【産経正論】日米の同盟強化が生む相乗効果

【産経正論】日米の同盟強化が生む相乗効果

産経新聞2015.5.19
 

ヴァンダービルト大学名誉教授 ジェームス・E・アワー

 米ホワイトハウスでのオバマ大統領と安倍晋三首相との会談の前日となる4月27日、日米が再改定で合意した「防衛協力のための指針(ガイドライン)」の(発表文書の)インクも乾かないうちに、日本と外国の一部の批評家は、日本は平和憲法(の護持)と防衛力を最小限に抑える政策から離れ、「戦争に突き進む法律」の策定段階に入るという危険な方向に踏み出したと主張している。

 こうした批判は、これ以上ないほどに間違っている。同様の批判は、1960年に日米安全保障条約ができたときにも存在したが、条約は日本を危うくするどころか、55年間の日本の安全を実現させた。

 ≪重要さ増す同盟の根拠≫

 60年以降、時代は変わった。北朝鮮は危険な軍事力を持つ予測不可能な専制体制によって統治され、顕在的な核武装脅威国になろうとしている。中東は、非常に不安定だが戦略的に重要だ。

 中国の軍事費は、控えめに言っても気がかりな種々の理由で増加しており、中国の東シナ海と南シナ海での挑戦的な行動は、日本の安全保障と航行の自由を脅かし、日本やより広大な地域、世界の経済に深刻な結果をもたらしかねない。

 それゆえに、日米同盟が今も存在していることに関する論理的根拠はある意味、前にも増して重要になっている。日米同盟は両国で必要とされているが、両国とも、21世紀の現実をめぐる互いの対応に完全に満足しているわけではない。

 尖閣諸島(沖縄県石垣市)の主権の問題をめぐり、米国がいずれの側に立つのか態度を明白にしないせいで、中国による不当な要求や挑戦的な行動を前に、日本は米政府が力を貸してくれるのかどうか不安になっている。米国は日本の自衛隊の有能ぶりを評価しているが、日本政府が集団的自衛権に関する政策変更を嫌ってきたせいで、現実には起こりそうにない日本の領土への直接的な攻撃を除いた偶発事態への対処計画の立案が、不可能とは言わないまでも困難になっていた。

 日本の法的手続きに従えば、日本海で米軍艦船と演習中の海上自衛隊のイージス護衛艦は、北朝鮮のミサイルが米艦船だけを攻撃した場合、米軍を支援できないのだ。

 ≪高まった抑止力の価値≫

 まず、安倍政権が2014年7月1日、集団的自衛権の限定的行使の容認を閣議決定したのに続き、先月27日には日米両政府がガイドラインの再改定で合意した。また、オバマ大統領は同28日の記者会見で、尖閣諸島に安保条約が適用されることについて「疑問の余地はない」と保証するなど、日米同盟が今までよりもはるかに柔軟で、敵および味方から見て確固たるものにする段階的措置が講じられ、抑止力としての価値を計り知れないほど高めた。

 もし日本が集団的自衛権に関する閣議決定とガイドラインの履行に向けた新たな安全保障法を成立させたならば、北朝鮮が日本海を警戒行動中の米軍艦船に向けてミサイルを発射したり、イランがホルムズ海峡に機雷を敷設したり、また、中国が太平洋の米ミサイル防衛システムにサイバー攻撃を仕掛けたりした場合、日本はこれらの状況のうち一つでも複数でも日本の安全保障をも危うくすると判断した場合は、米国とともに問題に対処できるようになる。

 ≪「1+1=2以上」≫

 新たな安保法で、日本は合法的かつ現実的な行動を取ることを検討できる権利を得る。北朝鮮、イランと中国は、もし日本が米国と連携できないと知れば勢いづく恐れがある。

 一番重要なのは、西太平洋の技術的に最も高度な防衛力を備えた両国が合法的に対抗措置をとることができ、日本の安全保障が脅かされた際は、日米両政府が共同行動を取る決意であると知れば、これらの国々は、先に挙げたような攻撃を実施しないだろうということだ。

 安倍首相は次のような考えを示した。過去に1(米国)+0(日本)=1であったけれども、日本と米国は、いまや1+1=2の関係だ。抑止力という面では、実際のところ、1+1=2以上というのがより正確だ-。

 同盟の強化に向けた大きな歩みは、安倍首相によるワシントン訪問の成果として結実した。両国とも、将来の有事に際してはそれぞれの政府が決めたことを行う。どちらの国もこうしなくてはならないという義務はない。だが、米国と同様に、日本はいまや自国の取るべき行動について考えることができるのだ。

 いつ、どこで日本の安全が脅かされたとしても、日本が法律に従って行動できることを可能にする新たな措置と、日米両国が共に行動し、「1+1=2以上」という潜在的相乗効果を生みだすという決意を相互に確認することが、1960年の安全保障条約を残りの21世紀においてはるかに(現実世界と)関連の深いものにすることになるのだ。