事、技術力を結集して、世界で最も影響力のある大国になろうとしている」と指摘しているというから、トランプ政権を引き継ぐ認識を示しているものと思われる。

 ただ、この「インド太平洋戦略」では「台湾海峡を含むアメリカや同盟国などへの軍事侵攻を抑止する」ことを明記しているそうで、米政府高官が「中国を変える能力に限界があると認識し、米国や同盟国の目的を阻む中国の行動を抑えるようにバランスを構築する」(日本経済新聞)と指摘しているように、中国をいかに抑止するかにポイントが置かれているようだ。

 これは、昨年11月、ジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官がCNNテレビのインタビューで「これまでの米国の対中政策について誤りの一つは『米国の政策によって中国のシステムを根本的に変革させる』という考え方だった」「バイデン政権の目標は中国に『根本的な変革』をもたらすことではない」と発言していることと符合する。

 それゆえ、「インド太平洋戦略」では、インド太平洋地域への関与を強める方針を明確化し、クアッド(Quad)やアセアン(ASEAN)などとの関係を強化するとともに、地域の様々な問題に各国が共同で対処する能力を高めることが重要だという方針を示したようだ。

—————————————————————————————–米、中国の台湾侵攻を抑止 インド太平洋戦略に明記バイデン政権で初めて、日本などと安保・経済で連携強化【日本経済新聞:2022年2月12日】https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN115IN0R10C22A2000000/

 【ワシントン=坂口幸裕】米政府は11日、バイデン政権で初めてとなるインド太平洋戦略を発表した。地域で影響力を増す中国に対抗するため、日本を含む同盟国などと連携して安全保障と経済の両面で関与を強める方針を明確にした。「台湾海峡を含む米国、同盟国などへの軍事侵攻を抑止する」と記した。

 今回の戦略はインド太平洋地域での米国の安全保障と経済の指針になる。米国主導で築いた国際秩序に挑戦する中国への警戒感をあらわにした。中国が経済力、外交力、軍事力、技術力を結集し「世界で最も影響力のある大国になろうとしている。インド太平洋が最も顕著だ」と指摘。「今後10年間の米国の努力次第で、中国が(既存の)ルールや規範を改めるのに成功するかどうかを決する」と強調した。

 日米などが掲げる「自由で開かれたインド太平洋」を実現するため、同盟国と協力する重要性を掲げた。安全保障分野ではオーストラリア、日本、韓国、フィリピン、タイの5カ国を挙げ、条約上の同盟関係を深めるとうたった。

 同盟国などとの関係強化による「統合抑止力が米国の基礎になる」とも明示した。米国が軍事・経済で台頭する中国に単独では対峙できないためで、同盟国や有志国とともに「あらゆる領域の侵略を思いとどまらせるように抑止力を強化する」と訴えた。日本の自衛隊などと協力し、米軍との相互運用性を高める。

 台湾の意向と最大の利益に従って台湾の将来が平和的に決められる環境を確保するため、台湾の自衛能力の向上を支援すると提起した。インド太平洋地域の内外の国と協力して台湾海峡の平和と安定を維持すると約束した。

 米政府高官は対中政策について「競争が紛争に発展しないように責任を持って管理する」と指摘。「中国を変える能力に限界があると認識し、米国や同盟国の目的を阻む中国の行動を抑えるようにバランスを構築する」と説明した。

 核・ミサイル開発を続ける北朝鮮への対処にも触れた。対話を呼びかける一方、米国や日韓などの同盟国へのあらゆる攻撃を抑止し、必要があれば迎撃する態勢を整えると説いた。中国との関係が深い東南アジア諸国連合(ASEAN)との結びつきを強固にする姿勢も示した。新たな閣僚級会合を検討すると表明し、2国間協力も拡大する。

 新戦略には米国が提唱してきた「インド太平洋経済枠組み」を2022年初めに立ち上げると明記した。デジタル経済と国境を越えたデータの流れを管理するほか、労働・環境分野で高い基準を課す貿易のルールづくりをめざす。

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