【論説】富士康(Foxconn)反撃の影響

【論説】富士康(Foxconn)反撃の影響

   アンディ チャン

従業員40万人以上を抱えるIT下請け業会社富士康(Foxconn)の深セン工
場で自殺者が12人も出て、世界的ニュースと発展したが、実情はかなり複
雑で、中国中央の発表した業者の労働者搾取とは違う。太子黨の乗っ取り
説もかなり信憑性がある。

このあと富士康(Foxconn)のオーナーが賃金を上げて収まったが、そのあと
オーナーが賃金120%値上げという前例のない反撃をしたので世界的な経
済問題に発展した。分析を加えてみよう。

●自殺が相次いだ原因

下請け業者の富士康(Foxconn)は中国側の新聞が攻撃した、低賃金で労働
者を搾取したから自殺者が相次いだのではなく、実際に会社の待遇も格段
によかったといわれる。

一番最初に自殺がおきた原因は、アップルのiPhone 4Gの最新プロトタイ
プを失くしたエンジニアが、まだ売り出されていないiPhoneの原版を紛失し
ので引責自殺したと言う。自殺したものには保険金を支払わないが富士康
(Foxconn)のオーナーが死者に対し、台湾元で120万元の慰撫金を支払
ったという。この金額は深セン労働者の賃金を900人民元とすれば、約23
年分の月給に相当する。

慰撫金が中国人の水準ではかなり高額だったので、続けて自殺者が出た
のが真相らしい。この他にも太子黨関連の企業が富士康(Foxconn)の乗っ取
りを画策していたという説もある。飛び降りで受けた傷の外に、死体に刺し傷
があったという記事もある。

富士康のオーナー郭台銘氏が深セン工場に新聞記者300人を招待して説
明会を開いた翌日、第13人目の自殺未遂が起きた。オーナーは数日後の
株主総会で13人目の男の遺書をスライドにして公開した。自殺未遂の男が
父母に当てた遺書には、会社の高額な慰撫金目当てに自殺すると書いて
あった。富士康オーナーは自殺者には慰撫金を出さないと発表した。

アップルのiPhone 4Gのプロトタイプを失くした事件でも、産業スパイが盗み
出した最新型モデルで海賊版を作る、またはプロトタイプを真似て独自ブラ
ンドのiPhoneを売り出す可能性もある。

●富士康の反撃

政府の差し金と思われるが、中国の新聞は富士康(Foxconn)が低賃金で長
時間の労働を強いる悪業者と宣伝した。富士康(Foxconn)は労賃を33%上
げると発表した。

ところが賃金値上げのあと、郭台銘氏は続いて第二次賃金60%値上げを
発表、続いて第三次賃金120%値上げたを発表したので大騒ぎになった。
しかも郭台銘氏は株主総会で工場を台湾に移すと示唆したのである。

中国政府が悪徳業者として富士康(Foxconn)を攻撃したのに、賃金二倍の
反撃にあって、同じ時期に起きた、ホンダのストライキだけでなく、天津、江
蘇省、上海などで賃金値上げのストライキが相次いで起きてので中国政府
は対応に困っている。つまり賃金問題で富士康(Foxconn)を攻撃したつもりが
賃金問題で反撃されたのだ。

労賃が120%になれば下請け業の労働者は喜んでも会社は儲からない。下
請け業とはOEM(ブランド商品委託製造)のことで、富士康(Foxconn)が請け
負った幾つかの会社,Apple,HPなどの製品を製造することである。発売
会社つまり資本家は下請け業者に競争させて製造価格をどんどん下げる。
過当競争の結果として下請け業の利益は薄く、いずれも3-5%ぐらいで請負
って量産で儲けるのだ。

富士康(Foxconn)の発表によると、これまでは労働者の月給900元だったの
が一挙に2000元まであがり、月給のほかに無料の宿舎、食事、医療保険、
超過賃金、ボーナスなどを加えれば、工員一人につき毎月4000元の資本
がかかる。これは台湾における(質の高い)労働者の月給2万元に相当する
から、中国で製造する旨みがなくなる。

これまでは中国の労働賃金が他国に比べて低かったので各国は競争でき
なかったが、富士康(Foxconn)が賃金を120%上げたら中国に工場をもつ下
請け業者も賃金を上げなくてはやっていけない。しかし3-5%で請け負って
いた下請け業が労賃を二倍に上げれば完全に赤字となり、破産して会社を
売りに出しても買い手がつかない。中国の労賃が高くなれば会社を台湾に
戻すか、ベトナムやインドに移すことになる。つまり中国の製造業は富士康
(Foxconn)の労賃値上げで軒並みつぶれる。中国政府は手痛いしっぺい返
しを食らったのである。

●相次ぐストライキと政府の困惑

中国に進出したあらゆる業種は賃金二倍のショックを解消することで
頭を悩ましている。中国政府はストライキの対応とともに業者の国外
流出を心配している。

中国は主に台湾から投資した下請け業社のお陰で経済大国にのし上が
ったが、富士康(Foxconn)の賃金値上げで一挙に国際競争力を失った。
中国労働者の賃金値上げ運動は労働者だけでなく、官僚の月給値上げ
になりインフレが進む。労資運動が革命になる可能性もある。

富士康(Foxconn)の郭台銘は株式総会で台湾に工場を移す可能性も考慮
していると発表した。台湾の中華民国政府は喜んでよいはずなのに、
メディアは中国に気兼ねして富士康(Foxconn)の里帰りを喜ばない記事
を書いている。労働力の安い中国内部に進出して中国人の購買力を上
げろと言う。しかし中国内陸の購買力が増加してもいずれは賃金値上
げストライキが起きるので、台湾に帰る方が有利なのは明らかだ。馬
英九は台湾の経済に無関心で中国の経済力の低下を心配している。

●労働者植民地の変遷

中世期に始まった産業革命いらい、業者(資本家)は常に安い労働力
を求めていた。奴隷を使って生産していた資本家は奴隷解放運動がお
きて奴隷を使えなくなると未成年者を使い、やがてそれも出来なくな
ると賃金の安い外国に生産拠点を移すようになった。つまり「労働植
民地」が生まれたのである。

この傾向は現在に至るまで変わっていない。戦後の日本は安い賃金で
終戦後の労働植民地となり、メイドインジャパンが世界に普及したが、
やがて日本の労賃が上がると生産拠点は日本から台湾、そして台湾か
ら中国へと移っていった。中国の労賃が上がると生産拠点はベトナム、
インドなどに移っていく。

米国の場合は労働組合が強力で工場を外国に移すのが困難となった自
動車産業は、労賃を下げることが出来ないので技術開発を怠るように
なり、日本の自動車産業に負ける結果を招いた。

労賃が安い中国にはいろいろ他国にない問題を抱えている。高官の介
入、地方官吏の汚職、外国の技術を盗んで国産工場で生産する、模造
品、海賊版、地元のワイロとヤクザの介入など。労働者もヤクザの紹
介を必要とする地方が多く(ヤクザの口入れ業である)、労働者はヤク
ザ組織に上前を撥ねられる。官僚が結託して工場を乗っ取るなど話題
は尽きない。

道徳心の低さが問題化して各国から購買を拒絶される。食品産業では
毒ギョウザや毒ミルク、ボール紙の入った肉まん、。玩具業は有毒ペイ
ントの使用。建築材料では有害物質の入った壁板などである。

●賃金値上げの革命

富士康(Foxconn)が一気に中国の労賃を二倍に上げたので、中国の加工
産業は大打撃を受けて労働植民地の外国逃避が起きる。これは一種の
賃金革命と呼べるが、波及効果は中国にとどまるのではない。

賃金値上げは下請け業者とブランド会社の間で交わすOEM契約の値
上がり、そして生産値段が上がれば販売値段に波及して、産品インフ
レを起こす結果となる。富士康が起爆剤となったインフレはどこまで
波及するかわからない。これまで中国で生産されていた物資はすべて
価格が高騰するのは間違いないだろう。世界的なインフレになること
を覚悟しなければならない。


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