8月31日、米国のスティルウェル国務次官補(東アジア・太平洋担当)は、ヘリテージ財団のオンラインフォーラムにおいて、台湾との新たな経済対話枠組みを創設すると表明し、「ハイテクを中心に、半導体や医療、エネルギーなどの分野で経済関係の最大限の可能性を探る」と説明した。
その際、併せて「台湾の安全保障に関する米国の基本姿勢を記したレーガン政権時代の文書の機密指定を解除したと明らかにした」(ロイター通信)と伝えられた。
実は、米中間の3つの共同コミュニケのうち、1982年8月17日に発表した「第2上海コミュニケ」の第6項では「米国政府は台湾への武器売却を長期的政策として実施するつもりはない」ことや「台湾に対する武器売却を次第に減らしていき一定期間のうちに最終的解決に導くつもりである」と表明していた。
しかし、このような表向きの内容と異なる「中国が敵対的な態度を見せた場合は、台湾への武器輸出をむしろ増やすこと」や「中国と台湾の違いを平和的に解決する中国の継続的な取り組みにかかっている」とし、さらには「台湾への武器輸出の性能や販売量は、中国によってもたらされる脅威によって決まる」などと記された、米国の機密文書があったという。
ロナルド・レーガン大統領は「第2上海コミュニケ」が発表されるほぼ1ヵ月前の1982年7月14日、米国在台湾協会のジェームズ・リリー所長を通じ、米国の6項目の台湾政策「台湾に対する『6つの保証』」(Six Assurances to Taiwan)とともに、この機密文書の内容を伝えていたともいうのである。
米国が1979年1月1日付で発効した「台湾関係法」には「防御的な性格の兵器を台湾に供給する」と定め、「第2上海コミュニケ」の内容と矛盾しているとする指摘も出ていたが、この機密文書の公開によって中国側との交渉内容が明らかとなり、ましてや台湾側にその全容を伝えたことも明かされたことで、「台湾関係法」と「「第2上海コミュニケ」は実質的に矛盾しないことも証明されたと言える。
米国が機密文書を公開した狙いについて、ロイター通信は「重要度が極めて高い地域の『平和と安定に対する中国の脅威の高まり』や、中国政府が台湾を軍事的脅威にさらす一方で外交的には台湾を孤立させようと試みていることが、今回の対応につながった」と伝え、日本経済新聞は「中国は同コミュニケを根拠にトランプ米政権が最近、台湾への武器売却を相次ぎ決めていることを激しく非難している。一方、米国はコミュニケの前提が中国によって崩されていると主張。機密文書の公開で、それを裏付けたい狙いがあったとみられる」と解説している。
下記に、米国在台湾協会(AIT)が公表した2つの機密文書と日本経済新聞の記事をご紹介したい。
ちなみに「台湾に対する『6つの保証』」とは下記の6項目。
(1) 米は台湾への武器売却終了の期限を設定することに同意していない。 (2) 米は台湾への武器売却で事前に中国に相談することに同意していない。 (3) 米は台湾と北京との間で仲介の役を果たさない。 (4) 米は台湾関係法の修正に同意していない。 (5) 米は台湾の主権についての立場を変えていない。 (6) 米は台湾に中国との交渉に入るよう圧力をかけることはしない。
蔡英文政権発足してから間もなくの2016年7月6日、米国連邦議会の上院は「『台湾関係法』と台湾に対する『6つの保証』を米台関係の基礎とすることを再確認する第38号両院一致決議案」を可決している。法的拘束力は持たないものの、初めて明文化したことで、上院・下院合わせ連邦議会として台湾支持の意思を表明した。
◆米国在台湾協会(AIT)[8月31日]: Declassified Cables: Taiwan Arms Sales & Six Assurances (1982) https://www.ait.org.tw/our-relationship/policy-history/key-u-s-foreign-policy-documents-region/six-assurances-1982/
—————————————————————————————–台湾への武器売却「中国の対応次第」、米機密文書公開【日本経済新聞:2020年9月1日】
【台北=中村裕】米国が中国への圧力を一段と強めている。米国の対台湾窓口機関である米国在台湾協会(AIT)は8月31日、台湾への武器売却制限などを示した1982年の米中共同声明にからむ機密文書の全容を公開した。
文書では「中国がより敵対的な態度を見せた場合は、(台湾への武器売却についての約束を)無効にする」などと記してあった。米国から台湾への武器輸出が増えるなか、その正当性を米国が中国に示すための材料として公開されたものとみられる。
公開したのは82年8月17日にレーガン米大統領と中国最高指導者の●小平氏(ともに当時)が発表した米中共同声明「8.17コミュニケ」に絡む、米国側の事前内部資料。コミュニケ発表の約1カ月前の7月10日付となっており、対台湾説明のための内部文書にあたる。(●=都の者が登)
文書は、米国のレーガン政権で当時、国務次官を務めたローレンス・イーグルバーガー氏が、台湾で米側トップを務めたジェームズ・リリーAIT処長あてに送られた。それを基に同処長が台湾の当時の蒋経国政権に対し共同声明の内容を事前説明した。
文書では「8.17コミュニケ」に対する米国の認識が、台湾側に詳細に説明されていた点が特徴。コミュニケでは、米国が台湾への武器売却を「徐々に減らしていく」ことが記されたが、公開された文書では、多くの条件が付けられていた。
中国が敵対的な態度を見せた場合は、台湾への武器輸出をむしろ増やすことが示唆され、さらに「中国と台湾の違いを平和的に解決する中国の継続的な取り組みにかかっている」としていた。台湾への武器輸出の性能や販売量は、中国によってもたらされる脅威によって決まるなどの内容も盛り込まれ、台湾側に説明されていた。
レーガン政権は共同声明と合わせ、蒋経国政権に対し武器売却について「具体的な終了時期を設けない」などの「6項目保証」も約束している。
「8.17コミュニケ」に対する米中の認識には隔たりがある。中国は同コミュニケを根拠にトランプ米政権が最近、台湾への武器売却を相次ぎ決めていることを激しく非難している。一方、米国はコミュニケの前提が中国によって崩されていると主張。機密文書の公開で、それを裏付けたい狙いがあったとみられる。
米国は昨年もコミュニケに関する機密文書を公開した。ただ「コミュニケ発表前に、米国と台湾が交わしたやりとりの全容が公開されるのは今回が初めて」(国際政治に詳しい台湾・成功大学の蒙志成副教授)という。
台湾の外交部(外務省)は31日、「中国が軍事的脅威を利用して台湾海峡と地域の平和と安定を損なうなか、米国の安全保障への確固たる取り組みに心から感謝の意を表する」とのコメントを発表した。
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