故李登輝元総統の国葬(追悼告別礼拝)に安倍前総理が弔辞

 昨9月19日午前9時30分(台湾時間)より、淡水の真理大学大礼拝堂において故李登輝元総統の国葬に当たる追悼告別礼拝が厳かに執り行われました。

 大礼拝堂の中央には台北賓館の追悼会場に掲げたご遺影と同じご遺影が掲げられ、蔡英文・総統や頼清徳・副総統をはじめ米国からキース・クラック国務次官、日本から森喜朗・元総理など約800名が参列しました。大礼拝堂の入口には故李元総統の箴言「民之所欲 長在我心」が大書されて立て看板として掲げられていました。

 また、真理大学に隣接する淡江高級中学は李登輝元総統母校の淡水中学校の後身であるところから、2つの会場に追悼の場が設けられ、李登輝元総統と交流があった団体の長と一般の人々が参列、大型テレビで追悼告別礼拝を見守りました。

 牧師が大きな十字架を捧げるように両手に持って会場に入ってくると、参列者は立ち上がって出迎え、十字架の後に令孫李坤儀さんご主人の趙贊凱氏がご遺影を両手に、またその後に李坤儀さんが御骨壺を大事に抱えながら入ってきました。その後に、ご家族(令息の故李憲文氏夫人の張月雲さん、令嬢で長女の李安娜さん、次女の李安[女尼]さん、次女ご主人の頼國洲さんなど)が続いていました。

 ご夫人の曾文恵さんの姿が見当たりません。ご自宅の翠山荘から会場まで車で45分、式典は9時30分から11時50分の2時間20分という長丁場、体調を考慮して参列を控えられたようです。

 その後の様子は、下記に紹介する「台湾国際放送」の記事に譲りますが、式典が始まって1時間15分くらい(日本時間11時40分ころ)に日本台湾交流協会台北事務所の泉裕泰代表が安倍晋三・前総理の弔辞を代読したのには驚かされました。それまで挨拶されたのは、国家に大きな功績があった国民に贈る「褒揚令」を李元総統代理の李安娜さんに授与後、蔡英文総統が弔意を示す挨拶をしただけでした。ご家族の意向なのか総統府側の意向なのかは定かではありませんが、驚かされました。

 他の報道で安倍前総理の弔辞全文を紹介しているものはなく、日本台湾交流協会台北事務所のホームページでもしていませんでしたが、台湾国際放送だけ全文を掲載していましたのでご紹介する次第です。

 記事には出ていませんが、式典も終わり近く、御骨壺に掛けてあった国旗を今回の招集人でもある頼副総統が李坤儀さんに手渡す「収旗曁贈旗儀式」が終わり、ご遺族が会場を後にするころ(日本時間12時18分)から弔砲が打たれはじめました。1分ごとに撃たれた弔砲は、腹に響くような低い音ではなく少し乾いたような高い音でしたが、その音が映像から聴こえてくるたびに亡くなったのだという思いが強まったような感じです。

 なお、安倍晋三・前総理は故李登輝元総統の国葬が行われる直前の午前9時ころ、靖國神社を参拝されました。今回、森元総理へは安倍氏自ら訪台を依頼したと伝えられています。加えて、あの弔辞です。

 安倍氏は自らツイッターに靖國神社には「今月16日に内閣総理大臣を退任したことをご英霊にご報告いたしました」と書き込んでいますが、李元総統とは本当に仲が良かったという実兄の岩里武則命(台湾名:李登欽)が祀られ、第一次安倍政権のときに李元総統が初めて参拝された靖國神社で李元総統をお偲びしたかったのかもしれません。

 また、東京基督教大学のホームページでは、会場となった真理大学大礼拝堂と李元総統の関係についての記事を掲載「会場となった真理大学は台湾基督長老教会の私立大学で、台湾基督長老教会の生みの親であるスコットランド系カナダ人宣教師ジョージ・マッケイ(馬偕)が1882年)に設立した牛津學堂が源流。その大礼拝堂は1997年に落成し、李総統(当時)がテープカットを行った」(9月19日「李登輝元総統の告別追悼礼拝とキリスト教信仰」)と記しています。

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台湾民主の父におさらば!李登輝・元総統「台湾の将来、後は頼むぞ」【台湾国際放送:2020年9月19日】https://jp.rti.org.tw/news/view/id/92855

写真:蔡英文・総統(右)が李登輝・元総統に「褒揚令」を授与し、李・元総統が国のために尽くした多大な貢献を表彰した。李登輝・元総統の長女・李安娜・女史が代理としてそれを受け取った。(写真:CNA)

 李登輝・元総統の追悼告別礼拝が19日午前、台湾北部・新北市淡水区の私立真理大学礼拝堂で行われました。

 儀式では蔡英文・総統が李登輝・元総統に「褒揚令」を授与し、李・元総統が国のために尽くした多大な貢献を表彰しました。アメリカのクラック国務次官や日本の森喜朗元首相ら国内外の政府高官が一堂に会して李・元総統を偲びました。

 儀式の中で最もインパクトのある言葉は、会場で放送された追悼映像の中で、李・元総統が言った「台湾の将来、後は頼むぞ」でしょう。

 李登輝・元総統は7月30日になくなり、享年97歳でした。生前の宗教信仰と遺族の意思を尊重して、8月14日に火葬されました。9月19日午前、国葬として真理大学で追悼告別礼拝が行われました。

 李登輝・元総統の遺骨を乗せた車は、午前9時22分、告別礼拝の会場に到着、李・元総統の孫娘・李坤儀・女史が李・元総統の遺骨を持って入場しました。追悼告別礼拝では、蔡英文・総統はまず、李・元総統に褒揚令を授与、李・元総統の長女・李安娜・女史は、李・元総統の代りにそれを受け取りました。その後、蔡・総統は李・元総統に敬礼してからあいさつを行いました。

 蔡・総統は、あいさつの中で、李・元総統の一生の貢献に感謝すると同時に、忘れてはいけないのは、台湾の前途は、あなたと私の手にあることだと強調、我々には李・元総統の成果を受け継ぐ責任がある。今後も台湾の主体性の確立に引き続き取り組み、台湾の民主、自由の更なる深化のために努力する必要があると述べました。

 蔡・総統は、また、李・元総統の一生は、台湾の百年近い歴史と重なり、台湾と世界を繋ぐ重要な役割も果たしていた。台湾を輝かせた李・元総統に、台湾の人々を代表して「ありがとう」という一言を伝えたいと話しました。

 蔡・総統のあいさつ終了後、葬儀委員会の召集人を務める、頼清徳・副総統は、行政院、立法院、司法院、監察院、考試院の五院の院長を率いて李・元総統の遺骨に中華民国の国旗をかぶせました。

 追悼告別礼拝の会場では、日本の対台湾窓口機関、公益財団法人日本台湾交流協会台北事務所の泉 裕泰(いずみ ひろやす)代表は、日本の安倍前首相の弔辞を読み上げました。

 「李登輝・元総統追悼告別礼拝に当たり、安倍晋三前日本国内閣総理大臣よりメッセージをお預かりしていますところ、ここに代読させていただきます。

 李登輝・元総統のご逝去に際し、衷心より哀悼の意を表します。李・元総統は、台湾に自由、民主主義、基本的人権等の普遍的価値を根付かせたミスターデモクラシーとして世界の称賛を集め、また日本と台湾の相互理解、友好増進にも大変多大な貢献をなされました。李登輝・元総統の温かい笑顔と力強い握手、そしてその民主主義への強い信念、台湾へのゆるぎない愛情と使命感、日本に寄せる温かい言葉は、きのうのことのように私の記憶に刻まれています。

 日本と台湾の友好親善、台湾の民主主義と発展に多大なご貢献をなされた李登輝・元総統に改めて深い感謝と敬意を表すると共に、これからも千の風となって日本と台湾の私達をやさしく見守ってくださるようお願い申し上げ、そのご冥福をお祈りいたします。

前日本国内閣総理大臣 安倍晋三」

 一方、チベットの精神的指導者、ダライ・ラマ14世もビデオメッセージを送りました。ダライラマ14世は、メッセージの中で、「李・元総統の努力精神を称え、李氏はもうなくなったが、仏教徒は、生死・因果が繰り返され、きわまりないことの流転を信じている。李氏は台湾で生まれ変わる可能性がある。それは李氏であると分ってもいいし、分らなくてもいい。李氏の精神は永遠に輪廻転生(りんね・てんしょう)と共にある」と締めくくりました。

 会場では李・元総統を偲ぶ10分間の映像が放送されました。この映像の締めくくりは、2012年、李・元総統が退院したばかりの頃、蔡英文・女史の選挙前の決起集会に参加したときに発表した談話です。李・元総統は、そのとき、自分はもう高齢だから、いつ愛する台湾を離れるか分らないと述べ、将来はあなたがたに任せるしかないと述べました。そのときの一言、「台湾の将来、後は頼むぞ」は、19日の追悼告別礼拝で特に注目されていました

 李・元総統の子息の妻、張月雲・女史は、最後遺族を代表して感謝の言葉を述べ、李・元総統への支持と愛顧は、今後も蔡英文・総統へとつながるよう期待するとし、李・元総統の精神は常に台湾の人々と共にあると信じていると締めくくりました。

 きょう9月19日に行われた李・元総統の追悼告別礼拝の全容は、総統府のYOUTUBEチャンネルでご覧いただけます。

◆会場で放送された李・元総統の追悼映像コンテンツの最後のお言葉

「私はもうかなり年取った。いつ私の愛する台湾から離れるか分らない。

 将来はあなたがたに任せるしかない。私、李登輝、この一生は、きょうは最後になるかも知れないが、皆様にお願いしたい。台湾の将来、皆様に頼むぞ、皆様の平安(平穏無事)、台湾の平安(平穏無事)を祈る。ありがとうございます」

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