時局コメンタリーより転載
「台湾の声」編集長 林建良(りんけんりょう)
●党内基盤が崩れる馬英九
台湾総統、馬英九の支持率低下が止まらない。3月19日に
発表された国民党寄りの雑誌「遠見」による世論調査では、つ
いに23%にまで落ち込んだが、原因は無能の一言に尽きる。
かくして馬英の党内基盤も崩れかけている。国民党の御用学者
で知られている南方朔も馬英九を明の崇禎皇帝に例え、うぬぼ
れて能無しの亡国リーダーだと扱き下ろし、馬英九の再選はな
いと言い切った。甘いマスクだけで頂点に登った馬英九は元々
国民党内では磐石ではなかった。
支持率の低下で孤立感が深まるや、急遽長年の側近である
金溥聡を呼び戻し、国民党の幹事長に据えたが、党運営に携わっ
たことのない金氏の独裁的運営に反発が大きく、采配下の立法
委員補欠選挙の連敗も相俟って、馬・金コンビの不敗神話もつ
いに完全に打ち破られた。
●党勢向上できない民進党
一方、民進党は、立法委員補欠選挙の勝利で勢いがついたか
に見える。実際、今まで党内基盤がほとんどなかった蔡英文主
席は、この勝利によってようやく実力を認められるようになっ
た。だが、党勢全体の向上にまでには至っていない。
その理由は八年間の政権担当の総括を行っていないことだろう。
政権喪失の最大理由である汚職と腐敗に対する反省の姿勢も見ら
れず、未だに陳水扁擁護の勢力が主力となっている。
更に政権担当時代に中枢にいた長老たちも政治責任を果たす
ことなく、重要ポストにしがみついている。つまりこの政党は、
国民の心情から大きくかけ離れているのである。それでいなが
ら年末の行政院直轄市(台北市、新北市、台中市、台南市、高雄市)
選挙での候補選びで、赤裸々の闘争を展開している有り様だ。
●与党も野党もだらしない
こうした中、呂秀蓮前副総統が「96コンセンサス」を打ち
だし、三十程の団体から賛同を得ている。「96コンセンサス
」とは1996年に行った直接総統選挙によって、台湾の民主
化が完成し、完全な独立国家になったとする概念だ。つまり、
難しい憲法制定や国名改正などの法理的独立の正道を避け、現
存の中華民国体制のままで独立国家であることを再度宣言する
との近道独立論だ。
一方それに対抗するように民進党党本部は「10年政治綱領」
を制定すると発表した。その具体的の内容は正式に発表されて
いないが、現体制の固定化を図る狙いであるようだ。何れも問題
の根本である中華民国体制に真っ正面から取り組む気概のない付
け焼刃的発想だ。このように与党も野党もだらしない光景は、まる
で日本にそっくりだ。