台湾『大罷免』の失敗とソロモンの裁き

台湾『大罷免』の失敗とソロモンの裁き

 台湾独立建国聯盟日本本部 中央委員 林省吾

不適任の立法委員(国会議員)をリコールするため、台湾の市民が立ち上げた公民運動「大罷免」は失敗に終わった。

7月26日、8月23日のリコール投票の結果、すべての選挙区で不成立となった。

市民団体の力で、該当選挙区有権者の10%という極めて厳しい署名要件を、中国国民党が強固な地盤を持つ31の選挙区でクリアし、リコール選挙に持ち込んだこと自体は奇跡に近い。

一方で、大罷免を市民の怒りではなく民進党の「負け惜しみ」に見せかけるため、国民党も民進党立法委員を標的にした「報復リコール」を仕掛けた。

党組織を総動員しても署名が集まらず、リコール投票に至れなかったのも事実である。

しかし、国民党の狙いは達成された。

多くの有権者から海外メディアに至るまで、この大罷免を「民進党主導の与野党対決」と誤解したのである。

まさに「認知戦」の勝利だった。

そして国民党は選挙本番並みに、地盤・資金・組織を総動員し、支持者を「不同意票」へ誘導した結果、大罷免を不成立に追い込んだ。

この結果について、海外メディアは一斉に「台湾人が親中を選んだ」と報じた。

しかし、実際に不同意票を投じた有権者に尋ねると、「民進党への不信任を示しただけで、親中のつもりはない」と報道を否定した。

こうして「中国に併呑されたくないから民進党を与党に担ぎ上げつつ、監督の役割は親中政党である国民党や民衆党に委ねる」という現象が生じている。

海外の評論家はこれを「台湾人の独特なバランス感覚」と解釈するが、外から見ると矛盾に見えるこの選択も、内側から分析すればむしろ「ソロモンの裁き」に近い。

ソロモンの裁きとは、旧約聖書に記された逸話である。

子の母を名乗る二人の女の争いに対し、王ソロモンは「その子を剣で二つに切り分け、二人に半分ずつ与えよ」と命じた。

そのとき本当の母は「子どもを相手に譲るから殺さないでほしい」と懇願した。

ソロモンはその言葉を聞き、本当の母を見抜いて子をその人に返した。

台湾はその子である。

大罷免は、真の母=台湾派が子を守るために起こした行動である。

偽の母=親中派の政治家たちは、真の母が台湾を守るためなら必ず譲歩すると知っていたからこそ、台湾を人質にして台湾派に譲歩を迫ったのである。

「我々も台湾人だ。

平和こそ民意だ。

戦争を避け、台湾を守るために中国に寄り添うのは当然だ」──こうして大罷免が失敗した今、真の母はなす術もなく、子を相手に譲るしかなくなった。

だが、このジレンマを打開する鍵は、まさに「ソロモン」にある。

民進党は真の母を自認するのではなく、ソロモンになるべきなのだ。

民進党が大罷免の当事者であったかどうかはさておき、仮にリコールが成立していればねじれ国会が解消される以上、民進党が受益者であることは明らかである。

ならば民進党は、台湾の未来に対するビジョンを先に示し、有権者に「偽の母」になるのか「真の母」になるのかを選ばせるべきである。

今でも遅くはない。

民進党政権がかつてマニフェストに掲げた「司法改革」や「居住正義(=住まいに関する公平や公正)」といった政策は、今なお有権者──特に民進党から離れつつある若者層が強い関心を寄せるテーマである。

ソロモンのように王としての威厳と知恵をもって難題に挑むことこそ、台湾を真の母に返す唯一の道なのだ。


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