本誌でも何度か指摘してきたように、『広辞苑』第7版には、台湾に関する記述で「台湾がこれ(中華人民共和国)に帰属することを実質的に認め」(日中共同声明)や「一九四五年日本の敗戦によって中国に復帰」(台湾)、26番目の行政区として「台湾省」を明記する「中華人民共和国行政区分」と題する地図の掲載など、歴史事実や現状と異なる記述がある。
夕刊フジが「最も強い違和感を覚えるのは『中華人民共和国』の項目」に「台湾を『台湾省』として記載している」ことだという。そして、岩波書店側の見解を確認したうえで「ここまでの固執ぶりは理解困難だ」と書く。
夕刊フジとしてはかなりメッセージ性の強い記事で、読者の多くも共感するのではないだろうか。
すでにジャーナリストの野嶋剛氏は昨年末、「台湾がこれ(中華人民共和国)に帰属することを実質的に認め」(日中共同声明)の記述について「台湾の帰属について『中華人民共和国に帰属する』などと断言することは、軽率のそしりを免れない」「『実質的に』をつけたとしても、書きすぎ」「解釈の領域に踏み込んでしまうことは、辞典としての性格上望ましくない」と、説得力に富む厳しい批判論考を発表している。
この夕刊フジの記事はそれに続く批判で、今後、同様の批判や異論が続出することを予感させる。
—————————————————————————————–「広辞苑」おかしな固執 台湾は中国の26番目の省? 図の訂正要請に「誤りではない」【夕刊フジ:2018年1月23日(1月22日発売)】https://www.zakzak.co.jp/soc/news/180123/soc1801230004-n1.html
岩波書店が10年ぶりに改訂した国語辞典「広辞苑」(第7版)に対し、問題の指摘が続いている。「LGBT」や「しまなみ海道」の記述については重版で訂正するというが、台湾を中華人民共和国の26番目の省(台湾省)と、図で表記している件については訂正の予定はないという。台湾と中国は明確に違うが、どうして固執するのか。
「いつから台湾は中国の一部になってしまったのか。このような記載を広辞苑が続けているのは、本当におかしい。台湾の人々に失礼だし、子供を含め、多くの日本人が間違った認識を持つ。訂正してほしい」
日本と台湾の文化交流を進める「日本李登輝友の会」の柚原正敬事務局長はこう語った。
台湾に関する複数の記述に疑問が指摘されているが、最も強い違和感を覚えるのは「中華人民共和国」の項目。「中華人民共和国行政区分」という地図が掲載され、台湾を「台湾省」として記載しているのだ。
実は、同地図は1998年発売の第5版から掲載されていた。
この表記には、台湾の日本における外交の窓口機関である台北駐日経済文化代表処も反発している。ホームページ(HP)に「台湾が中華人民共和国の『台湾省』として紹介されるなど事実と異なる内容が見受けられる」との声明を掲載し、岩波書店に以前から訂正を要請しているのだ。
確かに、共産党独裁の中国は「台湾は中国の不可分の領土だ」と主張しているが、台湾には、民主選挙で選ばれた総統(国家元首)がおり、行政院(内閣+各省庁)や、立法院(国会)、法院(裁判所)が存在する。中国の法律は適用されていない。日本政府も72年調印の日中共同声明で、中国の立場を「十分理解し、尊重」すると表明するにとどめている。
日本には、多種多様な地図が存在する。どうして、岩波書店は中国側の主張に沿った地図を掲載し続けているのか。
同社の平木靖成・辞典編集部副部長は「岩波書店の考えはHPにある通りです」と答えた。
HPを見ると、《小社では、『広辞苑』のこれらの記述を誤りであるとは考えておりません》《中華人民共和国・中華民国はともに「一つの中国」を主張しており》《図については、「中華人民共和国」の項目に付した地図であり、同国が示している行政区分を記載したものです》などとあり、《読者の皆様のご理解を求める次第です》と記されている。
辞書は分かりやすいのが一番だが、ここまでの固執ぶりは理解困難だ。