『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』より転載
● スリランカ、中国企業の港湾管理に市民ら抗議、警察と衝突─英メディア
1月8日、スリランカで、中国資本による港湾や工業地帯の建設に反対する市民らが抗議活動を行い、ウィクラマシンハ首相や駐スリランカ大使が出席する式典を妨害したということで警察と衝突になりました。報道によれば、警察は催涙ガスまで使用、警察官3人を含む21人が負傷し、52人が身柄を拘束されたということです。
ここ数年、スリランカは中国からの巨額経済支援を受けた形での、さまざまな施設が計画されてきました。南部のハンバントタ港もそのひとつで、中国資本での整備が行われ、昨年12月には中国港湾運営大手である招商局港口が約11億ドル(約1,260億円)でハンバントタ港の権益80%を獲得したという報道がありました。
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99年間の運営権を中国が握ることで合意したという報道もありますが、開発計画にはハンバントタ港周辺の何千人もの村民の強制撤去も含まれており、先の抗議者らは「中国の植民地になる」と反発を強めています。
中国がスリランカを重視するのは、インド洋の要衝であり、習近平の掲げる新シルクロード構想(一帯一路)の海のシルクロードの交通拠点としての役割と同時に、「真珠の首飾り戦略」と呼ばれる、香港からポートスーダンを結ぶ軍事的な海洋進出の拠点となるからです。
真珠の首飾り戦略は、インド封じ込めや中東からの石油輸送というエネルギーの安全保障、太平洋側への進出をアメリカに封じられたときの活路としての意味もあります。そのため、スリランカに中国海軍の拠点を置くことが中国にとって非常に重要だったわけです。
文革後、ことに80年代後半から90年代のはじめにかけて旧ソ連や東欧の崩壊によって、世界はアメリカ独覇(パックス・アメリカーナ)の時代になり、中国の国家戦略も対ソ連の「三北」(東北、華北、西北)防衛から四海に対する戦略的国境防衛へと変わり、「海洋強国」を目指すと公言し始めました。
「海に出なければ中国の時代は来ない」などと唱えながら南シナ海や東シナ海へと侵出していきましたが、これらの海域を抑えても、あるいは仮にアメリカと太平洋を二分しても、中国にとってはシーレーンを守ることはできません。
大航海時代、西洋人は地中海からインド洋までを抑えており、アヘン戦争以降、そうした西洋諸国によって中国が蚕食された過去があるからです。中国にとってはインド洋を抑えなければ安心できないわけです。だからスリランカの港を何としても確保したいのです。スリランカへの中国資本進出がとくに盛んになったのは、親中外交を展開したラジャパクサ前大統領の時代です。しかし2015年の大統領選でマイトリパーラ・シリセナ氏がラジャパクサを破って大統領に就任すると、中国依存主義を修正しようとしました。インドとの関係改善に動き、前政権時代に決められたコロンボの港湾都市(ポートシティ)計画も環境問題を理由に凍結されました。
しかし、これまでの中国依存が仇となり、中国の融資に対する巨額の利払いなどの問題もあって、結局はコロンボの計画は再開を認めざるを得ませんでした。ハンバントタ港も同様です。
小国にとっては、中国の金銭外交に絡め取られてしまうと、なかなか抜けられないという一例です。先日、アフリカの島国であるサントメ・プリンシペが台湾と断交したのも、中国の支援を求めてのことです。
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一方で、中国の「支援外交」は世界各地で現地の人々との軋轢を生じさせています。たとえば1月5日には、アフリカ東部のウガンダで、中国国有の建設会社「中鉄七局集団」に対して、ウガンダ人労働者400人以上が経営者によるセクハラ疑惑と低賃金に合議してストライキを行いました。
● ウガンダの中国国有企業でストライキ、経営者のセクハラや低賃金に抗議―米メディア
従業員の訴えでは、経営陣からの性的な誘いに応じる女性従業員にだけが給料を支払われ、断った者は支払われない状態が続いており、また、長時間労働や暴力行為も常態化しているということです。
昨年11月にはジョージア(旧グルジア)で、中国中鉄23局集団有限公司に雇用されていた地元作業員と中国人作業員との間で集団暴力事件が発生しています。報道では、衝突の原因は中国企業が借りていた土地から地元住民が木材を無断で持ち出したことにあるとされていますが、この衝突で数人が負傷し、中国人3人の身柄が拘束されたそうです。
● ジョージアで中国鉄道企業の中国人作業員と地元雇用作業員が集団衝突、中国人3人拘束―露メディア
中国の対外インフラ投資を餌にした外交は、さまざまな問題を引き起こしてきました。まず、ひも付きの経済援助なので、インフラ建設については中国企業が一手に引き受けることになります。もちろんそれによって、中国国内で過剰生産に陥っている鉄鋼などを消化する狙いがあります。
さらには、中国から何万人と人員を送り込むことで失業問題を解消させる目的もあります。加えて、中国では習近平政権の反汚職キャンペーンで汚職官僚が次々と逮捕されているため監獄が満杯状態にあり、その解消のために死刑囚らを労働者として海外派遣させています。それによって安い労働力を調達できるということになります。
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しかし、これでは結局、巨額支援がそのまま中国に還流することになりますし、当該国には雇用を生まないことになります。それどころか、建設労働者とともに飲食業者やホテル業者なども中国からやってくるため、むしろ現地の雇用を中国人が奪ってしまうのです。
それが深刻化しているのがアフリカです。たとえばザンビアのサタ大統領は、中国からの駐在者がザンビア人から雇用を奪っていると批判しています。またザンビア人を雇ったとしても「奴隷の賃金だ」と非難しています。
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もっとも、中国や中国人からすればすべては自分のためであって、支援国のためではないのですから、地元無視になるのは当然です。
しかも、中国人はプロジェクトが終わっても中国に帰らずに居座り、親族を呼び寄せて中華街を作り、さらには密輸や密売などの違法行為を繰り返すなど、やりたい放題ですから、現地人との衝突が絶えません。
金の生産国であるガーナでは、そうして大量流入した中国人によって違法な金採掘が行われ、しかも有害物質を使って採掘するので環境破壊が進み、地元住民への水供給もままならなくなったため、2012年にはガーナ政府が100人以上の中国人を逮捕したということがありました。
● ガーナで中国人大量逮捕 身勝手すぎる理由とは?
アフリカでは象牙の密輸が大きな問題となっていますが、そのほとんどが中国によるものです。ワシントン条約で売買が厳しく制限されている象牙ですが、密猟されて密売されています。しかも、中国軍すらその密売に関わっているので始末に終えません。実際、2013年に中国海軍がタンザニアを訪問した際にも、売買が発覚しています。中国軍は国有企業と組んで、さまざまなビジネスを展開していることはよく知られています。
● 中国唱える「環境保護」の実態 自然破壊、不正取引、密漁…
AIIBで注目利益中心主義の中国人や中国企業にとって環境保護などどうでもいいことであり、加えていい加減な工事をするため、自然破壊や汚染被害が絶えません。中国国内では水も土も空もひどく汚染され、すでに人間の住めない地になりつつあることは世界の常識ですが、それは公害対策設備に高額な金をかけようとする企業がないからです。そんな中国企業が外国で公害対策などするはずがありません。
そのため、アフリカのみならず、世界各地で中国企業の環境破壊に対する地元の反対運動が次々と起きています。たとえばミャンマーの北部カチン州のミッソンダムは現地住民の反対で凍結となりましたし、ミャンマー軍部の企業と中国の国有兵器メーカー北方工業公司との合弁会社が開発する同国北西部のレッパダウン銅山では、抗議活動を行う住民との衝突が頻発し、2014年には女性住民が警察に撃たれて死亡する事件も起きています。
● 「中国人は出て行け」村民が抗議
ニカラグアでは、中国企業が運河建設を進めていますが、やはり土地収用や環境破壊への抗議行動が活発化しており、反中感情が高まっています。中国がこの運河建設を進めるのは、パナマ運河を無価値化してアメリカと中南米諸国を分断する狙いがあるとも言われています。
● 怒号飛び交う抗議デモ…中国系企業のニカラグア運河建設の波紋、米もいらだち
現在、中国はペルーに南米大陸横断鉄道を提案していますが、ペルーのクチンスキ大統領は熱帯雨林の破壊や先住民への被害など環境への懸念を表明しています。ペルーにとって中国は主要貿易相手国ですから、あまり無碍にはできないのでしょうが、中国企業にやらせたら間違いなく環境汚染と住民の反発が起こることをわかっているのでしょう。
● ペルー大統領、中国の南米大陸横断鉄道計画に懸念を表明
さらに中国政府および中国企業の問題点は、破格の経済支援や格安の工事引き受けをぶち上げるのですが、実現の段になるとそれを安々と反故にすることです。かねてより本メルマガでも論じているインドネシアの高速鉄道では、中国開発銀行が融資認可を下さないため、着工が遅々として進んでいません。しかも土地収用も6割程度しか済んでおらず、前途多難です。
● 中国受注高速鉄道、融資認可待ちで着工足踏み
2012年に完成する予定だったとされるベネズエラの高速鉄道も、中国が採算無視で受注したものの、結局は工事が続けられず、ほとんど放棄された状態になっています。すでに中国側の建設スタッフはほとんど撤退しており、建設現場に残された金目のものは現地住民に持ち去られてしまったという悲惨な状況のようです。
● ほぼ放棄!中国受注のベネズエラ高速鉄道計画、インドネシア「日本に任せれば良かった?」
これも以前のメルマガで書きましたが、私が2013年に訪れたポーランドでも、中国企業が受注した高速道路建設が頓挫し、ブツ切れ状態のまま放置されていました。この高速道路はワルシャワと各地を結び、さらにはドイツまでつなぐ計画で、2009年に中国海外工程(COVEC)が欧州企業の6分の1という破格の費用で落札したものです。当初は中国企業によるEU初の大型インフラ受注ということで注目を集めましたが、結局、採算が合わずに途中で工事が中断していたため、2011年、ついにポーランド政府は同社との契約破棄を通告したのです。
● 中国、欧州高速道建設が頓挫 資金繰り悪化
このように、中国政府と中国企業はかなり強引に対外インフラ建設を推進してきましたが、あまりに自分勝手で計画性もなく、札びらで頬を叩くようなやり方で進出していきながら、現地の雇用を生まず、利益優先で現地住民を奴隷化したり環境破壊を繰り返し、さらに採算が取れないとなるとすぐに放棄、撤退してしまうため、現地からは非常に嫌われているというのが実態なのです。
中国に対する嫌悪感が世界的に拡散している現状は、「シノフォビア(Sinophobia)」(中国嫌い)という言葉がよく使われていることからも理解できます。
2016年のイギリスのEU離脱、そしてトランプ大統領の誕生など、世界では脱グローバリズムの動きが加速しています。資本や人の自由な移動によって、外国企業に自国の産業が乗っ取られ、移民に職を奪われることへの拒否感が強くなってきています。
アメリカ独覇以降、グローバリズムが世界に拡散していくなかで、外資を取り込み急成長したのが中国でした。そして経済大国となった中国は、グローバリズムの波に乗り自国の資本力を武器に他国への影響力を強め、中国企業を進出させ、地元の雇用を奪い、現地の文化風習を無視して地域社会や環境を破壊し、文化摩擦を起こしてきたわけです。まさに中国および中国企業はグローバリズムの負の面をすべて体現していると言ってもいいでしょう。
脱グローバリズムの時代は、この迷惑な中国企業の拡散をいかにして食い止めるかということが、ますます大きなテーマになってくると思われます。