4月2日に発生した台湾の太魯閣(タロコ)号の列車事故は、49人が死亡し216人が負傷者するという台湾史上かつてない大きな鉄道事故となってしまった。事故現場の様子や線路に滑落したトラックが原因であったことなどは日本のメディアでも大きく報道されたのでご存じの方も多いと思うが、その後の台湾政府の対応について述べたいと思う。
この事故に対して、衛生福利部(日本の厚生労働省に相当)は2日後の5日に義援金専用窓口を開設し、監査委員会を設立して政務次長の李麗芬を責任者に任命した。それからわずか1週間後の11日までに、33万218件の寄付申請があり、金額は8億1410万6821台湾ドル(日本円換算約31億2666万円)に達した。予定していた目標額に達した為、当初4月30日までとしていた義援金受付は15日で終了する運びとなった。
日本からもサポートしたいという声があがり、「全日本台湾連合会」が義援金受付の窓口を開設した矢先の打ち切りだったが、このことから、台湾政府の動きが非常に迅速であることや台湾人の困った人を助ける互助精神が大変に厚いことが改めて印象づけられた。
12日には、これもまた迅速に、義援金の用途について会議で討論された後、李麗芬次長が適用範囲について記者会見を開いて説明をおこなった。その「7つの用途」は以下のとおりである。
一 被害者の遺族、負傷者、またその家族の生活補助・経済支援に充てる
二 医療補助に充てる。国民健康保険及び台湾鉄道会社からの支給では足りない費用に充てる他、リハビリ用器 具などにかかる費用の補助金に充てる。
三 死亡者及び負傷者の子女、負傷した学生の「教育費の援助」に充てる
四 「心理的再建」に充てる。遺族及び負傷者の家族の他に、事故に遭遇した乗客と救助隊員にも心理的再建が 必要である為、心理状態の把握や心理衛生、心療内科治療などに必要な補助金に充てる。
五 事故に関連する「刑事・民事に関わる法律費用」の補助金に充てる。
六 「関連NGOの結成に関わる自治体への助成金」に充てる。被害者家族の心理的再建のサポートなどで、少なく とも3年以上の中長期的な支援を提供する。
七 「その他」の補助金に充てる。この項目を設けることにより、遺族及び負傷者の家族から何らかの特殊な状 況による要求がある場合に備え、必要な際に委員会で話し合って対応する。
この7つの項目を見ると、遺族や負傷者だけでなく、その家族はもちろんのこと、事故に遭遇した乗客や救助隊員にまで配慮し、行き届いた支援が提供されることが分かる。しかも、この方針を大事故発生から間を置かずに決定しているところに、台湾政府の優れた対応力が現れているように思う。
この度の不幸な事故では、取り返しのつかない多くの命が失われ、台湾政府も国民も深く傷ついたが、蔡英文政権は突然の不幸な事態に際しても、政府としてやるべきことを的確に認識し、責任を果たす姿勢を示してきた。
蔡英文総統と林佳龍・交通部長(日本の国土交通省大臣に相当)は、事故の翌日の4月3日午前には現地に赴き、負傷者を見舞った。頼清徳副総統はハーバード大学で医学を修めた医師として、見舞いに訪れた病院では専門家として医師と意見を交わしている。
一連のことから看て取れるのは、昨年来の台湾政府のコロナ対策と同様の「危機管理能力」と、国民が何を必要としているかを察して、「迅速かつ透明性をもって対応する姿勢」である。そうであればこそ、国民は政府に信頼を寄せ、政府の方針に協力しようとするものだと改めて思う。
今回、最終的に集まった義援金は10億6029万元(日本円換算40億7218万円)に達し、衛生福利部はその運用の透明性の為に、誰にでも分かりやすいチャートやグラフも作り発表を重ねている。多額の義援金が短期間で集まったことも、コロナウイルス感染を1年以上も低く抑えこんでいることも、台湾政府と国民の信頼関係の確かさを示すものと思われる。
*編集部註: 義捐金窓口を設けた衛生福利部の陳時中部長は4月16日午後に記者会見を開き、義捐金の約7割に当たる7億 3000万台湾元(約28億円)を犠牲者49人の遺族に支給すると発表した。「犠牲者1人当たりに配分される金 額は1500万元(約5800万円)。負傷者には、けがの程度に応じて10万〜700万元(約38万〜2700万円)が、 けがはないものの事故現場を目撃した乗客には慰問金1万元(約3万8000円)が支払われる。また、1億2000 万元(約4億6000万円)を就学支援金に充て、在学中の負傷者や犠牲者・負傷者の子女らが大学を卒業する までの学費を援助する方針も示された」(中央通信社)と報じられている。
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