産経新聞2015.5.1 05:03
戦後70年談話も未来志向貫け
新時代の日米関係のあり方と日本の青写真が存分に語られた。
安倍晋三首相の米上下両院合同会議での演説の「キーワード」は、「世界の中の日米同盟」と「日本の新しい旗」だ。さきの大戦で相まみえた両国が、固い絆を確認し、世界の平和と安定を支えることを鮮明にしたことを大いに歓迎したい。
首相は演説の中で、あらたな日米安保体制を「希望の同盟」と名付け、それを基に「力を合わせて世界をもっとよい場所にしていこう」と呼びかけた。オバマ大統領も、前日の首脳会談後の共同記者会見で、日米は「地球的規模のパートナー」と位置づけた。
《安保法制実現を確実に》
今回、改定された日米防衛協力のための指針(ガイドライン)では、安全保障における日米の「切れ目のない協力」が確認された。現在、条文策定中の安全保障関連法案では、「周辺事態法」から地理的概念が取り除かれる。これらを踏まえ首相は、「世界の平和と安定のために、これまで以上に責任を果たす」と強調した。
あくなき軍拡を続け、海洋進出をはかる中国の行動は国際秩序への挑戦だ。首相の発言はこれを念頭に置いていることは明らかだ。それにとどまらず日米同盟の地球的規模での緊密化と、日本の責任分担強化をはかるという決意の披瀝(ひれき)だろう。冷戦終結を踏まえた1996年の日米安保再定義とも比肩できる画期的な転換点として評価されよう。
大きな約束には「裏付け」も必要だ。首相は、安保法案を夏までに成立させることを表明した。法案が整う前から、他国にそういう約束をすることへの批判が日本国内にあるが、首相は国民の理解を得ながら、断固として信念を貫いてほしい。
150年以上前にさかのぼる米国との出会いを「民主主義との遭遇だった」と語り、今日も両国が、自由や人権、法の支配といった価値観を共有していることを首相は再三、強調した。日米同盟のよりどころが戦後の日米和解であり、共通の価値観であることに、改めて思いを致したい。
首相は、日本の国内問題にも言及した。農業、人口問題、女性活用などだ。真摯(しんし)に取り組んでいる姿勢を語り理解と協力を求める意図であり、その率直さは大きな拍手をもって受け入れられた。
これらとの関連で、重要なのは、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)だ。「単なる経済的利益を超えた、長期的な安全保障上の大きな意義がある」と議会に直接訴えたのは適切だった。
関税分野の日米対立が解けずにTPP交渉全体が頓挫する事態になれば、どこが利を得るかは明白である。日米両国は、台頭する中国を念頭に貿易・投資ルール作りで結束を強めねばならない。首相だけでなく、オバマ大統領にも指導力と決断力を強く求めたい。
《TPPで指導力発揮を》
カギを握るのが米議会だ。議会内のTPP反対論を抑えて大統領に通商交渉の強い権限を与える法案を成立させられなければ、交渉妥結は望み難い。
国内産業の保護にこだわりすぎれば、成長の機会を逃しかねない。日米ともにその点を改めて確認しておきたい。
今回の演説で、首相がさきの大戦について、謝罪しなかったことへの批判が中国、韓国そして米国内の一部にもある。
しかし首相は、米国との和解に言及し、「悔悟」という表現を用いたうえで、「痛切な反省を胸に歩みを刻んだ」「アジア諸国民に苦しみを与えた事実から目をそむけてはならない」とも述べている。戦後、日本がアジアで実践してきた貢献は、胸を張って語るべきものだ。
オバマ大統領も記者会見で「日本は数十年にわたって、平和的に歩んできた。過去から教訓を学び、侵略にかかわることもなかった」と称賛した。
これ以上どんな言葉が必要というのだろうか。
首相の今回の米議会での演説は、8月に予定されている戦後70年に関する首相談話の内容をうかがえるものとして、内外から注目されていた。
過去にとらわれるばかりでは決して生産的ではあるまい。
8月の談話も未来志向を貫き、日本の将来の、より詳細な青写真を示してほしい。