10月6日、東京において日・米・豪・印の第2回外相会合(「Quad(クアッド)」が開かれ、日本は茂木敏充・外相、米国はマイク・ポンペオ国務長官、オーストラリアはマリズ・ペイン外相、インドはスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相が出席した。
菅義偉内閣が発足して初めて開かれたこの閣僚級会合では、新型コロナウイルス感染拡大における諸課題や日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」の具体的な推進などについて意見交換したと伝えられ、外務省はその概要について下記のように発表している。
・四大臣は、新型コロナウイルス感染症の発生・拡大に伴って顕在化した諸課題への対応について意見交換を行い、 保健・衛生分野やデジタル経済など新たな国際ルール作り等の課題について引き続き連携していくことを確認し ました。
・四大臣は、「自由で開かれたインド太平洋」は地域の平和と繁栄に向けたビジョンであり、ポスト・コロナの世 界において益々その重要性を増しているとして、その実現に向け、より多くの国々へ連携を広げていくことの重 要性を確認しました。この関連で、四大臣は、ASEANの一体性及び中心性とASEAN主導の地域枠組みに対する強固 な支持を再確認するとともに、「インド太平洋に関するASEANアウトルック」に対する全面的な支持を再確認しま した。また、「自由で開かれたインド太平洋」に対する欧州を始めとする各国の前向きな取組を歓迎しました。
・四大臣は、「自由で開かれたインド太平洋」を具体的に推進していくため、質の高いインフラ、海洋安全保障、 テロ対策、サイバーセキュリティ、人道支援・災害救援、教育・人材育成を始め様々な分野で実践的な協力を更 に進めていくことで一致しました。
この外相会合の意義は高い。産経新聞論説副委員長の榊原智氏は「進展したのは外交上の協力にとどまらない」として「安全保障協力の進展」について「覇権主義的な行動を続ける中国を念頭においた」国際共同演習「マラバール2020」の実施などを挙げている。
さらに、「むしろクアッドが連携を深めるべきは、台湾」だとして、「台湾は、南シナ海を『自由で開かれた海』とする上でも欠くべからざる位置にある」との認識を示し、米国は「『環太平洋合同演習』(リムパック)に台湾海軍を招くべきだろう」と提案している。下記にその全文をご紹介したい。
ちなみに、本会はすでに2018年3月に発表した政策提言「台湾を日米主催の海洋安全保障訓練に参加させよ」で「米国政府にリムパックなど米国主導の多国間演習に台湾を招待するよう働きかけるべき」と提案している。
それとともに、日米共催、豪印協催による、国際・地域テロ、海賊、捜索・救難、大規模自然災害など、非伝統的な海洋安全保障訓練「環西太平洋多国間海洋安保共同訓練」(ウエストリムパック)に台湾を招待せよと提案している。
外交と安全保障は表裏一体であり、日米豪印外相会合(Quad)が台湾のリムパック参加を先導できるようおおいに期待したい。
◆外務省:第2回日米豪印外相会合[10月6日] https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press6_000682.html
◆日本李登輝友の会2018政策提言「台湾を日米主催の海洋安全保障訓練に参加させよ」 http://www.ritouki.jp/index.php/info/20180423/
—————————————————————————————–日米豪印(クアッド)は台湾と協力を 榊原智(産経新聞論説副委員長)【先見創意の会:2020年11月10日】https://www.senkensoi.net/column/598/
「クアッド」(Quad)と呼ばれる日本、米国、オーストラリア(豪州)、インドの4カ国が「自由で開かれたインド太平洋」の実現を誓い合い、安全保障協力を進めている。この協力の輪を広げていかねばならない。最終的には、地域の安定のカギを握る台湾との安保協力に進むべきだろう。
クアッドは10月6日、東京で外相会合を開き、「自由で開かれたインド太平洋」実現へ連携していくことで一致した。菅義偉政権が発足してから初めて東京で開かれた閣僚級の国際会議である。
進展したのは外交上の協力にとどまらない。
日本の海上自衛隊と米豪印の海軍は3日から6日にかけて、インド東方のベンガル湾で国際共同演習「マラバール2020」を行った。11月中旬にはアラビア海に舞台を移してさらに訓練を続ける。
マラバールは、もともと米印海軍の2国間の演習として始まった。2007年に、米印のほかに日本の海自と豪州、シンガポールの両海軍が参加したところ、中国が猛反発した経緯がある。
そこでインドが中国に配慮し、米印2国間の演習に戻ったが、日本の海自が2015年から定例参加するようになり、日米印の3カ国演習となっていた。今回、インドが13年ぶりに豪州海軍を招き、クアッド全構成国による演習となった。
その意義は、「インド太平洋の4つの民主主義国間の深い信頼と、安全保障上の共通利益のために協力する意思を示している」(レイノルズ豪国防相)と語った点にある。
米国とインドは10月27日、3度目となる外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)をニューデリーで開き、軍事衛星が集めたデータや地理などの機密情報を共有することで合意した。
これは、インドと中国の国境紛争で、米国がインドに肩入れすることを意味している。インドと中国は今年、インド北東部シッキム州の国境付近で衝突し、死傷者が出ている。国境地帯の中国軍の配置や移動に関するインド軍の情報量が格段に増大する。
日豪の協力も一歩進んだ。10月19日、岸信夫防衛相は来日したレイノルズ豪国防相と会談し、自衛隊が豪軍の艦船や航空機を守る「武器等防護」の実施へ調整に入ることで合意した。武器等防護の適用は、米軍以外の外国軍では初めてとなる。
豪軍は日本との関係を深めている。朝鮮半島の平和のために存続している国連軍(朝鮮国連軍)の補給、支援のため、日本にも「国連軍」が存在しているが、豪軍もその国連軍の一員だ。日豪などが結んでいる国連軍地位協定に基づいて、豪軍機は沖縄・嘉手納基地(国連軍指定基地)を根拠地として、洋上における北朝鮮の密輸行為(瀬取り)の監視行動に何度も参加してくれている。日本と豪州は国連軍の枠組みによって北朝鮮の核・ミサイル問題に対処する有志連合の一員となっている。東日本大震災の際には、豪軍の輸送機が日本国内を飛んで救援物資を届けたが、これも国連軍地位協定に基づいていた。自衛隊と豪軍の共同訓練も重ねられている。
自衛隊や豪軍の艦船や航空機が危ういとき、守り合うのは当然のことだろう。日本と豪州は近く、自衛隊と豪軍が訓練などで相手国を訪問、滞在する際の法的地位などを定める協定を結ぶ見通しだ。
日本とインドは今年9月、自衛隊とインド軍が燃料・弾薬などの物資や役務を互いに融通する物品役務相互提供協定(ACSA)を結んでもいる。日本はACSAをすでに米英仏豪、カナダとも結んでいる。
これら安全保障協力の進展は、覇権主義的な行動を続ける中国を念頭においたものだ。中国は、日米豪印が外相会合を行った際、軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)のアジア版だとして非難している。4カ国の協力はNATOのような軍事同盟ではなく批判は当たらないが、中国のこのような態度こそ、クアッドの協力が牽制になっていることを示している。
米大統領選の結果、バイデン政権になってもクアッドの協力は続けられるべきだし、続くものと思われる。今後は、南シナ海の沿岸国として中国の圧力にさらされているベトナムとフィリピン、ASEAN(東南アジア諸国連合)の大国であるインドネシア、同国とともにマラッカ海峡を扼するシンガポールとの協力も深めていくべきだ。
経済力でロシアと並ぶ韓国が、クアッドに招かれない意味を韓国政府は真剣に考えるべきだろう。文在寅政権は中国や北朝鮮に傾斜しており、クアッドはインド太平洋における主要な民主主義国とみなしていない、ということだからだ。「レッドチーム」入りの疑いが消えないようでは、韓国は責任ある行動を求められないのである。
むしろクアッドが連携を深めるべきは、台湾である。中国が冒険主義によって台湾を制圧しようとすれば、大きな戦乱になりかねない。台湾は、南シナ海を「自由で開かれた海」とする上でも欠くべからざる位置にある。まずは、米国が主催して毎年ハワイ沖で開かれる多国間の「環太平洋合同演習」(リムパック)に台湾海軍を招くべきだろう。
南シナ海は台湾とつながり、台湾は日本の南西諸島と隣り合っている。台湾の自由と民主主義が守られることは、「自由で開かれたインド太平洋」にとっても、日本の平和と繁栄にとっても不可欠といえる。
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