9月8日に、頼清徳(らい・せいとく)氏が林全(りん・ぜん)氏に代わって行政院長(首相に当たる)に就任した。昨年5月に国民の大きな期待の中、発足した蔡英文政権だったが、肝腎の行政院長に国民党系の林全氏を任命したこと、他の重要ポストにも国民党系の議員を付けたことで、国民から不満の声が出ていた。
誰が就いても台湾国の舵取りは非常に難しいとは思うが、これまでのところ、学者肌で慎重な蔡英文氏のやり方に、多くの国民が物足りないと感じていた。
今年の3月に蔡総統にお会いした時、「1年目は助走、2年目は準備、3年目からしっかりやるから見ていて下さい」と言明された。その言葉を信ずるとすれば、頼清徳氏を片腕に据えたのは、いよいよ本番に向けての準備とも考えられる。
頼清徳氏は元々は内科医で、ハーバード大学の衛生学修士号を持つ秀才である。その後、立法委員(国会議員に当たる)を4期務めたあと、2014年から台南市長の職にあった。温厚な人柄に加えて、政治的センスがあり、台南市民に人気が高かった。
2016年2月の台南大地震の際には、倒壊した建物の下敷きになった住民の救出作業に不眠不休であたり、その進行状況を逐次SNSで市民に報告し、その手腕を高く評価された。
私の父、王育徳(台湾独立建国聯盟創設者)の記念館と黄昭堂元台湾独立建国聯盟主席の記念公園を台南市に建設すると決定したのも頼市長であり、現在準備が進んでいる。台湾派である証拠である。
今回、頼市長が任期満了前に台南を離れて行政院長に就任することを台南の人たちは残念がった。それほど地元民に愛される政治家であるのだから、中央政府でも良い政治をしてくれるだろう。
ただ一つ疑問に思うのは、今年7月7日に頼氏が述べた「親中愛台(中国大陸と親交を持ちつつ台湾を愛する)」発言である。頼氏は「独立派である自分の立場に変わりはない」と弁明したが、中央政府の重職に就いた以上、今後このような発言は控えてほしい。
「中国を怒らせる発言より、中国が歓迎する発言をするほうが台湾は安泰だ」という発想は全く間違いであることを、台湾人はしっかり認識してほしい。台湾人は中国の怒りを買ってでも、正論を国際社会に発信していかなければならない。それが、中国の侵略を防ぐ一番の防衛手段になるのだ。中国政府が「台湾を自国の一部として組み入れる」と公言している限り、決して「親中」などと表明してはならない。台湾が中国に迎合する姿勢を少しでも見せれば、いざという時、国際社会は中国の台湾侵略を黙って見過ごすことになるだろう。「中国の統一を喜んで受け入れる台湾人」というイメージを作ったのは馬英九政権だが、台湾政府はそのイメージを早急に払拭し、「台湾は台湾人の国であり、中国とは別の民主的な主権独立国家である」という立場をどんどんアピールしていくべきである。
蔡英文総統・頼清徳行政院長という黄金コンビが台湾を力強くリードしていくことを、心より期待するものである。