「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」より転載
腐敗浄化が進まない中国人民解放軍。汚職は中国の文化なのだ
新兵の両親は「隊内でイジメを受けないように」上官に賄賂という体質
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2007年、中国海軍ナンバーツーだった王守業・中将が失脚したとき、その汚職の規模に驚かされたものだ。
王守業中将は海軍の装備品調達の責任者だった。北京に豪邸があって、美女がよく出入りしていたという。しかも当該住居はセントラルヒーティング完備。なぜ海軍の幹部が北京に豪邸があるのか訝った。
出入り業者が豪邸を建ててくれたわけで、大きな冷蔵庫がふたつ。なかから出てきたのは米ドル、ユーロ、香港ドルなどの外貨のキャッシュが2億ドル前後もあった。
筆者はこのスキャンダルを聞いたとき、蒋介石の軍人等の腐敗を連想した。
革命前夜、東北(旧満州)で国共内戦の最中、国民党が共産党と戦っているときに、国民党軍の武器管理、弾薬保管の責任者等が、あろうことか、せっせと武器を売りさばき、その密売先は共産党の八路軍だった。
匪賊にも大量の武器が流れ、米国が支援した最新鋭の武器は敵陣営の武装強化に繋がっていた。皮肉である。
これを「売国軍人」というが、ばれるのは氷山の一角で、部隊ごと、連隊ごとに集団で汚職に手を染めているから、検査がはいってもなかなか発覚しないのである。
なにしろ、現在いかに習近平が反腐敗キャンペーンに乗り出そうとも、腐敗浄化が進まない中国人民解放軍。
要するに「汚職は中国の文化」なのだ
さて、近年の中国の軍備強化は目覚ましく、2030年に米国と肩を並べると予測する向きが多い。
上海近くの軍造船所では空母を二隻建造中で、これが進水するのは2020年と予測されているが、完成すれば「太平洋とハワイの西と東で分担する」と中国軍が獅子吼している。
最新鋭潜水艦も数隻が建造中、さらにはステルス戦闘機も試作モデルが成都空港に出現し、2011年春、胡錦濤とゲーツ国防長官が会談中にデモンストラーションをした。
▼米軍規模に中国の技術が追いつける時代の到来は考えにくい
だが、まてよ。
いま中国がさかんに喧伝している「空母」なるものはソ連崩壊後のウクライナから輸入した鉄の塊であって、これを近代的に作りかえて「遼寧」と命名して大連で艤装工事をおえ、2012年夏から東シナ海でさかんに試験航海ならびに艦載機の発着訓練をしている。
拠点は青島海軍基地となったが、艦載機はジェット燃料を殆どからにしたうえ、攻撃ミサイルを外し、機体を軽くしてから発着している。
重いと発艦できないからである。
そのうえ「遼寧」は速度が20ノットしかでない。米軍の空母は30ノット、艦載機は90機から110機が搭載されて、およそ一分ごとに艦載機が発着出来る。
空母とは「動く飛行基地」であるからには、それっくらいの機能がなければモノの役には立たない。
あまつさえ空母はフリゲート艦、駆逐艦、燃料艦に潜水艦をともなうチームで編成されている。一隻の空母が機能するに、これだけの海軍の陣容がひつようなのである。したがって米軍のような近代化に中国の技術が追いつける時代の到来は考えにくいのではないのか。
ロシアから輸入して、ライセンス生産をしていたはずの最新鋭ジェット戦闘機、ミグ29,31,33は相当数が配備されている筈なのに、飛んでいるところをみたという情報はあまりにも少ない。
ただし年に六機ほどが「訓練中に墜落」というニュースはよくある。
つまりパイロットの練度が不足し、宝の持ち腐れとなっている。
そのうえ、ロシアに内緒で輸出に回し、ライセンス契約と違う背信行為が目立つためロシアが部品を供給しないので、「えんたい」のなかで眠っているのではないか、と推測される。
イランのシャーが全盛期、米国製のF14トムキャットが数十機、イラン空軍の誇りだった。やがてシャーの体制がイスラム革命で崩壊し、パリからホメイニ師が凱旋すると、軍人の大半は逃げた。
F14は放置されて、周辺国は懸念したが米国は笑い飛ばした。部品の供給がなければ、F14は動かない。砂漠に埃だらけとなって、やがて廃棄された。
イラクのサダム・フセインは米国との戦争前夜に敵対するイランに宝物の戦闘機を緊急避難させて、万一に備えた。イランの革命防衛隊はジェット戦闘機の操縦ができないとタカをくくってのことである。
また反米路線ということになれば、憎しみ合うほどに仲の悪いイラクとイランも米国が共通の敵である。
ところがこれも部品の供給を絶たれ、砂漠の沙となった。
中国は宇宙船「神舟」を打ち上げ、有人飛行に成功し、おおいにナショナリズムを鼓吹したが、これらの宇宙船はすべてロシア製だった。
▼新兵の両親が息子を軍人にして。。。
さて、中国の軍でいま何が起きたか。
第一はモラルの低下蔽いがたい惨状である。習近平は軍事委員会幹部をともなって方々の部隊を視察しているが、視察がおわると宴会が始まる。禁酒令が本当に守られているか、甚だ怪しいのである。
軍は、就職先として近年はやけに人気がある。とくに農村部の若者にとっては収入が安定し、戦争はないと踏んでいるから安定的職業のランクになる。
また大学工学部卒業は新兵器開発などで優遇され、コンピュータ関係はハッカー戦争の訓練など。
しかし中学卒業程度の「兵卒」はどうするのか。軍人になるための賄賂が一万元の相場で、親が部隊長に届ける。しかも、次は「いじめに合わないように」と部隊連隊幹部などに1000元、2000元を届ける。これが軍内の見えない、しかし常識のシステムである。
第二に注目しておきたいのは軍基地に隣接してつきものは売春窟である。表向きビジネスホテルを装ったホテルは売春宿だ。
一般兵卒となると、もっと貧困な安宿、病気をもったような不潔な売春婦の場所へ通う。
高級幹部は軍が経営するホテルに高級売春婦を呼び込む。広州に五つ星ホテルがいくつかあるが、日本人のよく泊まる花園、老舗の中国飯店、東方飯店、河畔のスワンホテルなどが有名。じつは某ホテルも五つ星だが、一般客が殆ど寄りつかない。
このホテルは軍が経営しているからで、玄関にはつねに軍用車両やパトカーが駐車している。覆面パトカーも高級外車のならぶ駐車場に駐まっている。
軍人御用達、宴会場は軍人幹部の「会議」と称する麻雀大会、カラオケ。そして美人が陪席している。
軍人ホテルには警察の手入れが入らない。こういう見えないシステムが中国の軍駐屯地の周囲で日常起きていることである。
▼武器の密売、転売もまた中国軍の体質である
第三は軍のアルバイトのなかでも、武器の横流しと密輸がおさまらないのである。
新聞報道によれば、陜西省の在る軍需倉庫に保管されていたミグ15戦闘機はいつのまにか、在庫リスト上で385機あるものが、実際は25機に減っていた。
行方不明の戦闘機は、アルミ合金として合金企業に転売されていたが、これは副業、つまり密売だった。
四川省の軍倉庫から戦車ならびに装甲車1800両が解体され、理由は「新型と更新」とされ、鉄のスクラップ企業に密売されていた。
「1996年以降、地上戦力を毎年更新、廃棄待ちの戦車・装甲車やトラックの50%が消滅し、とりわけエンジンは1基1万元で処分されていた。
湖南省の軍倉庫からはマシンガン(ソ連製)、米国製カービン銃と拳銃など27万3000丁が「消失」していた。
その武器の一部はマフィアに転売され、海外のテロリストへ輸出された形跡が濃厚だという。
雲南省の軍倉庫からは災害時の救援用品や燃料、物資が保管されているが、とりわけガソリン、軽油1万7000バレルが密売されていた。
書類上は「予備役の演習」「災害救援活動」として処分されたと報告された(余談だが雅安地震直後から義援金が呼びかけられたが中国赤十字にはカネが集まらなかった。幹部が不正に流用していると噂がひろまったためで、民間の「壱材団」への義援金が赤十字より多かった。この財団は俳優のジェットリーが主催するものだ)。
▼災害救援物資さえ軍倉庫から消えた
広西チワン自治区の軍倉庫からは、軍用のベッド、ハンモックや軍靴類、野戦テント各20万セットと薬品が「もぬけの殻」になっていた。
こうして密売、転売されブラック・マーケットへ流れる武器・弾薬・燃料・食料・薬品・軍靴など300億元が、おそらくは軍幹部の懐に入り、たとえば側室らへのお手当、子弟の海外留学やら豪邸建設やら宴会費用に化けた。
2012年に大幹部だった谷俊山・中将が、軍用地をデベロッパーに勝手に転売して20億元をくすね、あまりのことに発覚して裁判となって、谷は失脚した。その前任者が前述の王守業・中将で軍出入りの業者からの賄賂をせっせと蓄財していた。
ことほど左様にモラルが低下した軍隊がまともに戦争をするだろうか?
『台湾の声』http://www.emaga.com/info/3407.html