米国の台湾への武器売却で明らかになった中国の詭弁

 米国の国務省は10月21日、台湾への空対地ミサイルやロケットランチャーなど3件の武器売却計画を承認し、連邦議会へ通知した。これは台湾側からの要請によるもので、総額は約18億ドル(約1880億円)となり、トランプ政権下では8度目の承認になるという。

 3件の武器は、ロッキード・マーティン製のトラック型高機動ロケットランチャー(HIMARS)11基、ボーイング製の空対地ミサイル(SLAM─ER)135発と関連機器、コリンズ・エアロスペース製のF16戦闘機用の機外携行型センサーポッド(MS110)6台。

 中国は外交部や国防部、国体弁がそれぞれ記者会見などを通じ強く反発している。

 時事通信は、中国外務省の趙立堅副報道局長は「『断固とした反対』を表明した上で、売却計画の撤回を要求した。趙氏は「『一つの中国』原則と中米共同声明への重大な違反であり、中米関係と台湾海峡の平和・安定を著しく損なうものだ」と批判。「中国は今後の情勢に基づき正当かつ必要な反応をする」と対抗措置を示唆した」と報じている。

 中国が一方的に主張している「『一つの中国』原則」はさておき、「中米共同声明への重大な違反」や「台湾海峡の平和・安定を著しく損なう」という批判は果たして当たっているのだろうか。

 後者の「台湾海峡の平和・安定を著しく損なう」という批判は、台湾に向けて1000発とも1500発とも伝えられるミサイルを台湾に向けて配備し、台湾周辺で軍事演習を繰り返し、軍用機などが何度も中間線を超え、防空識別圏に進入していることを見れば、台湾海峡の平和・安定を損なっているのは中国であることは明らかではないのか。

 中国側の批判の論理は、常に相手に非があるとするもので、常に自分に非はないとする論理だ。批判の論理とはそういうものなのだろうが、事実は逆で、現状を変更してきたのは台湾ではなく常に中国だった。

 米国がトランプ政権になって台湾に武器を供与するようになったのは、そういう認識に立っているからだろう。それ故、トランプ米政権が台湾へ武器売却を決めるたびに中国が「中米共同声明への重大な違反」と批判していることに対して、米国は共同声明の前提が中国によって崩されていることを示すために機密文書を公開してきた。

 さる8月31日にも、米国の対台湾窓口機関である米国在台湾協会(AIT)はレーガン政権時代の1982年8月17日に発表した「第2上海コミュニケ」にからむ台湾への武器売却制限などを示した機密文書の全容を公開した。

 これは、「第2上海コミュニケ」の第6項で「米国政府は台湾への武器売却を長期的政策として実施するつもりはない」ことや「台湾に対する武器売却を次第に減らしていき一定期間のうちに最終的解決に導くつもりである」と表明していたものの、台湾側に示した機密文書には「中国が敵対的な態度を見せた場合は、台湾への武器輸出をむしろ増やすこと」や「台湾への武器輸出の性能や販売量は、中国によってもたらされる脅威によって決まる」などと記されていた。

 米中が「第2上海コミュニケ」を作成する過程で、どのような交渉をしていたのかを台湾側に示すこの機密文書は1982年7月10日付になっており、コミュニケ発表のほぼ1ヵ月前の7月14日には、米国在台協会のジェームズ・リリー所長を通じ、米国の6項目の台湾政策「台湾に対する『6つの保証』」(Six Assurances to Taiwan)とともに、この機密文書の内容を台湾側に伝えていたという。

 米国が「共同声明の前提が中国によって崩されている」として機密文書の公開に踏み切ったのは、中国との交渉内容を台湾に伝えたことを中国側も承知していたことを示している。そう解釈しなければ、中国によって共同声明の前提が崩されていることを示したことにはならない。

 米国が1979年1月1日付で発効した「台湾関係法」には「防御的な性格の兵器を台湾に供給する」と定めている。一方、1982年8月17日発表の「第2上海コミュニケ」では「米国政府は台湾への武器売却を長期的政策として実施するつもりはない」「台湾に対する武器売却を次第に減らしていき一定期間のうちに最終的解決に導くつもりである」と表明した。

 ところが、この表明に行きつくまでの中国との交渉過程では「中国が敵対的な態度を見せた場合は、台湾への武器輸出をむしろ増やす」「台湾への武器輸出の性能や販売量は、中国によってもたらされる脅威によって決まる」ということを米中双方の共通認識としていた。「敵対的な態度」や「中国によってもたらされる脅威」の判断は米国にゆだねられたと言っていい。だから米国は、中国が納得した交渉内容を機密文書に留め、台湾にも伝えていたのだ。中国に、知らぬとは言わせないとして公開した機密文書だった。

 つまり、トランプ政権は機密文書に示されていたとおり、中国が米国に対して敵対的な態度を見せていると判断し、中国によって脅威がもたらされていると判断したから、「台湾関係法」に基づいて台湾へ防御的な性格の武器を供与していることになる。

 米国は、中国との約束も台湾との約束も守りつつ、国内法に抵触することもなく、台湾に武器を供与していたのである。

 中国が声高に「中米共同声明への重大な違反」や「台湾海峡の平和・安定を著しく損なう」とする米国批判は、自国にとって都合が悪い米国との交渉過程(機密文書)を無視した、自己弁護のための詭弁にすぎないことが明らかとなったと言えよう。

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