(転載自由)
「台湾の声」編集長 林 建良(りん けんりょう)
米中間は本格的な貿易戦になる様相だ。この戦いがどっちに有利で、どっちに不利かの分析は経済の専門家に任せよう。米中貿易戦に関する様々な議論の中に一つだけ、ほぼすべての専門家の意見が一致しているものがある。それは、トランプ政権は民意や業界団体からの圧力を受けなければならないが、中国はその圧力を受けなくて済むということである。つまり、こうした貿易戦において民主国家は制度的に独裁国家よりも弱いというのだが、本当にそうなのか。
中国が赤い資本主義と言われるゆえんは、権力者とその家族が国家権力を使って利益を独占しているからだ。彼らは電力、エネルギー、インフラ関連などの許認可が必要な分野はもちろん、大口の貿易関連事業からも、天文学的な財富を得ている。しかも彼らの親族の多くはアメリカ国籍を持ち、アメリカで中国関連のビジネスに従事している。米中貿易戦になると米中双方に拠点を置く彼らは、どちらからも報復関税の攻撃に晒されてしまうであろう。この戦いが続く限り、彼らの出血は止まらない。まさに死活問題である。その彼らが大人しく、嵐が過ぎ去るまでじっと我慢するとは考えにくい。
そもそも、赤い貴族と言われる彼らは権力の核心とつながりを持つ一握りの人間だから、こうした問題に直面した際に、何もしないという選択肢はないはずだ。中国人にとって、金がすべてなのだ。国が損するかどうかにそれほど関心を持たない中国人だが、自分が損することになると、必死になる。赤い貴族も例外ではない。中国では権力と利益とは一体両面のものである。利益が失われるときには、権力の闘争も熾烈になる。習近平にとって、この圧力は、決して、民主国家における民意の圧力より弱いということはない。下手すると、政権そのものが顛覆させられてしまう可能性すらある。
中国の経済力と国際影響力が頂点に達したときに国の指導者になった習近平は、内部の権力闘争には長けているかもしれないが、権力の座についてから本格的な危機に遭遇したことがない。本物の指導者なら、権力の集中によって危機を解決するが、無能な指導者は危機に瀕した際の権力の集中が逆に命取りになりかねない。権力の集中を図る習近平は、ある意味で、仲間を縮小させ、敵を拡大させているのである。経済がうまくいっているときに金儲けに勤しんでいた習近平の政敵が、この貿易戦をきっかけに動き出すということは当然十分に考えられる。
歴史に鑑みると、独裁政権が外部の勢力や人民蜂起よりも内部勢力によって顛覆させられた例が多い。中国の歴史も例外ではない。トランプは、貿易戦で選挙に負けるかもしれないが、習近平は命さえも失いかねない。これにもかかわらず、「中国は制度上、貿易戦に強い」と言えるのだろうか。
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