日本とオーストリア両国は、6月9日の午前11時から2時間にわたって「第9回日豪外務・防衛閣僚協議」(2+2)をオンラインで開催し、日本側は茂木敏充・外務大臣と岸信夫・防衛大臣、オーストラリア側はマリズ・ペイン外務大臣とピーター・ダットン国防大臣が出席した。開催は2018年10月以来のことで約2年半ぶりだという。
協議後に発表の「共同声明」で初めて「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」と明記された。また、自衛隊が他国軍の艦艇や航空機を守る「武器等防護」の対象として、米国に続いてオーストラリアが追加された。
共同声明は21項目からなり、これまでの「自由で開かれたインド太平洋」に替わり「自由で、開かれ、包摂的で、繁栄したインド太平洋を推進するための協力を深化させる決意を新たにする」など「自由で、開かれ、包摂的で、繁栄したインド太平洋」という新たな文言が3度も使われているのが印象深い。
また、日豪関係を支え合う強い背景として米国の存在を強調して「我々は、日豪の共通の同盟国である米国との緊密な協力の重要性を改めて表明する」と記し、「日米豪戦略対話や日米豪印(クアッド)等の枠組みの下でのインド及び米国との協力を含め、同志国と引き続き協力していく」と、日米豪の3ヵ国やクアッド(Quad)という枠組みで緊密な協力体制をつくってゆくと記している。
なによりも、4項目目に「我々は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と謳っていることに目を引かれるが、これは中国による東シナ海での活動に対する「深刻な懸念」の下における「台湾海峡の平和と安定の重要性」という文脈となっていて、それを脅かしているのが中国の海警法であり、「中国海警法に対する懸念を表明し、海上保安機関の活動は国際法と整合的でなければならない」と記す。
日本は、中国が2月1日に施行した海警法に対して国際法に悖るとする懸念を表明してきたが、この懸念が両国で共有された形だ。
周知のように、3月16日の日米安全保障協議委員会(2+2)の共同声明で「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した」と記されたことを嚆矢に、4月16日の日米首脳会談の共同声明では「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」という文言となり、その文言が5月5日閉幕のG7外相会議の共同声明にそっくり踏襲され、続いて、5月27日の菅義偉総理と欧州連合(EU)のミシェル大統領、フォンデアライエン欧州委員長とのオンラインによる第27回日EU定期首脳協議(Japan-EU Summit)でも踏襲、そして、この日豪外務・防衛閣僚協議(2+2)でも踏襲された。
G7外相会議で台湾のことが明記されるのは異例と報じられ、日豪外務・防衛閣僚協議)では初と報じられているが、日本が率先して唱道してきた台湾海峡の平和と安定の重要性と、台湾と中国の関係は平和的に解決されなければならないとする中国への楔となる認識が米国をはじめヨーロッパやオーストラリアと共有できた成果は大きい。
この一連の経過を振り返ってみれば、6月11日から13日にかけてイギリスで開かれるG7首脳会談の首脳宣言でも、この文言が踏襲されるのはほぼ間違いないだろう。
下記に「共同声明」全文の日文版と英語版をご紹介し、日本経済新聞が要領よくまとめているので、その記事を紹介したい。
◆日豪外務・防衛閣僚協議(2+2)共同声明[2021年6月9日] 日本語:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100198964.pdf 英 語:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100198963.pdf
—————————————————————————————–日豪2プラス2共同声明「台湾」明記、対中抑止の前線に【日本経済新聞:2021年6月9日】https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA078LJ0X00C21A6000000/
日豪両政府は9日、外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)をオンラインで開いた。共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する」と明記した。自衛隊が防護できる他国軍艦艇の対象にオーストラリアを追加したと確認した。米国の同盟国である日豪の安全保障上の協力は対中抑止の前線となる。
両国の2プラス2は2018年10月以来、およそ2年半ぶり。日本側は茂木敏充外相と岸信夫防衛相が、オーストラリア側はペイン外相とダットン国防相が出席した。
9回目となる日豪2プラス2の共同声明で台湾海峡への言及が入るのは初めて。中国による軍事的圧力への対抗策として盛り込んだ。
東シナ海と南シナ海の状況には「深刻な懸念」を表明した。中国の海警局を「準軍事組織」と位置づけた海警法にも「懸念」を訴えた。
自衛隊が他国軍の艦艇や航空機を守る「武器等防護」はこれまで米国だけが対象だった。豪州は2カ国目となる。共同文書に「自衛官による豪州国防軍の武器等の警護を実施する準備が整っている」と書き込んだ。
自衛隊と豪軍が互いに共同訓練で入国するときの手続きを簡素にする「円滑化協定」に関しては署名に向けた調整を加速させると申し合わせた。
中国外務省の汪文斌副報道局長は9日の記者会見で「日豪に中国への内政干渉を停止し地域の平和と安定を破壊しないよう促す」と反発した。
菅義偉首相は20年11月、モリソン豪首相と会談した際に「防衛協力を新たな次元に引き上げる」と打ち出した。今回の2プラス2を早い段階で開くと決めた。
背景には豪州が中国との対立を深めている状況がある。野党議員が中国側から多額の資金援助を受けていたと発覚し、4年ほど前から国内の反中感情が高まった。当初、中国寄りとみられていたターンブル政権は17年から対中強硬姿勢に転じた。
同年の豪州の外交白書は「中国が米国の地位に挑戦している」と記した。関係の深い太平洋の島しょ国に中国が経済支援で影響力を拡大していると警戒した。
18年に就任したモリソン首相もこの路線を踏襲した。20年4月にはモリソン氏が新型コロナウイルスの発生源に関する調査を国際社会に呼びかけた。猛反発した中国は豪州産の食肉輸入を一時停止した。
豪州は経済面で中国への依存が大きいものの、対中批判を続けた。ダットン氏は4月、テレビ番組で台湾海峡有事への懸念が強まる状況に「軽視すべきではない」と指摘した。「台湾と中国の間には敵意がある」とも語った。
豪州はその後、米軍が使う北部ダーウィンの拠点を増強する方針を発表した。中国は経済協力について議論する閣僚級の枠組み「中豪戦略経済対話」の活動を停止すると決定した。
日本政府高官は「現時点で中国と最も対立している国は豪州だ」と話す。中国にとって豪州は直接の国境線がない国で、日本やインドに比べれば軍事衝突が起きる可能性が低いため圧力をかけやすい。
豪州は自国産商品の輸入制限など事実上の「制裁」と受け止められる措置を受けた。中国との経済的な結びつきが深い日本も同様の心配がある。沖縄県・尖閣諸島などでは中国の海洋進出による脅威を受ける。
同盟国と一緒に中国を抑止する戦略を描くバイデン米政権にとって、日豪は中国と対峙する前線になる。
米国では次の駐豪大使にオバマ政権時に駐日大使を務めたキャロライン・ケネディ氏を指名する案が浮上する。日米豪の結びつきを強めるための人事とみられる。
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