【誤解与える産経の台湾報道】国民党の反動勢力とは早々に縁切りを

【誤解与える産経の台湾報道】国民党の反動勢力とは早々に縁切りを

ブログ「台湾は日本の生命線」より。ブログでは関連写真も↓
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■産経は相変わらず国民党などにベッタリか

中共の独裁政権とベッタリとされているのが朝日新聞なら、かつて蒋介石・経国の国民党独裁政権とベッタリだったのが産経新聞だ。今日でも国民党への媚びの姿勢が続いていることは、台湾ウォッチャーの間では常識である。

四月二日に掲載した「きょうの人」欄などもその一例だろう。

蒋介石の曾孫であり、一月の立法委員(国会議員)選挙で当選した蒋万安氏を紹介しているのだが、日本で殊更話題にすべき人物かというのが私の抱く疑問だ。

たしかに台湾で蒋家の一員でありながら、選挙中に有権者への贈賄の疑いが持たれるなどで話題を呼んではいたが・・・。

■蒋介石・経国を褒め讃えるのが目的か

ちなみにタイトルは“蒋介石のひ孫はイケメン議員、蒋萬安さん(37)「国民党の役割終わってない」”。

次のように蒋万安氏を紹介する。

―――総統選と立法委員選でともに大敗した国民党は「歴史的な役割を終えた」との指摘もあるが、そんな逆境も「結論を出すのは早すぎる」と意に介さない。「民主進歩党も(下野した)2008年、20〜30年は再び政権に就けないと思っていたはず。国民党の将来も簡単には言えない」

そして最後はこんなことも。

―――曾祖父の蒋介石よりも祖父の蒋経国への思い入れが強く、小さいころから書籍や年配者の話から業績は知っていた。ただ、立候補して一般の有権者に接すると、年配者も若年者も蒋経国の印象は「想像を超えて」良く、懐かしそうに語ってくれたことに感動したという。

―――「祖父は総統でありながら人々の手に触れ、生活を理解し、心の声を聞いた。自分もそれを学びたい」

結局は蒋介石・経国を褒め讃えるのが記事の真の目的ではないのか。そんな疑いもよぎった。

■これでは台湾で進行する動きが理解できない

そしてあまり感心できない内容である。

なぜなら台湾では五月に国民党から民進党への政権交代が行われるが、そこで本格化するであろう一つの重要な動きに対する読者の理解が妨げかねないものだからだ。

その動きとは、「移行期の正義」(轉型正義=Transitional Justice)を実現に向けてのものである。

国民党が蒋介石・経国の独裁政権が行った二二八事件や白色テロなどによる殺害、人権侵害や、公有財産の奪取、洗脳教育等々の不正を明らかにし、その責任を追及することで、民主化を完成させる、というのが台湾における移行期正義である。

台湾では独裁体制からの脱却、つまり民主化は無血で行われ、旧体制への糾弾はいまだ不十分なままなのだ。たしかに二〇〇〇年から八年続いた民進党政権はそれを試みたが、国会議席の過半数を国民党に占められていたため道半ばで終わり、そして〇八年以降の国民党政権下では頓挫、または後退を余儀なくされているところだ。

■虐殺・人権弾圧の責任逃れに必死な国民党

次期総統の蔡英文・民進党主席は二月二十八日の二二八事件記念日に開かれた虐殺犠牲者の追悼式典において、「真相・和解委員会を発足させ、法律を制定し、事件の真相を明らかにし、あの暗黒時代にピリオドを打つ」と表明した。

そして移行期正義の意義を次のように論じている。

「二二八事件後の独裁時代、確かに社会は平和に見えた。しかしそれはみなが国家暴力を恐れ、話したいことも話せなかったから。平和に見えたものはすべて強迫された上での演出だった」

「特務による統治がすべての人々の口を封じた。たとえ親戚、友人、隣人とであっても政治は語れず、自分の心も語れなかった。普通の人生や純朴な社会が国家によって歪められた。これこそ二二八事件や白色テロ、独裁統治が台湾に与えた最大の傷なのだ」

「移行期の正義を達成は簡単ではないが、しかし真相究明、正義と理想は放棄しない」

「真相が究明されて初めて和解ができる。和解があって初めて団結ができる」

なぜ「和解」「団結」が強調されたのかといえば、「過去にこだわっては社会を分裂させることになる」といった国民党サイドの宣伝に、多くの国民が惑わされ、洗脳されているためだ。

責任逃れに懸命な国民党の抵抗は相当なものなのだ。

■求められる虐殺の首謀者・蒋介石の責任追及

三月二日に発売された台湾誌「今周刊」が発表した世論調査結果によると、「移行期正義は達成されていない」との回答は七六・三%に及んだ。

年齢別では二十代が七九・五%で、四十代は八三・一%にも達している。また民進党支持者では八三・一%で、国民党支持者ですら六六%もがそう回答した。

こうした結果を受け、同誌は「(移行期正義は)民主化達成までの最後の一マイル。そして多数の民意に支援されている」と書いている。

そうした状況の中、高まっているが蒋介石の「罪」の究明を求める声だ。たとえば国民党によって隠蔽され続けてきたが、二二八事件で住民大虐殺を命じたのは、他ならぬこの人物なのだ。

台湾本土派(反国民党)の知識人らが作る台湾国家連盟は二月二十四日の記者会見で、民進党新政権に対して次のようにアピールした。

「二二八事件の最大責任を負うべきは蒋介石であることを承認するとともに、事件の動向と密接な関係を持つ蒋介石・経国の日記や関連資料を、個人や国民党の所有物としてではなく総統の文物とし、政府として公開するべきだ」

二月二十八日以降は大学など全国各地で建てられた蒋介石の同像が、次々とペンキをかけられるなどした。

■観光スポット「中正記念堂」は独裁者を讃える施設

こうした銅像について、「以前、蒋介石は偉大だと考えられたが、今日の教育の観点から見るとどうだろう」と語るのは民進党政権時代に教育部長を務めた杜正勝氏だ。

同氏は最近書いた著書の中で、こう書き綴っている。

「蒋介石が死去した後、国民党は彼に帝王の身分を与え記念堂を建てた。?介石が行ったことは、人権面に関しては誤りがあったのではないか。今日我々はいかなる社会を追求するべきか。今日の人類にとっての主流価値とは何なのか。今の時代の民衆、人権という視点から彼が過去に行ったことを考え、記念堂を処理すべきだ。これが移行期正義の実践というものなのである」

この「記念堂」とは観光スポットとしても有名な台北の中正記念堂のことだ(「中正」とは蒋介石の名)。

杜正勝氏が教育部長在任中、移行期正義の一環として「台湾民主記念館」と改称されたが、国民党政権が発足すると旧名に戻され今日に至っている。移行正義の頓挫とはこういうことなのだ。

■こんな中華民族主義勢力と歩調を合わせる産経

一方台湾人による移行期正義の動きなどに苛立ちを隠せないのが、蒋介石・経国への忠誠心を忘れない国民党内部の在台中国人勢力だ。

たとえば?介石と共に亡命して来た軍人やその家族らが中心の黄復興党部といったグループがその代表だろう。

台湾社会の台湾本土化に対抗し、台湾人への憎しみをバネに結束を固めている。先の選挙で惨敗した国民党が、本土化による党勢挽回が求められているにかかわらず、三月二十六日に行われた党主席選挙で中華民族主義者の洪秀柱氏が当選したのも、こうした反動勢力の後押しがあったからだが、こうした勢力と日本で歩調を合わせ続けるのが、残念ながら産経なのだ。

今回の問題の記事のタイトルにある「国民党の役割終わってない」だが、例えば中共が国民党に期待する「役割」は、やはり何と言っても「聯共制台」の更なる深化、強化だろう。つまり中共の操縦下で、台湾人の台頭を抑止し、「統一」(台湾併呑)へと結びつけるという統一戦線(共同戦線)工作への呼応だ。

■台湾本土化の動きは日本にとっても重要

国民党も今後反動化が進むなら、おそらくその期待に沿おうとするはず。そもそも同党の「聯共制台」とは、民進党など台湾人の民主化勢力への怨みを発端とするものだからだ。

かつて国民党とはお互い反共の立場で結ばれていた産経だが、今や同党がこのように親共、媚共に転じているのを知らないはずがあるまい。

移行期正義を求める動きに象徴される台湾本土化(脱中国化)の動きは、中国の脅威の前では台湾と一蓮托生である日本にとっても非常に重要であり、何としても支持すべきことなのだ。

だから産経は、そうしたことを妨害するためなら中共との提携も辞さない国民党の中華民族主義勢力などとは、早々に縁を切った方がいいだろう。

今回の記事はどう見ても、彼らの歓心を買うために掲載したものとしか受け取れない。

だいたい、そこで持ち上げられた蒋経国にしても、かつて特務機関の親玉として白色テロを指導し、蒋介石の独裁体制を支えたのが他ならぬこの人物だ。一九四九年から五三年まで台湾省主席を務めた呉国?は彼の特務統治についてこう回想する。「不法逮捕された者は数知れない。台湾は完全な警察国家となり、人民に自由は完全に鎮圧された」と。統計では、「一人を捕らえるため、疑わしき者を百人逮捕する」という政治犯狩りで十四万人もが逮捕され、そのうち三、四千人が殺されている。

たしかに台湾では総統就任時期と経済成長の時代とが重なり、また戒厳令を解除したことから、国民党が「民主の父」などと礼讃する宣伝も奏功し、蒋介石ほどは批判されていないし、人気も高い。しかし産経までが国民党と同様の宣伝に手を染めてどうするのか。「孫の発言を紹介しただけ」と言うのだろうが。


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