【産経社説】劉暁波氏への重刑 国際社会にも責任がある

【産経社説】劉暁波氏への重刑 国際社会にも責任がある

2009.12.28 産経新聞

 中国の著名な民主活動家で作家の劉暁波氏に国家政権転覆扇動罪で懲役11年・政治権利剥奪(はくだつ)2年の実刑判決が言い渡された。昨年12月に劉氏らが起草、ネット上に発表し署名を集めた「08憲章」や、その他6編の文章が罪に問われた。判決は中国に言論の自由がないことを改めて示し、極めて遺憾である。

 劉氏は1989年の天安門事件当時、天安門広場に座り込んだ4人の知識人の1人で、学生らを説得し広場での流血を回避させたことで知られる。事件後の逮捕を含め過去3度身柄を拘束されたが、圧力に屈せず、海外のメディアやネットに共産党批判の文章を発表し続けてきた。

 今回の主要な罪状にされた「08憲章」は、一党独裁体制から民主主義体制への移行を主張したもので、劉氏の年来の言論と大きな違いはない。しかし治安当局は憲章発表の前夜、劉氏を拘束した。事前に約300人の賛同者の署名を集めていたが、ネットで署名の輪が広がるのを恐れたためだ。

 劉氏は、政権転覆の容疑を一貫して否定、中国憲法が保障した「言論の自由」を盾に無罪を主張したが、共産党の指導下にある中国の司法制度の下では、起訴された段階で有罪は確定的だった。近年、諸矛盾が噴出し、党批判が強まっているが、一党独裁体制への挑戦だけは許容しないからだ。

 劉氏への重刑は民主化や人権擁護を求める活動家に警告する政治的な決定にほかならない。

 これに対し、米国などは批判する声明を出したが、中国外務省報道官は「中国内政への粗暴な干渉」とはねつけた。チベットやウイグル問題同様、中国は外国の批判に強気になる一方だ。

 経済成長をバックに大国化した中国の影響力が大きくなり、国際社会が対中批判に尻込みする傾向が強まっている。米国ですら、今春訪中したペロシ下院議長やクリントン国務長官も中国の人権問題への言及を避けた。日本に至っては、劉氏の公判会場に大使館員が行くこともなかった。

 中国が、言論の自由など基本的権利をより尊重すべきことは言うまでもない。それは国際社会における大国の責任である。同時に、国際社会も、中国との利害関係にのみ目をやるのではなく、人権侵害の改善を促す努力を怠ってはならない。劉氏への判決を対岸の火事にしてはならない。


投稿日

カテゴリー:

投稿者: