富士吉田市で行われた。日台間ではこれまで、秋田県の田沢湖と高雄の澄清湖の姉妹湖提携(1987
年)はあったが、山の提携は恐らく初めてのことだ。
玉山は日本統治時代、明治天皇が明治29年6月に「新高山」(にいたかやま)と命名された日本
一高い山だった。明治天皇は「新高の山のふもとの民草の茂りまさると聞くぞうれしき」と詠まれ
ている。大東亜戦争の開戦時、開戦日を知らせる陸軍の電文は「ヒノデハヤマガタ」(山形は12月
8日を意味する暗号)で、海軍は「ニイタカヤマノボレ一二〇八」で新高山が使われた。
その台湾最高峰の玉山と、世界文化遺産に登録された日本最高峰の富士山が友好山を提携した。
前年4月22日、日本富士山協会と中華民国山岳協会が「富士山と玉山の友好山提携の協定締結に向
けた覚書」を交わし、正式な提携が待たれていた。
この友好山提携は台湾側からの提案だったことなど、提携に至るまでの詳しい経緯について、日
本富士山協会の秋山倫久氏が公益財団法人交流協会発行する台湾情報誌「交流」4月号に寄稿され
ている。下記に全文をご紹介したい。
なお、静岡県では富士山を詠んだ短歌、俳句の創作活動を通じて、富士山への理解と関心を深め
てもらおうと募集を開始している。その要項などは下記に別途ご紹介する。
富士山と玉山の友好山提携
秋山 倫久(日本富士山協会事務局 静岡県富士山世界遺産課 主任)
去る平成26年2月7日、日本富士山協会と台湾 の中華民国山岳協会の間で、昨年6月に世界文化
遺産に登録された富士山と台湾最高峰の玉山との「山」を媒体とした友好山提携が締結されました。
1 両山の概要
(1)富士山
日本の最高峰で、標高は3,776m。静岡・山梨両県にまたがっています。信仰の対象、芸術の源
泉と しての文化的な価値が認められ、第37回世界遺産 委員会において世界文化遺産に登録されま
した。登録の正式名称は、「富士山−信仰の対象と芸術の源泉」で、富士山域をはじめ、富士山本
宮浅間大社や忍野八海、三保松原など25の構成資産があります。
(2)玉山
台湾の最高峰で、標高は3,952m。周囲は台湾 自然生態保護区、玉山国家公園に指定されてい
る。 台湾のほぼ中央部に位置し、南投県・嘉義県・高雄市にまたがっており、日本統治時代は
「新高山」と呼ばれていました。
2 両協会の概要
(1)日本富士山協会
静岡県、山梨県及び富士山周辺の市町村、観光協会、企業等で構成する民間団体。富士山の恵み
である湧水と土壌から生まれた豊かな食の魅力を発信する「富士山麺と食のフェスティバル」等の
イベント開催や観光ガイドマップの作成等を通じて、富士山周辺のにぎわいの創出や情報発信を
行っています。
(2)中華民国山岳協会
台湾の山岳団体。政府規定に基づく山地管制区入山申請や国家公園入園申請の代行業務、公認登
山指導員の派遣業務などを行い、外国人の登山活動への協力等を行っています。
3 友好山提携までの経緯
(1)提携の提案
今回の友好山提携は、平成24年9月、日本富士山協会の堀内副会長(富士急行株式会社取締役社
長)が台湾行政院交通部観光局国際組を訪問した際に、観光局から富士山と玉山の友好提携の提案
をいただいたことが始まりです。日本富士山協会は、既に中国山東省泰安市と「富士山・泰山友好
山提携」を締結していたこともあり、観光局から推薦された台湾の民間団体である中華民国山岳協
会と「富士山・玉山友好山提携」に向けた協議を進めることになりました。
(2)覚書の交換
平成25年4月22日、台北市内において日本富士山協会の上野事務局長と中華民国山岳協会の宋秘
書長の署名により、「富士山・台湾玉山の友好山 提携に向けた協議開始に係る覚書」を交換しま
した。覚書には、富士山と玉山、両山地域の様々な分野における交流と協力をうたっており、本提
携への基礎を築くことができました。
(3)草の根交流会の実施
覚書交換後の平成25年8月には、台湾で草の根交流として玉山国家公園管理処への訪問や玉山山
麓の散策を行い、両協会は交流を深めてきました。
4 友好山提携調印式
平成26年2月7日、山梨県富士吉田市のハイランドリゾートホテル&スパにおいて「富士山・玉山
友好山提携」の調印式を開催しました。調印式は、両協会や静岡・山梨両県の関係者のほか、公益
財団法人交流協会の小松総務部長や台北駐日 経済文化代表処横浜分処の粘処長、台湾観光協会東
京事務所の徐副所長が見守る中で行われました。
協定書の署名者である日本富士山協会の庄司清和副会長(株式会社時之梄代表取締役会長)は、
「今回の友好山提携は、日台の友好において意義深いものであり、各分野での交流と発展を期待し
ている。」と挨拶。中華民国山岳協会の何中達(か・ちゅうたつ)理事長も、「台湾にとっての玉
山は、日本人にとっての富士山と同じであり、どちらも一度は登ってみたい山。これからも双方の
交流を 深めていきたい。」と語りました。
両協会が締結した協定の内容は、1)両山地域の自然、文化、歴史、産業等の分野における交流
と協力を積極的に推進する、2)相互に情報を提供するとともに、相手方の情報についても双方に
その魅力を発信するなど連携し、両山地域全体の情報発信力を強化する、3)両山地域住民同士の
相互理解を深め、 友好関係を将来に向かって一層発展させていくため、相互の訪問交流を活発に
行うとともに、特に登山、観光分野での協力を推進する、というものです。
5 協定締結後の交流
協定締結後の交流の内容としては、両協会のホー ムページや観光パンフレットに富士山・玉山
の紹介を掲載するほか、日台の相互訪問交流を行っていく予定です。既に平成26年3月には友好山
提携記念ツアーを行い、日本富士山協会のツアー団が玉山周辺や台北市等を訪問し、中華民国山岳
協会のメンバーと親睦を深めています。
また、8月には、中華民国山岳協会の訪問団が富士登山を行うとともに、静岡県・山梨県の富士
山周辺地域を訪れる予定です。
今回の友好山提携は、日本と台湾の交流の架け橋として大変意義深いものとなりましたが、両協
会の交流に留まることなく、日台の山岳団体や文化団体等とのつながりを広め、民間交流の拡大を
推進してまいりたいと希望します。
【公益財団法人交流協会「交流」4月号より】