2012.7.7 産経新聞
【台北=吉村剛史、北京=矢板明夫】中国、台湾、香港など中華圏の反日団体が沖縄県・尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐって連携を深め、活動を活発化させている。4日に尖閣諸島海域を領海侵犯した台湾の活動家らは、中国から資金援助を受ける香港の政治団体に所属しており、現場海域に持っていったのは中国の「五星紅旗」だった。中国メディアは活動家らを英雄扱いし大きく宣伝している。日本と対抗する際に、台湾の活動家を“先兵”として使い、日台分断を図りたい胡錦濤政権の思惑がちらつく。
尖閣諸島の領海内に侵入した活動家、世界華人保釣(釣魚島を守る)連盟の黄錫麟主席は地元メディアとの会見で、同諸島海域で掲げた中国国旗を魚釣島に投げようとしたが、海面に落ちたエピソードも披露した。「なぜ中華民国(台湾)の旗を持っていかなかったのか」との質問に「出発を急いだメンバーが忘れた」と説明した。しかし、同団体周辺からは「6月中旬に香港で開催された(同連盟の)大会で、五星紅旗だけを持っていく決議がなされていた」との情報が流れている。
黄氏は台湾籍だが、氏が主席を務める世界華人保釣連盟の本部は香港にあり、昨年1月に設立された。中国、香港、台湾と欧米在住の華僑反日活動家らをまとめている。15人の理事は、香港から5人、台湾から4人、中国から3人、華僑3人で構成されているが、活動資金は主に中国から調達している。
同団体がホームページで公表している寄付金の大半は人民元が占めている。黄氏は4日夜の会見で、新しい船を購入する資金の一部として、「中国の企業オーナーから100万元(約1200万円)の寄付をもらった」と明かしたが、この資金は中国当局から出ている可能性もある。
領海侵犯があった4日当日の中国外務省の定例会見で、劉為民報道官は「日本は台湾同胞を含む中国側の人員の生命を脅かさないようにしてもらいたい」と援護する姿勢をみせた。
中国政府は最近、東京都の石原慎太郎知事による尖閣購入計画が日本で支持を広げていることに神経をとがらせている。しかし、尖閣を自国領と主張しているため、購入そのものが無効だとの立場をとっており、政府としては抗議できない。
このため、台湾や香港など“海外”の活動家の抗議活動を支持することで、日本を牽(けん)制(せい)したいのが中国当局の狙いのようだ。
また、尖閣問題などで悪化する一方の日中関係に対し、東日本大震災後に寄せられた多額の義援金への謝意などから日台関係は接近した。このことを苦々しくみている中国当局には、台湾の活動家に前面に出てもらうことで、日台関係にくさびを打ち込みたいとの思惑もありそうだ。