宮崎正弘
台湾民主化に命がけで協力した日本の快男児がいた
あの白色テロの時代に果敢に民主化のビラをまいて捕まった男の物語
副題は「白色テロの見聞体験記」とあるように独裁政治下の台湾へ潜り込んで、台湾独立のビラをまいて逮捕された日本人がいた。拘置所暮らし四ヶ月。名前も「まさしげ」。ただし本書に拠れば「まさなり」と発音するらしいが、ともかく因縁深い。
じつは、この本、評者(宮崎)は前にも読んだ記憶があるとおもって調べたら、著者がかつて私家版で出版されたものを直接本人からいただいたことを思い出した。
小林氏は中卒でメッキ工場の丁稚小僧からたたきあげ、苦労して妻帯、子だからに恵まれ町工場を経営していた。ある日、誘われるまま、なんの予備知識もない台湾へ観光へ出かけた。幹事役は台湾で中学同窓会を挙行するため、飛行機をチャーターしての団体旅行だった。
行く先々で友人を作り、独立派の闘士と意気投合し、台湾とは抜き差しならない友情で結ばれる。
全編に流れるのは限りない台湾への愛、その土地に暮らす人々への深い愛に貫かれている。
小林氏は、前後して在日の台湾独立派の同志らと交遊し、その活動にのめりこんだ。黄昭堂(台湾独立健康連盟主席 故人)を「兄貴」と呼んだ。
周英明、宗像隆幸、黄文雄の各氏らとともに闘った。許世偕・元駐日大使とも深く交遊があった。それらの日々、青春のエネルギー、横溢する精神が行間に滲み出ている。文章には修飾がなく、つまり飾りっ気がなく、衒学的な箇所は一箇所もなく、素朴といえばあまりに素朴。だからこそ読者の心に訴える何ものかがあるのだ。
最初の本(私家版)を読んで感動したのは評者ばかりではなかった。李登輝総統が感心し、「こういう日本人がいたことに驚いた」と率直な感想を述べている。
「戦後台湾の白色テロの時代に、台湾の民主化を要求するビラを気球に積んで台北の空からばらまいたとは、当時を知る私には信じがたい事実だ。我が身を省みず台湾のために尽力した日本人は少なくないが、小林氏もその系譜に連なる窮行実践の人だ。本書は、台湾の民主化の影に日本人も関わっていた歴史を証す台日交流秘話と言ってよい」
と推薦の言葉を寄せられたが、評者は、この言辞を前にすれば、もはや付け加える言葉を知らないのである。