【宮崎正弘の国際ニュース】中国共産党系作家にノーベル文学賞の怪

【宮崎正弘の国際ニュース】中国共産党系作家にノーベル文学賞の怪

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」より転載
   

 「後味が悪い」、あの共産党べったりの莫言がノーベル文学賞だって?
   反体制中国人や人権団体が一斉に莫を批判、「スエーデンは中国と取引した」
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 中国で莫言の名前を知っている人はかなりの知識人か、なにかだろう。
 発音はMO YAN、英訳も出ているが欧米でもムラカミハルキほど有名ではない。というより無名に近く、中国の若者も殆どが名前さえ知らない。

 たしかに中国国内で16冊の本を上梓しているが、売れたという話もなければ、本名が「菅謀業」で、57歳で山東省の田舎者で、貧困な生い立ちで、いま山東科学技術大学客員教授で、「映画の原作料がたったの4000元だった」と不満を漏らした逸話くらいしか知られていない。人民解放軍除隊後、創作活動をはじめ、影響を受けた作家にウィリアムフォークナーをあげた。

ヒット作『赤いコウリャン』は張芸謀監督が映画化したので人口に膾炙されたが、ほかの作品はファンタジーの手法で中国の農村の風俗と民話を現代風に幻想的にアレンジしたガルシア・マルケス的な作風という。

 スエーデン・アカデミーの受賞理由の開示説明も奥歯に物の挟まったような、つまり積極性がなかった。
 「政治的意図はない」とわざわざコメントをくわえるほどに困惑した表情も見て取れる。ノーベルアカデミーは中国に買収されたのか、という批判が巻き起こるのは当然だろう。

 これは二年前の劉暁波へのノーベル平和賞に対して中国が取った信じられない妨害工作、その後の経済制裁と、中国のイメージ改善をはかるため、莫言の受賞は取引されたのではないか、とする疑問が世界各国の有識者のあいだにまたたくまに拡がった。『後味が悪い』とアイメイメイも発言し、「受賞に値しない」と苒雲飛(四川省の編集者で08年憲章のまとめ役)は褪(さ)めた感想をのべている。

 ▼受賞に値するのか、と中国の知識人たち

 在米嘉字紙の反応もひややかそのもの。
 書き込み欄には「スエーデンは共産党員作家になぜ名誉を与えたのか」と、怒りの投書が集中している。

 また人権団体は「莫言は共産党べったり、人権弾圧に抗議声明も出さない男だ」と批判声明をだした。
しかし莫言という筆名は、中国で『喋るな』という意味であり、じつに暗喩的である。

 もしムラカミハルキが受賞していたとしても、日本の伝統に基づかない無国籍作風ゆえに、伝統的日本人としては嬉しくないが、こんどはじつに後味が悪いニュースだ。


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