この中で、中国、台湾、米国について述べ、まず中国については「中国の軍事力を背景とした強引な拡張政策が今後も西太平洋地域における平和と安定に対する最大の脅威であり続ける」と指摘し、台湾は「中国の外洋への展開を扼する絶好の場所に位置しており、日米同盟にとっての戦略的価値」を有していることを述べている。また米国の東アジア戦略について、次のように指摘している。
<(2017年)12月18日には、トランプ大統領は連邦議会への意見書として、外交・軍事戦略の指針となる「国家安全保障戦略」を発表、米国はインド太平洋地域を重視し、日豪印を不可欠な同盟国と設定。米国はまた、本年1月19日には「国家防衛戦略」を発表、中露は米国にとっての「主要脅威」であり、米軍の増強や同盟強化を優先させるべきことが強調された。>
よく知られているように「自由で開かれたインド太平洋戦略」を発表したのは、安倍晋三総理で、2016年8月27日にケニアで行われたアフリカ開発会議で発表している。
米国のトランプ大統領はこの安倍総理の戦略に同調し、インド太平洋地域を重視する「国家安全保障戦略」を発表。さらにその後、中国とロシアを主要脅威と位置付けている。台湾との関係強化も日米は足並みをそろえている。
安倍首相はまた、首相に返り咲いたマレーシアのマハティール氏との6月12日の会談後の共同記者会見でも「南シナ海を含むインド太平洋地域を、法の支配に基づく自由で開かれたものとし、平和と繁栄のための国際公共財とすることが重要だ」と強調。マハティール首相も同調している。
つまり、日米もマレーシアも、日本発ともいうべきインド太平洋地域重視戦略の背景に「中国が南シナ海を含むインド太平洋地域の平和と安定に対する最大の脅威」という認識で一致している。
このような日米の基本的戦略をみれば、米朝会談で北朝鮮問題が取り敢えず一区切りついたことで、中国と真正面から対峙することになることは明らかで、米朝会談は自由主義諸国が中国と対決する新時代の分水嶺だったといえるのかもしれない。
それを裏付けるように、トランプ政権は6月15日、500億ドル(約5兆5300億円)相当の中国製品に対して25%の追加関税を課し、7月6日から実施すると発表。米国にとっての主要脅威との対決姿勢を明らかにしている。
その点で、フィクション作家の河添恵子氏が「台湾のAIT新庁舎も、マハティール氏の訪日も、すべてが連動し、自由主義諸国が中国と対決する新時代の幕開けを告げている。中国は四面楚歌になりつつあり、今後の火種は、朝鮮半島から台湾に移るだろう」と述べているのは正鵠を射ているのではないだろうか。
————————————————————————————-日米、次の一手は“中国封じ” 台湾&マレーシアと連携、河添恵子氏「中国は四面楚歌になりつつある」【夕刊フジ:2018年6月16日】
世界が注目した米朝首脳会談(12日)と同じ日、日米両国が痛烈な「中国の牽制(けんせい)」姿勢を誇示していた。米国は、台湾の大使館に相当する「米国在台湾協会」(AIT)の新事務所をオープンし、安倍晋三首相は「親中路線」を見直したマレーシアのマハティール・モハマド首相と会談したのだ。これは偶然ではない。専門家は、北朝鮮を連携して取り込むだけでなく、台湾やマレーシアへの関与を強め、世界の覇権を狙う中国と対峙(たいじ)する「日米の意思表示」と分析する。
「21世紀の強固な米台パートナーシップの象徴だ」
マリー・ロイス米国務次官補(教育・文化担当)は12日、台北市内で開かれたAIT台北事務所の新庁舎落成式で、こう語った。
式には、台湾の蔡英文総統と、首相にあたる頼清徳行政院長が顔をそろえ、ジェームズ・モリアーティAIT理事長と固い握手を交わした。
蔡氏は「(台湾は)自由で開放的な民主国家として、共通の価値観と利益を守るよう協力する義務がある」と述べ、米国との「価値観同盟」をアピールし、「1つの中国」原則への対抗姿勢を打ち出した。
これに対し、中国はロイス氏が出席したことに反発した。中国外務省の耿爽副報道局長は「米国に間違ったやり方を正すよう促している」と記者会見で語ったが、傲慢な内政干渉ではないのか。
米国は最近、覇権主義の中国を「脅威の本丸」とみなし、貿易問題で対立するとともに、南シナ海での「航行の自由作戦」を展開している。今回のAITの新庁舎整備は「台湾重視政策」の一環といえる。
トランプ政権は以前から、台湾との関係強化を進めてきた。
自主規制してきた米台高官(一定の地位以上)の往来を促す「台湾旅行法」を3月に成立させた。4月には、超タカ派のジョン・ボルトン氏を大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に起用した。ボルトン氏は昨年1月、米紙ウォールストリート・ジャーナルへの寄稿論文で「台湾への米軍駐留」を提言している。
背景には、中国が台湾周辺や南シナ海で、示威的な軍事行動を活発化させ、「台湾統一」の野心を隠さないことがある。これを許せば、日本をはじめ、世界のシーレーンを、共産党独裁の中国が支配することになる。
中国軍は4月にも南シナ海で、空母「遼寧」を含む艦艇や航空機による「史上最大規模」の演習を実施したほか、台湾海峡では、陸軍航空隊所属の攻撃ヘリ部隊が実弾射撃訓練を強行した。
台湾は、米中双方の利害がぶつかる「発火点」として、戦略的重要性が高まっている。
元航空自衛隊空将で、軍事評論家の佐藤守氏は、米朝首脳会談と新庁舎落成式が同じ日に重なったことについて「中国への牽制になっていることは間違いない」と指摘し、続けた。
「AITの新庁舎整備は、米国の『台湾は死守する』というシグナルだ。台湾周辺と南シナ海を中国に制圧されれば、自由主義陣営が危ない。トランプ政権の戦略として、『反中国』の北朝鮮を取り込むと同時に、台湾を(自由主義陣営の)前進基地にしようとしているのではないか」
わが日本も、米国と連携して「中国包囲網」の形成に動いている。
安倍首相とマハティール首相の首脳会談では、「北朝鮮の非核化」だけでなく、南シナ海の岩礁を軍事拠点化している中国を念頭に、「海洋安全保障分野でも連携する方針」で一致した。
共同記者発表で、安倍首相は「インド太平洋地域を平和と繁栄のための国際公共財としていくことが重要だ」と強調し、マハティール氏は「南シナ海、マラッカ海峡を含む公海を自由で開かれたものにしなければならない」と足並みをそろえた。
マハティール氏といえば、2003年までの22年間、マレーシア首相を務め、日本の経済成長を手本にする「ルックイースト(東方)政策」を提唱した。野党連合を率いて今年の下院選を制し、92歳の高齢ながら首相に復帰した。復活の一因に、中国の対外膨張策「一帯一路」のプロジェクトにのめり込む、ナジブ・ラザク前政権への危機感があったという。
日米と台湾、マレーシアの連携が、中国への対抗軸となるのか。
中国情勢に精通するノンフィクション作家の河添恵子氏は「トランプ政権は、12日の米朝首脳会談をもって、北朝鮮問題に1つの区切りをつけ、『中国との対峙』にかじを切ったといえる。台湾のAIT新庁舎も、マハティール氏の訪日も、すべてが連動し、自由主義諸国が中国と対決する新時代の幕開けを告げている。中国は四面楚歌(そか)になりつつあり、今後の火種は、朝鮮半島から台湾に移るだろう」と話している。